この物話はフィクションです。実際の団体、人物名とは一切関係ありません。 あと、この物話には一部グロテスクな表現が含まれます。そういう類のものが苦手な方はご注意下さい。
・・・・・・・・・朝目覚まし時計に叩き起こされて・・・・・・・・・寝ぼけ眼のまま内心急ぎ気味に家を出て・・・・・・・・・学校へと向かう電車の通勤ラッシュに巻き込まれて・・・・・・・・・のんびりしてたら遅刻寸前になって・・・・・・・・・慌てて走って教室に入って・・・・・・・・・退屈な授業を受けて・・・・・・・・・味気ない質素な昼食を食べて・・・・・・・・・下校のチャイムが鳴って・・・・・・・・・疲れたまま気づけば家にいて・・・・・・・・・国語のレポートを半分終わらせて・・・・・・・・・大して旨くもない母さんの飯を食って・・・・・・・・・レポートの残りを根詰めて書いて・・・・・・・・・変な達成感と一緒に風呂に入って・・・・・・・・・なんとなくその後テレビを見ていた・・・・・・・・・それが俺自身が覚えている最後の正常な日々・・・・・・・・・
『そして世界が崩れていく』
『残り7〜8日―――疑似終焉へのカウントダウン』
家族とテレビを見ていた。それだけだった。鬱陶しいぐらい雑多なテレビ番組をどれとなく選んで適当に見ていた。
父親: 「おいおい・・・俺にも野球を見せてくれよ」
突然父がリビングにやってきて勝手なことを言い出す。
俺: 「なんだよ・・・5回で10対1じゃもう殆ど勝ったも同然だろ?」
父: 「いやぁ、5回じゃまだ逆転は有り得るし、それに得点を更に重ねるんだったらそれはそれで見たい。」
俺: 「はいはい、そうですか。」
俺は苦笑した。野球は好きな人とそうでない人の温度差が激しい。別にみたいテレビ番組があったわけでもない。父にリモコンを譲ってやる。
父: 「さぁ、どうなってるかな?と。」
その場に座りながらリモコンのボタンを押す。そして今まさにピッチャーの投げたボールがフルスイングのバットへ―――
ブ・・・ブブゥゥゥン・・・ 画面に突然ノイズのようなものが入って、そのワンシーンの先が消えた。
父: 「なんだ?こんないい時に故障か?」
腹立たしげに顔をしかめる父。だがなにか様子が変だ。
俺: 「・・・なんか違うみたいだぜ。父さん。」
「暫くお待ち下さい」という、文字が画面に浮かぶ。放送局側のトラブルか?
父: 「・・・ん〜?」
父がリモコンのボタンを押す。
「暫くお待ち下さい」
俺: 「ここも・・・?」
父は次々とチャンネルを変える。その度に今時古いブラウン管に浮かび上がる「暫くお待ち下さい」や「そのままテレビを消さずにお待ち下さい」の文字。
父: 「どうなってんだぁ?」
俺: 「なんだ・・・?」
結局回せるチャンネル全てがそれだった。なんだか少しだけ嫌な予感がした。一度だけ頭を激しく振る。餓鬼じゃないんだ、と。嫌な感覚は消えない。 突然テレビが今までと別の光を映した。咄嗟にそれを食い入るように見る。いつしか母もそこにいた。 映し出されたのは見覚えはあるけど名前が分からない人。
俺: 「誰?」
母: 「誰ってあんた・・・この国の防衛庁長官じゃない。」
俺: 「防衛庁長官?」
俺は父が持っていたリモコンを奪ってチャンネルを回す。どれもこれも映るのは青ざめたそいつの顔・・・全チャンネルを奪っていた。と、いうことは、防衛庁長官からテレビを見ている全国数千万人に伝えることがある、と。 嫌な予感が当たろうとしていた。
防衛庁長官: 「国民の皆さん。」
重苦しい。というより最早葬式で弔辞を読んでいるような雰囲気。
防衛庁長官: 「・・・○月×日、に、20時現在気象庁調べで・・・」
中々その先が出てこない。俺も父も母も固まっていた。
防衛庁長官: 「この星に小隕石群から逸れた隕石が衝突する可能性があるということが発覚しました。」
・・・・・・・・・ 一瞬何かの悪い冗談だと思った。隕石?嘘だろ。相当大きくなきゃ大気圏でそんなもの―――
防衛庁長官: 「気象庁による計算で、もし、仮に地球にそれが衝突した場合・・・日にちは7〜8日後、落下地点はF県△△町付近へ落下する可能性が最も高く、その場合、隕石の大きさから考慮して、この国全体がほぼ壊滅することが発覚いたしました。」
俺: 「嘘だ・・・」
呟くのが考えるより先立った。本当に性質の悪い冗談だと思った。F県△△町?海とかなら分かる。それがここに直撃?
―――この国が壊滅?
母: 「え・・・」
母の顔から血の気が引いた。
父: 「あくまでまだ可能性があるだけの話だろ?」
父はむやみに強がっていた。
国防長官: 「なお、現時点で隕石がこの国に衝突する可能性は・・・」
『残り6~7日 13%』
朝、いつも通りに家を出た。相変わらず人は多い。妙な考えにとらわれて寝るのが遅くなったので、また遅刻寸前だった。
いつもより閑散とした教室。欠席3人。それでも10人休んだその時より更に閑散とした雰囲気。親父みたいに強がっている奴もいる。母みたいに血の気の引いた表情で震えている奴もいる。「それがどうかした?」と言いたげな奴もいた。俺はどうなんだろうか?
教室に担任の先生が入ってくるなり一言、「廊下に並べ」。 全校朝礼があった。内容は簡単。今日から臨時休校。今から自宅へ戻れ、とのこと。 臨時休校。学校そのものが残ってるか如何か・・・その確立が13%。ひゃくぶんのじゅうさん。1割3分。13%。100回落ちてきたら13回助かる確率。微妙の一言に尽きる。
帰りの電車には俺たち以外の高校の生徒もいた。きっと同じような理由なんだろう。いつもと同じ景色にたくさんのことを思い浮かべていた。帰ったらどうしよう?国外に逃げる?13%に賭けてみる?皆はどうするんだろう?父さんは?母さんは?俺は?帰ったら何しよう?まだ数学の宿題終わってなかったっけ?提出は・・・ いつの間にか、いつもと同じ考えが思考回路を支配していた。怖いのかな?俺。自然と逃げている気がして、嫌だった。
「次は〜、△△商店街前〜△△商店街前〜。お降りの際は、足元に注意して、お忘れ物のないよう―――」
あ、降りなきゃ。ぼーっとしたまんまでふらふらと電車から降りる。登下校時以外には滅多に使わない駅。今は俺がここにいるべき時間じゃない。本当はここは俺がいるべき場所じゃない。隕石が落ちる前から、少しずつ通常の生活は壊れ始めていた。
『残り5〜6日 恐怖への胎動』
父さんの意向により、家庭内はなるべくいつも通りに振舞われた。いつもと同じ。朝7時に起きていつもとなんら変わらない朝食を摂る。美味しくも不味くもない、いつもの朝食。そこにあるのは普段の家庭の形の筈なのに、全く会話のないその空間。 珍しく父さんは新聞を読んでなかった。普段朝食時は新聞を読みながらなのに。少しだけ気になって、机の端に「邪魔」といわんばかりに押しのけられたそれを手に取る。一瞬父さんの目がこっちを向いたような気がした。
「円暴落で世界市場大混乱」
大々的に書かれた一面の見出し。
「ニホン壊滅の危機により世界市場での円の価値は暴落。国によって為替レートは様々だが、全体で約20分の1以下に低下した模様―――」
20分の1以下。1$が約2200円?はは、こりゃ駄目だ。これじゃもうニホンが壊滅しなくても経済上破滅は確定だ。新聞を投げ出す。やることはない。ボーっとしたまま時間が過ぎて、とりあえず着替えたのが10時だった。
「外に出てくる。」
リビングの父さんと母さんに告げる。返事はない。暫く立ち止まって、そして玄関に向かおうとしたとき母さんが、「気をつけてね」。
―――隕石に?
外は良く晴れていた。大きく息を吸う。死んだような街の匂いが胸いっぱいに広がって、むせた。行く当てもない。当てがあるならそれにすがりたい気持ちで一杯になる。如何しよう。昨日から「如何しよう」ばっかりだ。いや、「如何しよう」じゃない。「何が出来るか」だ。
―――隕石に?
