■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

Link 〜過去の住む家〜 作者:藤野麻衣

第4回   #Nightmare 2# 序章
「来る…って一体何が…何でそんな急に…」
「急じゃない。言ったでしょ? この家は負の感情に支配されてるって」
「そーゆー意味だったのか? アレ」
この状況を嘘だと思えたらどんなに楽だろう。
だけど俺にも分かってた。後ろにある、外へ出る扉が開かなくなってる事くらい。
それもただの勘だったけど。
「おい…これか…………」
話し出そうとする俺を、あいている方の手で制するスミレ。
「誰か……来る」
彼女はそう言ったけれど、足音も何も聞こえない。
背中が寒い。
これが、彼女が言った「誰か」なのか。
それともただの隙間風? 俺の思い込みなだけなのか。
「アラン! 走るよ!」
小さい体の何処に、そんな力を隠していたのだろう。
彼女は俺を思いっきり引っ張って、走らせた。
俺には何も見えない。何も理解できない。
「スミレ。何がどーなってんだよ!」
「分からない! だけど! 追ってきてるの!」
何が俺たちを追っているのかは考えたく無かった。だって俺には見えなかったから。
「帰ったらあの不動産屋ぶっ殺してやる! こんな家紹介しやがって!」
「生きて帰れたら言って! そんなこと!」
長い長い廊下を全速力で走る。
何も見えない。だけど、時折背後に冷たいものを感じながら。
「取り合えず此処に!」
ようやく辿り着いた廊下の先にあった、部屋になんとか滑り込む。
相手は目に見ないものだから、それ程持ちこたえることができない事はお互い分かっていたけど。
「アラン、冷静に考えてみて。この家…部屋を見て、何か普通に考えておかしい所はないか…って」
少し息を整えて、スミレは言った。
「私じゃ、可能性が頭に浮かびすぎて、ハッキリ頭の中で整理できない…だから…」
返事の代わりに、彼女の手を握り返す。
心を落ち着けて、部屋を見渡した。
床には赤茶色の絨毯が敷いてある。奥にある暖炉の前には、すわり心地の良さそうな椅子。
小さな木製のテーブルの上には、飲みかけの酒だろうか? ビンが置いてある。
全体的に部屋は綺麗に整っている…。
この部屋の何が「おかしい」かって?
「おかしい。それは…」
横にいる彼女の視線を感じながら、考えてみる。
そう、この部屋の「普通では考えられない事」それは…。
それは…。

「変に綺麗すぎないか? この部屋。誰も長い間使っていなかったのに」

飲みかけの酒も、何色かがハッキリ分かるこの絨毯も。
妙に生活感を放っていた。
そう、外はあんなに廃墟のようだったのに。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections