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恋する蛙の降らせる雨は 作者:ANC0.

最終回   1




3匹の蛙は
素敵な林檎のおうちに
住んでおりました.


黄色い蛙は
陽気で元気

青い蛙は
真面目で優秀

薄紅の蛙は
優しく臆病


3匹の蛙は
仲良く暮らしておりました.


あるとき

雨が降らなくなりました.



どうしよう
どうしよう


薄紅蛙は言いました.
黄色蛙が答えます.


うたをうたおう

そうしたらきっと
あめがふるよ


黄色蛙は陽気に歌い始めました.

雨雲様は来てくれません.

青蛙は言いました.


くものうえのすいじょうきが
まだいっぱいじゃなんだよ

もうすこしまてば
きっとあめがふる


その言葉通り
何日か後に雨が降り

青蛙と黄色蛙は
陽気に外へ飛び出して
歌い踊りました.


げろげーろ
げろげーろ!


それを見た薄紅蛙は
とても安心して
自分も外へ出て行きました.

雨粒が
心地良いリズムで堕ちて来ます.


げろげーろ
げろげーろ!

グワヮ
グワヮ!


薄紅蛙が歌います.


どうしましょう!

傘が無いのに!


すぐ傍から声がしました.

薄紅蛙は
声のする方へ行ってみました.

深い深い緑の草のトンネルの
そのまた奥へ跳びました.


あか オレンジ みどり

むらさき ミズイロ ぴんく


色とりどりの花が
其処には咲いておりました.

花が雨粒を受け止めて
こぼれた雫が歌います.


キレイキレイ
お花はキレイ

あの子もキレイ
名前は知らない

だあれも知らない

あの人形の名前はグルリ

あの子の名前は
だあれも知らない




あのこ?

薄紅蛙は思いました.

きょろきょろと辺りを見回すと
お花の中にその子はいました.


どうしましょう

どうしましょう!

お花が雨に濡れてるの
寒い寒いって泣いてるの!


赤い服を着たその子は
胸に人形を抱き
とってもとっても辛そうに
泣いていました.

薄紅蛙は
とっても哀しくなりました.


その子はずーっと
泣いていました.

薄紅蛙はずーっと
見守っていました.



しばらくすると雨が止みます.



その子は元気になりました.
もう泣いてなんかいません.

グルリを抱いて
お花に話しかけています.


大丈夫だった?

もう寒くない?


ごめんね

ごめんなさい


薄紅蛙は切なそうに
林檎のお家へ戻って行きました.


おそかったね.どうしたんだい?


青蛙が言いました.
黄色蛙も言いました.


とってもきもちよかったね
またすぐふるといいのになあ


薄紅蛙は思いました.


あめなんか
もう
ふらなきゃいい



3匹の蛙は
とってもとっても仲良く
暮らしておりました.





あるとき

雨が降りました.


黄色蛙と青蛙は
笑って外へ飛び出しました.

薄紅蛙は
あの子が心配で
とってもとっても心配で
急いで外へ飛び出しました.



深い深い緑の草のトンネルの
そのまた奥へ跳びました.



やっぱり
あの子が泣いていました.

薄紅蛙は泣きました.



やっぱり
あめなんかふらなきゃいい



ごめんよ.青蛙くん
ごめんよ.黄色蛙くん


薄紅蛙は鳴きました.




げろげーろ!

グワヮ!

げろげーろ!
げろげーろ!





薄紅蛙は雨雲様に
お願いをしているのです.





おねがいします

おねがいします
あまぐもさま


あのこのだいじな
おはなをまもって

もうあのこをなかせないで





薄紅蛙は
涙をぼろぼろ零していました.

それは雨粒よりも
大きくて
透明で

とっても綺麗な涙でした.




いいかい.優しい蛙の子


雨雲様が
薄紅蛙に言いました.



雨を降らせない訳には
いかないんだ

お前の友達も
あの女の子も
あの花たちも

みんなに雨は必要なんだ



薄紅蛙は泣きながら言いました.



でも

でもあのこはないているんです

とってもつらそうに
とってもとってもつらそうに

ぼくはなんにもしてあげられない

ぼくはとってもつらいんです



遠くで
青蛙と黄色蛙の
陽気な歌と笑い声が聞こえます.

すぐ傍で
あの子が泣いています.

薄紅蛙も泣いています.


雨雲様は言いました.
少し辛そうに言いました.



あの子の為に出来ることなら
たくさんあるさ



薄紅蛙は尋ねます.



なんですか

なんですか


あのこのために

ぼくはなにができますか




雨雲様は
やっぱり辛そうでした.



如何しても

如何しても
あの子の傍に居たいかい?



薄紅蛙は頷きました.
迷うことなどありません.



お前はとても強い子だ

おいで.優しい蛙の子



雨雲様の御体が
薄紅蛙を包みました.








雨が止みます.







黄色蛙と青蛙が
空を見上げて言いました.



どうしてだろう

どうしてだろう


どういてこんなに
くるしいんだろう



そのとき

薄紅色をした雲が
空一面に広がって


ぱらぱら

ぱらぱら



優しい雨をまきました.


雨が2匹を濡らします.
2匹は静かに泣きました.



ああ
また雨が降ってきたわ



赤い服の女の子は
空を見上げて言いました.



でもどうしてかしら

お花たちが嬉しそうなの

とっても嬉しそうなのに
それなのに
少しだけ寂しそうなの



花が雨粒を受け止めて
こぼれた雫が歌います.


キレイキレイ
とってもキレイ


あの薄紅の蛙は言った

あの子の為になりたいと


あの薄紅の蛙はなった

あの赤い服の
あの子の為に


ごらん

ごらんよ
あそこをごらん

キレイなキレイな花たちが
薄紅蛙を抱いている!





温かい風が吹き
雨は止みました.


風に靡いた長い髪を
その子は
少しだけ鬱陶しそうに
耳にかけます.





げろげーろ!





誰かに
呼ばれたような気がします.

振り向くと
その子の愛した花たちの中に
綺麗な薄紅色をした傘が
うずまっておりました.

その子は嬉しそうに傘に駆け寄り
グルリと一緒に抱きしめました.






げろげーろ!

げろげーろ!




今日も何処かで
優しい蛙が祈っています.






愛しいものが泣かないように


哀しい雨が

降らないように.




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Novel Editor by BS CGI Rental
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