飛行機は予約どころじゃないらしい。全ての機が満員。国内便も全て国外へと置き換えてフル稼働しているそうだ。俺たちもやはりそうした方がいいのだろうか?空を飛んでいく飛行機を眺めながらそう思った。
『残り4〜5日 希望の光』
治安が最悪になっているらしい。テレビに映る都心の様子。コンビニが滅茶苦茶だ。でも大して驚かない。ここもそうだから。最早殆どのスーパーやコンビニは閉まっていた。中の物盗む人もたくさん出てきた。というより中の食料の代金を払おうにも払う相手がいない。そんなことを言ったら今俺が食べてるラーメンも盗品だ。
父: 「聞いてくれ。」
父が久しぶりに口を開いた。何故か1年ぶりに話し合う相手のような気がする。
父: 「2日後の飛行機のチケットが手に入った。」
父の友人に飛行機会社に勤めている人がいたらしい。人生何が起きるか分からないものだ。とりあえず逃げられる。そんな感覚に包まれる。 そうだよな。そんな簡単に映画みたいに死ねるわけが無い。久しぶりに家の中に笑顔と会話が戻った。
『残り3〜4日 崩壊開始』
眠っていた、つもりだった。 眠れない夜が続く。それでもとりあえず自分の安全が確信できるようになって、眠りやすくはなった。もうそろそろ意識が闇に―――
ドーン!!
雷のような激しい音。なんだ?今の。窓がビリビリと震える。雷?雨は・・・降っているのか。まさか・・・いや違う。有り得ないと首を振る。雨も降ってるんだし、まだ時間はある、大丈夫だ。
朝の目覚めはとても良かった。まるで遊園地に行く日に、子供が早起きするような、そんな感じ。今日はまた外に出た。吸う息が苦しくない。やはり未来が確定してるのはいい。13%なんかに頼らなくてもいい感覚。とりあえず自分が解放されたような喜びを感じて、曲がり角を曲がった瞬間。
俺: 「ぁ・・・」
一瞬何だろうかと迷った。それは赤い服を着ていた。それは赤い顔をしていた。それは真っ赤に塗れていた。それは真っ赤な少女の―――
俺: 「―――ッ!!!」
背筋が凍る。こんな道のど真ん中で人が―――ちゃいけない。伏せた顔を上げる。その少女と目が合ったような気がした。何も言えずに後ずさる。走り出す。怖いとかそういうのじゃない・・・じゃあなんなんだよ・・・一種の拒絶反応?脳天を思い切り叩かれた感覚。
ハハハハハハハ。隕石なんか落ちてこなくてもいい。 隕石なんて落ちてこなくてもこの国は壊れるのだから。
家に帰る。俺の青ざめた顔を見て「どうしたの?」と聞いてくる母さんに「なんでもない」と無理に笑って見せた。吐きそうだ。さっきの光景が浮かび上がる。うっ・・・
「本日を以て□□新聞は無期休刊とさせていただきます」と書かれた薄っぺらく、殆ど記事のない新聞で、今朝九州に未確認の小隕石が落ちて九州が『消えた』こと、その恐怖にヒステリックになって自殺する人、そのヒステリックになって騒ぐ人の傍にいてストレスに耐え切れずその人を殺害する人が、後を断たないようになったことを殆ど砂嵐しか映さないテレビで知ったのが、午後18時。小隕石落下から17時間後だった。
『残り2日 運命』
気象庁の最新の情報によると、隕石落下の確立が5%増加。92%になったらしい。今日で放送を最後にするテレビ局のニュースがそう伝えた。落下予定日も2日後でほぼ確定。道端に死体が転がっているのはここだけではないこと。現時点の状況では国民全員が国外へは脱出できないこと。色々なことが耳の右から左へ抜けていく。今こうやって生中継で取材しているキャスターはどうなんだろうか?俺がこんなに他人事のような気持ちになっているように、自分ももう逃げる用意が出来てるからこんな風に冷静に取材できるのだろうか?或いはもう・・・
父: 「よし、行くぞ。」
