その家の敷居を跨いだ瞬間、彼女は何かがおかしい。と思ったらしい。 珍しく、俺の目を見て言った。 「ねぇ…アラン。この家…かなり負の感情に支配されてる……」 「そうか? 俺には全くわからないけど」 その家は、かなり古かった。 家の周りの草は伸び放題。折角のレンガ造りなのに蔦が絡まって、雰囲気が悪い。 蔦の隙間から見える屋敷の窓はステンドガラスっぽかった。 建てられた当時はかなり美しい屋敷だったんだろう。 「まぁ、中に入ってみようか。スミレ」 彼女の話を軽く受け止めて、続けた。 ちなみに、不動産会社の奴は急用が入ったとかでドタキャン。結局2人で見に来ることに。 「ったく…不親切な会社だよなぁ…」 ぶつぶつ言いながら屋敷に一歩足を踏み入れる。
その瞬間。
後ろから思いっきり腕を引っ張られた。 「どーしたんだよ、スミレ」 普段なら、彼女は俺が触れる事も拒むはずなのに。 彼女はしっかりと俺の腕を掴んでいた。 多分、結婚式以来だと思う。 「もう、後戻りは出来ない。って言ってる。だから、離しちゃ駄目だよ」 それは突然だった。 俺には彼女が何を言っているかが分からなかった。 「スミレ…何言ってるんだ? 急に」 「この家が、言ってる。私たちはこの屋敷に足を踏み入れてしまった。後戻りは出来ないって」 こういう出来事は珍しくなかった。 だって彼女は元悪魔≠セったから。 「どうして。後戻りは出来ないんだ?」 「分からない。だから離さないで。私の手を」 そう、やはり結婚式以来だった。彼女と手をつなぐのは。 何年経っても鈍ることの無い。彼女の勘。 小さい手が俺の手を握っていた。
カーン カーン カーン カーン
この家にある筈の無い、鐘の音が鳴る。 その音は、俺達にこれからくるものを「警告」していた。 俺の手を握る彼女の手に力が入る。 「アラン、来るよ…」
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