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Link 〜過去の住む家〜 作者:藤野麻衣

第12回   #Nightmare 10# 散りゆく薔薇に
俺はスミレに助けを求めた。
せっかく彼女が俺達を信じる方に傾いてきているのに、答えを返さない訳にはいかなかった。
「…………………あなたの本当のお兄ちゃんは上の世界に居る。すぐに会えなくとも、時機が来たら必ず会える」
スミレは落ち着いた声で、そう言った。
「時機って何時なの? 私はもう十分待ったよ。もう待ちたくない」
彼女は、俺の脚を掴む手に力をこめた。
もう大分、俺の脚の感覚がなくなっている。
彼女を説得するには、兄の居場所を伝えなければならない。
だけど、どう足掻いたって兄の居場所を断言することは出来ない。
だって俺たちは彼女の「兄さん」を知らない。
それに嘘をつけば、また、状況が悪化してしまうから。
そのはずだった。
「大丈夫よ。あなたのお兄ちゃんは天国にいる」
スミレが発したその言葉に、俺は目を丸くした。
先程言った言葉と違い、スミレの声は力強かった。
そして、俺に「信じろ」と目で訴えてくる。
「ったく…分かったよ…」
俺は彼女の方へ視線を戻した。
「お前の兄さんは天国にいる。きっと上の世界で、兄さん、心配してるぞ。早く行ってやれよ」
優しく、言った。
彼女は俺の目を見つめる。
「もう苦しむな。独りで抱え込むなよ。大丈夫だから」
「天国、私、行けるかなぁ…?」
再び、彼女の瞳から涙が溢れる。
俺は静かに頷いて言った。
「今のお前なら、大丈夫だ」
安心したように、彼女は俺の脚から手を離した。
「ごめんなさいぃ…。怪我。痛いの、私のせぃ…っっ」
「大丈夫だから。大丈夫」
泣きじゃくる彼女に、「大丈夫」とだけ言って、スミレに後を任せた。
「何も心配することはないよ。ただ、空からおりている光の筋に入れば良いだけだから」
涙をぬぐいながら、光の筋の方へと向かう。
そんな彼女の後姿を、俺達2人は何も言わずにただ見守っていた。
ゆっくり一歩ずつ。だけど確実に。今度は光の方へと足を進めていく。
そして、彼女は光の中に消えた。
辺りは静けさに包まれ、本来あるべき姿に戻る。
不思議なくらいに俺の心は落ち着いていた。
「なぁ…スミレ? どうして…彼女の兄さんが天国に居るって…」
「アランも父親らしくなったね」
そう言ってスミレはただ微笑んで見せて、問いの答えを返そうとしなかった。

見回した部屋は先程と違い朽ちて、今にも崩れそうだった。
この状況下に置いても、先程までの出来事が夢だったのではないかと思うくらい、平穏な空気が流れている。
だけど、背中の傷跡と、彼女が脚を掴んだ赤い跡だけは残ったままだった。
そして…俺を守り続けてくれた、スミレの手の温もりも。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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