少なからず小隕石の落下は俺たちの家族にも衝撃を与えた。強がっていた父さんもあまり楽観的なことは言わなくなった。今朝のニュースのこともあって、もともと夜10時発の飛行機だったが、朝早くに家を出ることにした。大丈夫。国外に出てしまえば命はあるんだ。お金なんてなくても命さえあれば大丈夫。はは、俺は随分と現金だな・・・父さんが飛行機のチケットを手に入れてくれるまでは、ずっと怖がりまくってたのに・・・
父: 「おい、早くしろよ。」
俺: 「分かってる・・・」
母: 「あんた・・・顔色悪いわよ。風邪でも引いたの?」
俺: 「・・・そうかも。」
昨日の光景が頭から離れない。目を見開いて、虚ろな目で俺なんか見てないのに俺を睨んで・・・テレビで見るのとは全く違う、死の匂いを漂わせた―――
俺: 「うっ・・・!」
母: 「あんた・・・本当に大丈夫?」
俺: 「大丈夫・・・ちょっと吐き気がするだけ。」
母: 「どうする?出発は今から出なくても間に合うけど・・・」
俺: 「いや、いいよ!早く行こう。空港は混雑してるって、ニュースでやってたし。」
父: 「じゃあとりあえずどっかのコンビニから風邪薬だけもらっていこう。それでいいか?」
俺: 「ああ・・・ありがとう。」
本当は立ってるのが辛い。寝ていたい。でも分かっている。ここから逃げないといつまでもこのままだ。身体は動かないのに気持ちは遠ざかりたくて仕方ない。不思議な感覚。
ガチャ 父さんは家のドアに鍵を閉めた。もう帰ってこないかも知れないのに。 歩く。ふらつく。挙句の果てには父さんに支えてもらう始末。母が「やっぱり家に戻る?」と聞いてくるのを断って、俺はふらふらと歩いた。旅行じゃないんだ。キャンセルの代金に命が懸かっている。母は何かと家に戻りたがった。それは仕方ない。でもそれを諦めるのも仕方が無いこと。もう街には殆ど人がいない。 まったく・・・隕石ってものは簡単になんでも奪ってくれるな・・・
そう。なんでも。
ドン!!
俺: 「あぐっ!!?」
バタッ! いきなり前に倒れる。肩が焼け付くように痛い。なんだこれ!?何が起きた!?身体に力が入らない。霞む視界に見えたもの。それは俺たちの持っている荷物を持って逃げていく二人の男性の姿。旅行鞄で俺たちが飛行機のチケット持ってるって判断して・・・
俺: 「くっそぉ!!」
叫んでも立てない。どうしようもない。父さんは?母さんは?答えは真横。
俺: 「っ!!父さん!母さん!!」
あァァあぁアぁあぁあァあぁァアァあぁぁァ!! 頭の中で悲鳴を上げる。首からだらりと血を流して倒れる父さんと母さん。虚ろな目。そうだ。死の匂いがする。その虚ろな目で・・・俺を見るな!!
俺: 「嘘だ・・・」
嘘だ嘘だ嘘だ!!俺は何も悪いことはしてないぞ!!なのにそんな虚ろな目で俺を見るなぁぁァ!!父さんなんだろ母さんなんだろ!?なのになんでそんな目で俺を見るんだ!! 必死に痛くない肩の方の腕で立ち上がる。逃げたい!逃げなきゃ!!道の壁伝いをよろめきながら歩く。父さんと母さんはほったらかしだった。直視できない。俺は悪くない、悪くない悪くない悪くない!! 近くに薬局がある筈。そこで包帯と薬を・・・ そして曲がり角を曲がる。曲がってから気づく。あの曲がり角。 腐った女の子がいた。相変わらず俺を見ている。蝿がたかっていた。胃の中の物を吐き出す。俺は悪くないのに!!
「こわいよぉ!!おねえちゃーん!!」
女の子の泣き声。極力腐った死体を視界の外に視界の外にやりながら顔を上げる。泣いている女の子の傍には俺と同じぐらいの年齢の少女がいた。
姉: 「美佐子・・・私も怖いよ・・・だから泣かないで・・・ね?」
美佐子: 「うわぁぁぁん!!」
姉は必死に美佐子という妹をなだめていた、が、美佐子という妹はただ泣くばかりだった。
姉: 「いい加減にしてよ・・・お姉ちゃんだって怖いのに・・・!」
美佐子: 「うわぁぁぁぁん!!おとおさーん!おかあさーん!」
姉: 「美佐子!!」
ガシッ!!
