或る日・・・ ララ(ガイ・・・遅いなぁ・・・) 時計は9時を指していました。今までガイはどれだけ遅くても夕暮れ時には帰ってきたのです。 ララ(何かあったのかな・・・) 探しに行こうかな?とララは思いました。でもガイには家を出ないように言われていたので、家で帰りを待っていました。 でも、時計が10時を指した頃、流石に不安でどうしようもならなくなりました。大体毎日毎日、ガイは休みもとらずにどこで働いているんだろう?とララは思いました。 それにララの家が強盗に襲われたのも、丁度こんな時間帯です。 ガチャ・・・ いつも夜が怖くて、なるべく早く寝るようにしていたララには、まだほのかに明るい街が少し怖く見えました。 ララ(駄目・・・勇気を出さなきゃ) ガイはどこにいるんだろう?そう思いながらララは暫く家の周りを歩き回っていました。その時です。ララの背筋に何か嫌なものが走りました。 ララ(何!?今のは・・・何?) ある方向から何か変な匂いがします。ララはフラフラとその方向に歩き始めました。 ララ(やだッ、行きたくない・・・!) それでも体が勝手に動きます。やがて暗い路地裏を抜けて、少し開けた場所に辿り着きました。そこは青い月明かりが差し込んでいました。 ララ(・・・!?) よく見るとその一帯の地面は紅く染まっていました。 何人もの黒い服を着た男達が、そこに横たわっています。ララは後ずさりしました。 ララ(悪魔・・・悪魔だから・・・私が悪魔だから・・・) ララは悟りました。自分が悪魔だから、血の匂いに導かれて、この場所に辿り着いたことを・・・そして・・・ ララ「いや・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁッ!!!」 誰にも聞こえない叫び声がその場に木霊します。その時、「うっ・・・」と、誰かの呻く声が聞こえました。 ララ(まさか・・・) ララは恐る恐るその声の持ち主に近づきました。その男は真っ黒な服を着ていましたが、どうやら胸に拳銃の弾を受けているらしく、その部分が赤黒く染まっていました。 そしてその右手の近くには、銀色のナイフが落ちていました。 ララは震える手で、その男が被っているフードを払いました。 ララ「ガイ・・・ガイッ!!!」 ララはある程度分かっていました。そして、そこにいたのは他の誰でもない、ガイアードだったのです。苦しそうな表情を浮かべています。 ララ(あの時・・・あの時とおんなじ・・・) ララは自分が死んだときを思い出しました。神様に悪魔にされ、気づいたら自分の亡骸の上に立っていた自分。目を見開いて、白いワンピースに鮮やかなまでの紅い花を咲かせて死んでいた自分・・・ ララ(駄目・・・このままじゃ駄目ッ・・・!) ララがそう思った瞬間、強い光が2人を包んで、気づいたときには家にいました。ベッドにはガイがいます。 ララ(悪魔の・・・力・・・) 一瞬ララは何が何だか分からなくなりましたが、すぐにガイの手当てを始めました。前に家の掃除をした時に、タンスの中に包帯などが置いてあるのを知っていたからです。 ララは泣きそうになりながら、それでも必死に手当てをしました。 胸には、潰れてしまった青いペンダントがありました。どうやらこれのお蔭で一命を取り留めたようでした。そして手当てが終わる頃には、最初の頃よりもずっと安らいだ表情を浮かべて、ガイは眠っていました。 ララ「ガイ・・・死んじゃ・・・やだよぉ・・・」 ララがそう呟いた時、微かにガイが苦しそうに、何かうわ言を言っていることに気づきました。 ガイ「・・・ぁ・・・ラ・・・ラ・・・」 ララ「ガイ・・・?」 ララはどうやらガイが自分の名前を呼んでいることに気づきました。 ガイの血で真っ赤だった手を握り締めます。すると、ガイはまた幾分か安らいだ表情になりました。そして最後に、ララは汗だくになっていたガイの顔を拭いて、自分も眠り始めました。しかし、ララは気づいていなかったのです。その時、ガイが涙を流していたことに・・・
