背中にぶつかった衝撃で、ガラスが割れる音がした。 そして、感じるのは鋭い痛み。声にもならなくて、ただ歯を食いしばってた。 背中が熱い。熱くて、その上痛い。 咄嗟に庇おうとして、スミレ体の上に覆いかぶさっていた。 本当、後先考えずだな。俺。 「アラン! 大丈夫っ!!? 背中、血、いっぱい出てるよ……っ」 「だ、大丈夫…………っっ」 痛みで顔を歪ませたまま、俺は何とか声を出した。 「大丈夫って顔してないよ!? 凄く苦しそうな顔してる…っ」 「いや、この状況で笑ってられる人、いないと思う……」 それでも繋いだままの手を、握り返してもう一度「大丈夫」を伝える。 スミレは痛みで動けない俺の背後に居る、彼女を睨みつけた。 「あんたがやりたかった事ってこれなの? アラン脅して、傷つけて。どうなってるか分かってるよね? 死んでもそれでも未だこの世を彷徨い続けて、家族失っても頑張って生きてきたアランを道連れにするわけ?」 彼女は言葉を発しなかった。 この位置からじゃ、彼女の表情は見えない。 力を振り絞って、スミレの横に体制を崩して、倒れこんだ。 背中が床に当たらないように、そして彼女の表情を見る為に顔と体を横に動かす。 彼女は無表情だった。 「これであなたが行く先は決まった。地獄だよ。何なら私が送ってあげようか?」 スミレは本気で怒っていた。 今、スミレか正体不明の幽霊、どっちが怖い?って聞かれても即答できない程の剣幕で。 彼女は怯えたりする事は無く、無表情のままスミレを見つめている。 「やっぱり、貴女、邪魔。居なくなって欲しい」 感情を出さず、無表情のまま言う。それがかえって恐ろしかった。 だけど。そう思って俺はスミレの手を引っ張った。 「スミレ…っ。ま、また…襲ってくるかもしれないから…っ…やめとけよ…っ」 喋る度に、まだ背中が痛む。 もし再び彼女が襲ってきても、多分俺は動けない。もう守ってやれない。 「大丈夫。自分の身は自分で守るから。それにアランも」 こういう状況下の中でも、そういう言葉を発せられるスミレはとても強い女だと思う。 本当は俺がスミレを守らなきゃいけないのに。だけど、今はそれで良いと思えた。 その言葉に安心させられて、俺は目を閉じる。 痛みがましになるまでは、大人しくスミレに任せておこうか………。 「じゃあ、良いよ。貴女がそこまで言うなら。私、地獄へ行くよ」 彼女の声が、聞こえる。
「……………………………お兄ちゃんと一緒に」
…オニイチャンとイッショに? 先程目を閉じたばかりだったけれど、思わず目を開けて彼女を見た。 彼女は更に近くに居た。 一歩、一歩、また一歩…そして。 立ち上がれない俺の方に手を伸ばして。 俺の脚に、触れた。
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