俺: 「っ!!」
美佐子: 「ぐぇっ!!おねえちゃ・・・くるし・・・」
姉は妹の首を掴んで持ち上げていた。目が据わっている。狂気の目。
―――目を逸らせ!!
本能が叫ぶ。このままじゃ・・・このままじゃ!
美佐子: 「・・・おね・・・・・・・・・く・・・・・・」
姉: 「お父さんも・・・お母さんももういない!!あんなの親じゃない!!!」
姉の手に一層力が加わったような気がする。このままじゃ・・・このままじゃぁ!!!
俺: 「やめろぉ!!!」
掠れた声を精一杯張り上げて叫ぶ。これでなんとか―――
姉: 「私達を置いて逃げた・・・皆・・・皆死んじゃえばいいんだ・・・アハハハハハ・・・」
・・・聞こえてない・・・狂ってる・・・ 彼女は既にほぼ失神しかている自らの妹を・・・
投げた。
パリーン!! 俺の向かうべき場所である薬局店のガラスが派手に割れる。割ったのは美佐子という少女の華奢な身体。その身体がまた紅く染まっていく。声が出ない。目の前にいる腐った女の子もこんな風に死んだのか?嘘だろ?割れ残った窓ガラスが身体に刺さるのも気にせず中に入っていく姉。
―――逃げろ! ―――止めろ!
二つの声が木霊する。俺は・・・俺は!!
俺: 「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
身体は動いた。痛いのに、苦しいのに。俺も身体にガラスが刺さる痛みを無視して彼女を止めようと―――
・・・ザクッ!!
俺: 「っ・・・!」
妹: 「あぐっ!!おねえちゃん・・・いたい・・・たすけて・・・」
姉: 「・・・」
妹は「おねえちゃん、おねえちゃん、たすけて」と呻いた。その声だけが時間を支配する。そして・・・
姉: 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ザクッ!グサッ!!!
妹: 「あがっ!!!・・・」
俺: 「やめろ!落ち着け!!」
姉: 「離して!美佐子と一緒に私も死ぬんだからッ!離して!!」
あろうことか半狂乱になって妹の身体をガラス片で切り刻み始めた姉を必死で止める。でも身体に力が入らない。姉は俺を振り払って、俺の目の前に見せ付けるように立ちはだかった。
姉: 「あは・・・あはははははは・・・」
俺: 「やめろ・・・やめてくれ・・・!!!」
姉: 「ごめんねぇ・・・美佐子ぉ・・・お姉ちゃんも『逝く』今からねぇ・・・」
俺: 「ぁ・・・やめ・・・やめ―――」
ザクッ!!!!
倒れていく身体。虚ろな瞳。映るのは・・・・・・・・・・
俺: 「俺を・・・・・・・俺を見るなァァぁあぁアぁ!!!!!!!!」
・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・
『最期の日 そして全てが崩れていく』
俺は怪我の自分の怪我の手当てをした後、暫く呆けた様にそこに居座っていた。帰る場所も無い。でもまだ姉妹の遺体がそこに残っている。ここにはいたくない。そうやっと考え付いたときは、既に衝突の日になっていた。
ふらふらと外に出る。暗い朝だ。空気がむっとしている。昨日は雨が降ったらしい。 今・・・7時前か・・・ 薬局店を出るとき、姉妹の死体に蝿がたかっているのが見えた。もう吐き出すものもない。そとに出る。そとの方の少女の死体はもう蛆に身体の殆どを食われていた。 蝿の耳障りな羽音を極力無視して街を歩く。意味なんて無い。ただなんとなく。 今まで数百キロ歩いてきたかのような虚脱感。一歩歩くたびに吐き気と絶大な疲労に襲われる。死の匂いは町中に広がり腐った匂いに釣られた蝿が飛び交う。あと数時間もすれば吹き飛ぶのも知らずに。いつしか俺は8%の生存より92%の破滅を求めていた。仮に隕石が落ちてこなかったら?俺はここで一人で生きろと?はははははは・・・狂うって、そんなの・・・もう狂ってるけど・・・
ぐちゃ
足元で粘着質な音を立てる。俺はそれを見ない。もう見飽きた。町には更にたくさんの死体があった。中には内臓が飛び出ているような酷い死に方のものもあった。道路だけじゃない。きっと家の中でも・・・ 気づけば自分の家の前にいた。鍵は奪われたが、窓ガラスを割れば入れる。入る気にはなれない。怖いから。 またふらふらと歩く。前なんて見てない。空に隕石が肉眼で確認できた。
ぐちゃ
・・・・・・・・・ 嫌な音。見たくない。でも・・・これって・・・
―――俺が踏んで、顔の肉が千切れた父の頭がそこにあった。
飛び出している眼球が俺を睨んでいる。なんだよ。もう死んでるんだろ!?俺は悪くない、悪くないだろ!?