ララが起きると、もうとっくに日は昇っていました。時計は10時を指しています。 しかし、ガイが起きた形跡はありませんでした。 ララ(死んじゃうのかな・・・) おぼろげにララはそんなことを考え始めていました。 あの時の自分みたいに、死んでしまうんじゃないか、そう思い始めていました。 そんな時・・・ コンコン ララ(誰か来た・・・?) ララがこの家に来て以来、この家に誰かが来たことなんてありませんでした。 ララは危ない人かも知れない、と、悪魔の短剣を握り締めました。 「入るぞ」 野太い声です。暫くするとドアが開いて、中から体の大きな、黒ずくめの男が入ってきました。 ララ(なんだか私を殺した人に似てる・・・) ララはそう思いました。 「おい、ウルフ、いないのか?」 ララ(ウルフ・・・?誰だろう・・・) やがて男は部屋を歩き回り始めました。そして・・・ 「・・・」 男は寝ているガイを見つけました。包帯を巻かれているその姿を見て、「ずいぶんと苦戦したようだな・・・」と呟いたのが、ララの耳に聞こえます。 そして男は机の上に、一通の封筒を置いて、出て行きました。その直後・・・ ガイ「うっ・・・」 ララ「ガイッ!?」 ガイ「・・・ここは・・・」 ララ「ねぇ、大丈夫!?」 ガイは包帯の巻かれた自分の体を見て、それからララを見て、はっとした表情を浮かべて、「・・・まさか・・・」と言いました。 ララ「さっき男の人が来てこれを置いて行ったの。ねぇ、ウルフって誰?一体何があったの!?」 ガイは封筒を受け取りました。そしてそれを苦々しく見つめました。 ララ「ねぇ・・・中に何が書いてるの・・・?」 ララが青い顔で覗き込んできます。その目には泣きはらした後が残っています。 ガイは何かを言おうとして、やめ、そしてベッドに体を横たえました。 ララ「ガイ・・・?」 ガイ「もう・・・本当のことを言わなくちゃ・・・」 ララ「え・・・何のこと・・・」 ガイは答えません。その代わりに封筒を開けました。 「ウルフ。アックス氏殺害の件。よくやってくれた。次回も期待している。ボス」 中にはそうかかれた手紙と、金貨50枚の小切手が入っていました。 ララ「ねぇ・・・これってどういう・・・」 ガイ「ララ・・・僕は・・・」 ララ「ねぇ・・・ガイ・・・ガイって・・・人殺しなの・・・?」 ララの目から涙がこぼれます。それを見て、ガイは苦しそうに言いました。 ガイ「ララ・・・もう僕から離れた方がいい・・・」 ララ「・・・」 ララは何も言えませんでした。あんなに優しかったガイが、人殺しだったなんて、到底信じられなかったからです。 ララ「私のこと・・・騙してたの・・・?」 ララの一言ひとことが、ガイの心に突き刺さります。 ガイ「違う!」 ララ「じゃあなんで!?なんで・・・なんで・・・」 ガイ「君だけには・・・君だけには知られたくなかった・・・」 ガイは苦しそうに呻いて、もう一度「もう僕から離れた方がいい」と言いました。そして・・・ ガイ「殺してくれ・・・ララ。殺してくれ・・・!」 ララ「っ!」 ガイは苦しそうに言います。 ガイ「僕は人殺しだ・・・だから僕を殺して、そしたら君は生まれ変われる・・・」 ララ「できない・・・そんなのできないよッ!!」 ガイ「これ以上僕を苦しめないでくれ!!」 ララ「!!」 ララはガイに背を向けて、胸の前で悪魔の短剣を握り締めました。 確かにガイは人殺しです。毎日嘘をついて、何人の人を殺してきたのでしょう? それでもララは躊躇っていました。人殺しのガイを殺して、自分は生まれ変わる。他人が見ればそれで正しいかも知れません。でもあんなに自分に優しくしてくれたガイを、多分この世界でたったひとり自分のことを見つけてくれたガイを、人殺しという理由では殺せないのでした。ララは食べ物を食べる必要はありません。でもガイと食べるご飯はいつも美味しかったし、ララは眠る必要は無かったけど、ベッドで寝かしてくれるガイのその気持ちが何より心地よかったのでした。ララは人殺しは大嫌いです。でもガイは大好きでした。矛盾した思いが心を締め付けます。 ガイ「・・・」 ララ「・・・」 ガイ「ララ・・・僕は・・・」 ララ「包帯・・・取り替えるね・・・」 ガイ「!!」 てっきり自分を殺すか、そうでなければここを出て行くか、どちらかだと思っていたガイは驚きました。そして「・・・ありが―――」。ありがとうと言おうとして、止めました。ララのその悲しそうな表情。言いたくても、言えなかったのです・・・
その夜、椅子で眠るララを、ガイはじっと見つめていました。 彼女を殺そう。そんな気持ちが芽生え始めます。 ガイ(これ以上・・・) これ以上ララが近くにいたら、自分の方が壊れてしまうような気がしていました。 ガイ(これ以上・・・苦しめないでくれ・・・) ゆっくりと、ナイフの刃がララの首筋に飲み込まれていきます。しかし・・・ しかしララの首筋から血が流れることはありませんでした。 ララは悪魔です。殺せるはずもありませんでした。 ガイ(悪魔・・・か・・・) そして初めてララを、悪魔なんだな、と心から思いました。
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