次の朝・・・ ララが起きると、ガイは椅子に座って寝ていました。 少し疲れた表情を浮かべて、ガイはぐっすりと眠っています。 (起こしちゃ悪いよね・・・)と思い、ララはベッドの中で暫く考えました。 ララ(これからどうしよう・・・やっぱり出て行った方がいいのかなぁ・・・) 自分がいることによって、ガイに迷惑をかけるんじゃないか、そんな考えがララの頭の中を駆け巡ります。 ガイ「っ・・・あ、おはよう。早いんだね」 ララ「え、あ、うん・・・」 ガイ「えっと・・・なんだ、もうこんな時間か。すぐに朝食作るから待ってて」 ララ「ぇっ、あの・・・」 ガイ「?どうかした?」 ララは悪魔です。だからご飯を食べる必要はありませんでした。 ガイ「ふぅ〜ん・・・でも食べられるんだろ?」 ララ「え、まぁ・・・一応」 ガイ「なら食べていきなよ、これでも腕には自信あるんだから」 そう言ってガイは笑顔でララの髪の毛をクシャクシャと撫でました。そして台所でテキパキと調理を始め、あっという間にトーストとサラダとスープとを作ってしまいました。 ララ「おいしい〜!」 ガイ「それはよかった」 ララがあまりにもおいしそうに食べるので、ガイは少し嬉しくなりました。 ガイ「ねぇ、君はこれからどうするつもり?」 ララ「?ふぉううういひ(どういういみ)?」 ガイは笑いながら口一杯にトーストを頬張っていたララに、ミルクを出してあげました。 ララ「どういう意味?」 ガイ「だから、今日からどうしていくか、だよ」 ララ「えっと・・・それは・・・」 ララは誰かひとりを短剣で殺せば、生まれ変わることができます。でもそれができないララには、特に行くあてもありません。 ガイ「まぁ好きなだけここにいなよ、ここが嫌になったら・・・俺を殺せばいいから」 ララ「!?そ、そんな・・・」 ガイ「ははは、軽いジョークだよ」 内心(全然軽くないっ!)と思いつつも、ララはとても嬉しかったので、「うん、ありがとうっ!」と元気に返事をしました。 ガイ「これから僕は仕事に行かなくちゃいけない。その間君はできればこの家にいてほしいんだ」 ララ「え〜、私もついて行っちゃだめ?」 ガイはまた嘘をつきました。「人殺しの仕事に行く」なんて、絶対に言えません。 ガイ「とっても危ない仕事なんだ」 ララ「邪魔はしないよぅ」 ガイ「前に・・・注意を怠って死んでしまった仲間がいるんだ」 これは本当です。暗殺に行った仲間の一人に、ガードマンの銃に撃たれて死んでしまった仲間がいました。 ガイ「だから、な」 ララ「はぁ〜い」 渋々ながらも了解してくれたララに、ガイは「ありがとう」と言いました。でも、本当は心の中で謝っていたに違いありません。 ガイ「その代わりに、できればこの家の留守番をしていてほしいんだ」 ララ「お留守番?」 ガイ「うん。滅多に人は来ないんだけど、前に一回強盗が来たことがあって・・・」 本当は強盗ではなく、警察です。ガイを捕まえようとこの家に一人の警官が押し入ったことがありました。そのときはガイが銃で撃ち殺してしまいましたが――― ララ「・・・物騒だね」 ガイ「そうだね」 (まったくだな)とガイは少し俯きました。 ガイ「夕方までには帰ってくるよ」 ララ「なるべく早くね」 ガイ「分かってるよ」 家を出る前にララの頭をクシャクシャと撫でて、ガイは家を出て行きました。 ララ(どうしよっかな・・・) 一人お留守番のララは部屋を見回しました。これといって特別なものもありません。 ララ(そうだっ!)