俺は逃げ出していた。背中を向ける。
「タ・・・ケ・・・」
声。耳を塞いだ。
「タスケテ・・・お姉ちゃん・・・タスケテ・・・」
俺: 「うわぁァァぁあぁァあぁぁぁアア!!!!!」
嫌だ!助けて!助けて欲しいのは俺なんだ!!
「タスケテ・・・クルシイヨ・・・タスケテ・・・」
アぁァああぁあァァぁアぁぁァあア!!!!! 俺のせいじゃない俺のせいじゃない俺は悪くない!!!!! 走って逃げた先。そこには・・・
「助けて・・・『―――』君・・・」
俺: 「ウワぁぁァァァアァあアぁアあ!!!!」
12時37分28秒。隕石衝―――
ガバッ!!!!
俺: 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
汗で身体中が冷たい。真っ暗な部屋で俺は息を弾ませていた。 ・・・・はははははははは
・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ そうだ・・・夢なんだ・・・大体俺には親なんていないじゃないか・・・何を考えてるんだよ・・・隕石なんて馬鹿馬鹿しい・・・稚拙な夢・・・
「タス・・・テ・・・」
俺: 「っ!!!!!!」
部屋を見回す。暗くて何も見えない。 ・・・・・夢なんだ。アレは夢なんだ!!!夢は記憶の整理。夢は万人に与えられた希望。 夢なんだ!!!!
―――そう、夢。
記憶が呼び覚まされる。姉がいて、血塗れの妹がいて・・・
「たすけて・・・いたいよ・・・たすけてぇ・・・」
違う・・・あれは・・・俺には両親がいない。彼女達の両親もどこかに逃げた。
「たすけて・・・ねぇ・・・―――君・・・」
忘れていた筈なのに・・・思い出したくなかったのに・・・ その少女は知っていた。苦しいのは目の前の少年の所為だと。
「たすけて・・・くる・・・し・・・」
それでも少女は目の前の少年に助けを乞い続けた。目の前の青年は・・・愚かだった。 そして―――
「うわぁァァアァァァぁぁぁア!!!」
少年は怖くなった。自分のせいじゃないじぶんのせいじゃない自分の所為じゃない!! そうだ・・・これは俺自身の夢・・・あの時死ねたら・・・あの時死ねたら・・・!!
苦しむ少女に如何してやることもできずに、苦しむ少女は苦しみの中で死んだ。少年は怖くなった。少年は死のうと思った。
夢の中の姉は死んだ。でも俺は死ねなかった。だから隕石が欲しかった。死なせて欲しかった。でも死ねない。所詮稚拙な夢だから。
「たすけて・・・・・・たすけてぇ・・・」
来るな・・・そんな目で俺を見るな・・・俺の所為だって知ってるのに!
「くるしいよぉ・・・たすけて・・・いたいよぉ・・・」
来るな・・・来るな来るな来るな!!!!どうしようもないのに!!そんな目で俺を見るな!!
「助けて・・・助けて・・・」
やめてくれ・・・お願いだから―――!!!
助けて・・・―――君・・・・
その名前で俺を呼ぶなぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁアァァァァァァァァァァアアァァアアアァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 夢が崩れる。俺が崩れる。
―――そして全てが崩れていく
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