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Link 〜過去の住む家〜 作者:藤野麻衣

第11回   #Nightmare 9# 冷たい君

実体というものがあるその手は、不自然なほど、冷たかった。
寒気がする。何か大きな、得体の知れない感情に飲み込まれそうになる。
それは、哀しみか、憎しみか、愛しさか。今までに感じたことが無い。
「アランに触らないでっっ!!」
スミレがそう言っても、彼女は俺の脚を離そうとしない。
それどころか、ますます強く握り締めてくる。
「触らないでって言ってるでしょうっ!!?」
スミレは俺と手を繋いでいない方の手で、彼女の体を向こうへ押しやった。
…………………つもりだった。
手は彼女の肩を通り抜けた。
「どうして…っっ」
スミレでさえ驚きの声をあげた。
俺の脚を掴む彼女の手は、実体があるのに。
どうして、スミレは彼女に触れることが出来ない?
「貴女。違う。貴女は私たちの絆に入り込めない。ね? お兄ちゃん」
俺と彼女の絆?
じゃあ、彼女に触れられるのは俺だけ?
「いっぱい。長いこと待ったんだもん。もう、誰にも邪魔されたくない。もう、独りになりたくない」
そう言う彼女の目からは涙が溢れ出ていた。
俺の脚を掴んだ手から、感情が伝わってくる。
『寂しい 苦しい もう独りは嫌だ 早く私の所へ帰ってきて お兄ちゃん』
彼女の過去には何があるのだろう。どうして彼女は此処まで苦しんでいるのだろう。
どうして彼女は「お兄ちゃん」にこだわるのだろう。
どうして………彼女は俺の中にある「家族が居た頃の思い出」を求めたのだろう。
彼女には、お母さんも、お父さんもいただろうに。
「スミレ…彼女は、本当に悪霊か…? 俺にはそうは見えない…」
スミレも戸惑い顔を返す。
「さっき…「過去を見た」って言ったろ? 彼女は、俺の「思い出したくない辛い記憶」じゃなくて…。
その前にある、「家族と居た頃の幸せな記憶」を求めた…」
「でももし、それが罠だったとしたら…」
「じゃあ賭けてみようか。このまま居ても何も変わらないだろう? スミレ」
やっと背中の痛みが引いてきたので、体を起こした。
「賭ける? どっちに?」
そう言うスミレと視線を合わせる。
「分かった」
スミレは視線を合わした瞬間、そう言った。
俺は、啜り泣いている彼女の頬に、触れた。
やはり、頬も手と同じように冷たい。
「ごめん。お前のお兄ちゃんになってやりたいけど、俺はやっぱりお前のお兄ちゃんとは違うんだ。
お前のお兄ちゃんは遠く離れた所に…いる」
優しく、なだめるようにそう言った。
そして彼女の反応を待った。
俺は彼女を信じる方に賭けた。そんな俺を彼女は信じるのかどうか。
ゆっくり彼女は顔を上げて、俺のほうを見る。
そして、小さな声でこう言った。
「じゃあ、本当のお兄ちゃん…どこにいるの…?」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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