「だけど、どうして…俺だったのかなぁ? 他にも妹がいる男なんて沢山居るぞ?」 背中の傷が歩くときに痛むので、俺はスミレに支えてもらいながら屋敷の出口へ向かっていた。 「んー…きっと彼女には分かってたんだよ。アランに妹がいて、その妹の生死がハッキリ分からなくて…。 彼女の話を信じてしまいそうな程の過去を持ってるってことも」 スミレは一旦、此処で言葉を切った。そして俺の目を覗き込む。 「ねぇ…アラン? もしかして……妹さん、生きてたりするんじゃない??」 「え?」 「だって…ハッキリと生死は分からないんでしょ? もし、彼女がアランの妹が生きてるって事を知っていたのなら…。 アランの妹に化けてやろうってのも、死んだ人間に化けるってのよりもっと納得いく話になると思うし…」 俺が黙ったままいると、スミレは慌てて続けた。 「いや、もしもの話だからっ。あんまし気にしないでねっ」 歩みを進めると、外の光が見えてくる。 こうなって初めて分かる。「普通」のありがたさ。 ゆっくりと2人並んで歩くのも。話すのも。 隣に大切な人…家族が居るって何気なく思うのも。 なんて幸せなことなんだろう。 「妹…生きてたら良いな」 呟いた俺の方を見て、スミレは先程まででは考えられなかった笑顔を見せる。 「疑って諦めるより、信じる方が良いよ。今、私たちが此処に居る事が出来るのも信じた結果でしょ?」 「ああ。そうだな」 「大丈夫。また、会えるよ。妹さんが生きてたら…だって家族でしょ?」 一度でも闇に沈んだことがある人とは思えないような言葉。 結婚前のスミレを思い出し、苦笑い。 あの頃、そんな言葉をスミレが言えるようになるなんて誰が想像しただろう。 人は常に変わっていく…。この世界の時が進む限り。 だけど、この屋敷に居た彼女のように変わらない想いを持ち続ける人もいる。 「彼女の過去には何があったんだろうな…」 「あっ! アラン、やっと外だよ!」 2度目の呟きは、はしゃぎ声にかき消された。 スミレは俺を支えてるのを止めて、体を離す。 咄嗟に、俺はスミレの腕を掴んで抱き寄せた。 「おい…っ。ちょっとアラン…っっ。てめぇ、何すんだ…っっ!!」 「有難う。スミレ。スミレがいなかったら俺、どうなってたことか…」 腕の中で暴れていた彼女は、急に大人しくなった。 「………………………………こっちこそ、守ってくれて有難うね」 「ん?」 頬を赤く染めて、ボソッと言うから、スミレの声がよく聞き取れなかった。 「何て言ったんだ?」 再び、彼女は暴れだす。 「2度と言うもんかっ。つか離せっ。この変態野郎っ!」 「変態野郎って…」 彼女の体から腕を解く。 まるで、空に放してもらった鳥のように、彼女は俺から離れた。 本当に…先程までの出来事が夢のよう。 「アランっ」 ボーっとしていると、前の方で俺を呼ぶ声がする。 目を向けると、スミレの向こうにこちらへ走ってくる人影が見えた。
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