ガイ「♪」 今日の仕事は上手く行きました。誰にも見つからず、ターゲットを殺すことができたので、仕事は早く終わりました。まだ昼下がりです。 ガイ(えっと・・・確かここら辺に・・・あった!) そこは少し古びたアンティークのお店でした。 「いらっしゃい」 暇そうにしていた店の主人が、若いガイを少し物珍しそうに見ていました。 主人「何をお探しで?」 ガイ「ティーカップを2客ね」 主人「それならこっちで」 ガイ「へぇ〜・・・」 色々なティーカップがあります。金銀で飾られ光っているもの、所々に宝石のあしらわれている物、細かな彫刻が施されているものなどなど・・・ ガイ(これなんか・・・) ガイが手に取ったのは美しい花の絵が描かれた小さなカップでした。 主人「ほぉ・・・最近の若いもんにしては目があるのぉ・・・」 ガイは少し苦笑しました。別に深く考えていたわけではなく、単にララに似合いそうな物を選んだだけだからです。それに、このティーカップには、対になるもうひとつのカップもあったので、ガイはこれを買おうと決めました。 ガイ「この2客を頂きます」 主人「金は持っているのかね?」 ガイ「ええ、大丈夫です」 ガイの財布の中を見て主人はびっくりしてしまいました。ガイの重たそうな財布の中には大量の金貨が詰めこまれてあったのです。 ガイ「これで足りますか?」 主人「あ、いや、少し多すぎやせんかね?」 ガイ「いえ、そんなことはないですよ」 ガイは財布の中の金貨を全て払いました。慌てて主人が返そうとしますが、ガイは断り続けます。そしてとうとう主人が折れ、その代わりに、と、綺麗な赤と青の、2つのペンダントをガイに渡しました。 主人「彼女に宜しくなぁ」 ガイ「!?なんでそんなことを・・・」 主人は笑って、「普通ティーカップを2客買って行くのは、誰かに送るためのことが多いからじゃよ」と言いました。 ガイ「そうなのか・・・知らなかった」 主人「じゃあまた気が向いたらよっとくれ」 ガイ「はい、それじゃあ」 ガイはすっかり軽くなった財布を見つめました。ガイはお金に困ってはいません。人殺しの仕事はたくさんの報酬がもらえます。ガイは腕利きの人殺しでしたから、節約すれば一生暮らせるぐらいのお金を今までに稼いでいます。しかし、一度殺し屋になったら、もう二度と普通の生活には戻れないのです。もし辞めてしまえば、その時は仲間が『口封じ』にやってきます。8歳の頃から殺し屋をしているガイはそれをよく知っていました。なので辞めたくても辞められないのでした。
コンコン ララ「どなたぁ〜」 「ただいま」 ガイの声です。と、いうより、ララの姿も、声もガイにしか分からないので、ガイ以外の人間は考えられないのですが・・・ ガチャ ララ「おかえりぃ〜!」 ガイ「あっ、こらこら、やめなって・・・」 家に入るなり飛びついてくるララに、危うく抱えていたカップの入った包みを落としそうになりつつも、ガイは空いていた片方の手でララの頭を撫でてやりました。くすぐったそうに笑うその表情が、ガイは好きだったのです。 ガイ「あれ・・・部屋が・・・」 ララ「私が掃除したんだよ〜っ!」 ララは家で待っている間に、家の中を掃除しました。よく見れば鼻にすすで汚れてしまった跡があります。 ララ「それなぁに?」 ガイ「ああ、これ?」 ガイは包みを開いて、中からカップを出しました。 ララ「うわぁ〜すご〜い!」 ガイ「気にいってもらえてよかった。あとこれも・・・」 きょとんとしているララに、ガイは赤い方のペンダントを手渡してあげました。 ララ「綺麗・・・これ・・・私に?」 ガイ「そうだよ、僕のもあるんだ」 ガイは青い方のペンダントを身に着けました。 ララ「あ、ありがとう・・・」 僅かに頬を紅潮させているララを見て、ガイは目を細めました。 暫くボーっとしていたララは、自分を楽しそうに眺めているガイを見つけて、「今日は私が晩御飯作るからね!待ってて」と、意気込んでご飯を作り始めました。 ララの料理はとても美味しく、ガイは素直に感心しました。まったく自分と同じ手順を踏んで作っている筈なのに、いつもよりずっと美味しく感じられます。(きっと、他人が作ってくれたご飯って、やっぱり美味しいんだな・・・)と、ガイは思いました。
ララ「私がベッドで寝てもいいの?」 ガイ「ああ、構わないよ」 ガイの家にはベッドがひとつしかありません。なので、どちらかは椅子で寝るか、それか床で寝なければなりませんでした。 ララ「ホントにいいの?私はどこでも眠れるよ?」 ガイ「いいんだよ。おやすみ」 ララ「・・・おやすみなさい」 ララはすぐに眠り始めました。可愛らしい寝顔です。 ガイ(安いもんだよ・・・) 一人で起きていたそうガイは思います。 ガイ(この寝顔が見れるなら・・・)
何日かが過ぎていきました。ガイとララは楽しい日々を過ごし続けました。しかし相変わらずガイは嘘をつき続けました。 ガイ「ただいま〜」 ララ「おかえりぃ〜!」 ガイ「こらこら、やめなって」 口ではそう言っても笑っているガイが、ララに一冊の絵本を渡しました。 ガイ「これだよね・・・君が言ってたのって」 ララ「あ、本当に買ってきてくれたんだ〜!!」 それはララが生きていた頃、ずっと大好きだった絵本でした。 ララ「この絵本って私たちが生まれる前からあるんだよ〜」 ガイ「へぇ〜・・・」 ガイは少し中を読んで見ました。中に書かれているのは、どうやら同じ病気にかかった青年と少女の少し儚い青春のことが描かれているようです。 ガイ(僕たちそのもの・・・?) ガイはそう思いましたが、ひとりで首を振りました。 ガイ(僕は・・・) 楽しそうに絵本を眺めるララを見て思います。 ガイ(何歳になっても・・・例え青春だって、人を殺し続けるだけ・・・) ララ「どうしたの?元気ないよ?」 ガイ「え、あ、ああ・・・少し仕事がきつかっただけだよ」 ガイはできるだけ自然な笑顔を作って見ますが、それはあまりにも弱々しい笑顔でした。 そしてガイは少しづつ気づき始めています。いつまでも、こんな生活を続けていることはできない、と・・・
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