経済大国セルフィス帝国の貴族、トルテ家。 4代目、ジャス・ヤコフ・トルテ。 私には2つの秘密がある。 1つ。私はトルテ家の長男ではない。三男だ。 2つ。同じトルテ家でも、私は先代の息子ではない。血の繋がりも薄い。 本当は考古学者の父と医者の母を持つ。3代目とは遠い親戚だ。 世界中を飛び回る両親のやっかいものである私と兄(次男)は3代目の家に預けられた。 兄は厳しい3代目とぶつかり、すぐに家を出た。 そこで息子の居なかった3代目が私を跡継ぎにしただけの話。 この話は身内以外知らない。
「セイ・シモン・トルテ…」 彼は私の実兄、一番上の兄さん。 母から聞いていた兄の印象は優しい 初めて、そして最後に会ったのは30年以上前、その時の印象は全く違うものだった────。
「今更何の用だよ! 今までずっと放置してたくせに、都合悪くなったらそいつら押しつけるのか!?」 初めて会った兄さんは、私達を見てそう怒鳴った。 「違うのよ。セイ…良い話があって…親戚の…」 「僕は此処を離れない! 良い加減にしてくれ!」 覚えているのは兄さんの怒った顔と、後ろで怯えていた女の子。 あれからかなりの月日がながれた…。 兄さんは私を覚えているだろうか───?
我に返って辺りを見回した。 まだ来ていないようだ。 近くに会ったベンチに腰掛ける。 顔を上げると、見覚えのある顔が走ってくるのが見えた。 一瞬、昔出て行った次男の方かと思った。身長も殆ど同じ、顔も同じ。 ただ似ていないのは…雰囲気。 あの頃と違って優しい、丸い柔らかい雰囲気だ。 座ったばかりだったが、立ち上がって声をかけた。 「兄さん…」 久しぶり。とまでは声が出なかった。 兄さんはあの頃と殆ど変わっていない。私の方が老けて見えるほどだ。 そのせいか兄さんは一瞬戸惑った表情をした。 「ジャス…?」 「あぁ。久しぶりだな…兄さん」 気まずい沈黙。口を先に開いたのは兄さんだった。 「立ち話もなんだし…家に来る?」
広くも無ければ狭くもない。 綺麗に整頓された清潔な兄さんの家。 我が家とは全く違うな…。 「ジャスは…セルフィス帝国のお偉いさんになったって聞いたけど…」 「亡命してきた」 「え!?」 部屋には奥さん、子供達との写真。 若い(兄さんは4つし違わないと言い張った)奥さんに性格の良さそうな、可愛い子供。 兄さんの家庭はとても幸せそうだ。 一方私は────────…。 「まぁ、色々あってな」 この国は情報網、交通機関が発達していない。しかし「発展途上国」というには豊かすぎる国。 国民が利便性を追求することを拒んでいる。 「この前全てを失った。地位も名誉も家族も…」 「家族も…ですか?」 女性の声が突如割り込んできた。声の主は兄さんの(4つ違いの)奥さん。 「あ…あぁ。妻も娘も国に置いてきた」 「連絡はとってるの?」 兄さんからの問いに私は首を横に振った。 次の瞬間。 「そんなの駄目です! きっと娘さん、奥さん、連絡待ってますよ!」 (兄さんと4つ違いの)奥さんが突如立ち上がって言った。 ……兄さんは唖然として止める気配は無い。 「しかし…こんな私が連絡しても…」 「家族っていうのは絶対切れない絆って神父様も言ってたよ! そんなの寂しいよ…」 その時の悲しそうな目を見て私は悟った。 あぁ…そうだったのか。 初めて兄さんと会ったとき、後ろに居たのは…この人だったのか。
「ごめん…まさか愛莉…妻があそこまで熱くなるなんて…」 兄さんが帰り際、申し訳なさそうに言った。 「おじさん! また来てね!」 「今度は僕とも遊ぼうね!」 「妻は実家が教会で…まぁそれは大して関係ないとは思うんだけれども…」 「大丈夫だ。ところで兄さん…一体子供何人居るんだい?」 「7人」 多…………っっ。 「ジャスさん、ちゃんと家族に連絡してあげて下さいね。待ってると思いますよ」 (兄さんと4つ違いらしい)奥さんが出てきて言った。 「あぁ…有難う。兄さん、愛莉さん」
私は2人に背をむけて歩き出した。 行く当ては…無い。しかし、今は気持ちが軽い。前へと進めるような気がする。 何とかなる。何とか。 目の前の角を曲がったら…家族へ連絡できる場所を探そう。
この話はですね、結構書くのが大変でした(汗 もう、どう展開すれば良いかと…結局、上手くいきませんでした…。 こだわったところと言えば、「兄さんと4つ違いの奥さん」です。 なので妙に作中、しつこく使用(笑 特に意味は無いんですけどね。 この前、大家族をテレビで見たので、子供の人数増やしてみました。
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