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運命、必然、赤い糸 作者:皐月 詩

最終回   1
運命とか必然とかそんなものに興味は無い。










「ねー直人っ。直人直人直人な…」
「何だよ。」


俺の名前を呼び続ける彩葉を遮り返事をする。


「起きた?」
「起こされた。」


午後の気持ちいい気候の中で気持ち良く寝ていたら彩葉に起こされた。


「だって相手にしてくれないんだもん。」


むーっと膨れている彩葉を見て頭を軽く撫でてやろうと手を挙げてふと気がついた。


「…何これ。」
「へへっ♪」


さっきまでの膨れっ面はどこへやら。
俺の顔を見ながらニコニコ微笑んでいる彩葉。


…こいつは俺で遊んでるな。


「お前何してんだよ。」


そう言いながら彩葉に呆れた視線を向ける。


「何に見える?」


可愛く小首をかしげた彩葉。
そんな彩葉の言葉を受けて彩葉の小さな悪戯を見つめる。


寝ている間に結んだのであろう俺の小指に赤い糸。
その糸の先は彩葉の小指に結ばれてて。


…これは完璧にあれ、だよな。


「…赤い糸?」
「違うよっ!」


思わぬ否定に俺はへ?と間抜けな声を出した。


「“運命の”赤い糸!」


嬉しそうに言う彩葉に思わず溜め息。


「わっ、何で溜め息吐くの?」


溜め息を吐いた俺を見て彩葉はまた膨れ顔。
あーせっかくの可愛い顔が台無し。


「別にどっちでも変わらないじゃん。」


冷めた調子で言うと彩葉は不満そうに反論して来た。


「違うよ!運命、って付けて初めて意味があるんだからっ」


訳の分からないことを自信満々に言い切った彩葉。
そんな彩葉を見て俺はつい吹き出してしまった。


「わ、何笑ってんのよー!」
「いや、何の自信なんだと思って。」


言いながらもおかしくて笑ってしまった。


「……もういいもん。」


膨れた顔のまま呟いた彩葉はそのままふいっと俺から顔を逸らした。


「彩葉?おーい。彩葉ちゃん?」


いくら呼んでもそっぽを向いたままいっこうに返事をしてくれそうにない彩葉。


…ちょっといじめすぎたか?


そう思いながら未だ結ばれたままの“運命の”赤い糸を引っ張る。
すると彩葉の小指が引っ張られて同時に彩葉の視線が俺に帰って来た。


「…何よ。」


…だからせっかくの可愛い顔が台無しだって。
とか思いながら苦笑。


「わ、また笑ってる!」


苦笑した俺を見てまたさらに膨れた彩葉。


「せっかく可愛いんだからそんな顔するなよ。」


な、と優しく微笑みかけてやる。


「……そんな事でごまかされないんだからっ。」


…あ。照れてる。



彩葉の言葉にはどこか勢いがなくて。
後一押し、ってとこかな。


「誤魔化すとかじゃなくてさ。彩葉は可愛いよ。」
「もういいっ。」


小さく呟くとくるりと方向を変え俺の元から逃げようとした。




…でもさ、彩葉。





「やー何っ!」



何じゃないですよ。


逃げようとした彩葉の動きは自分で結んだ“運命の”赤い糸に阻まれた。
自分で結んだのに忘れるあたりが彩葉らしい。
そんな事を思いながら逃げようとした彩葉に抱き付いて捕まえた。



…ま、捕まえなくても逃げれないんだけど。




「運命ねぇ。」
「何?」


ぽつりと呟いた俺に不思議そうな声を出した彩葉。


「いや俺運命とか興味ないんだよねー。」
「…ひどいっ。」


不満そうな声に顔を見てなくても彩葉が今どんな顔をしているのかが分かる。


「俺さ、目に見えないものは信じない主義だから。」
「…目に見えないもの?」
「そう、幽霊とか運命とか。」
「なっ、そんなものと一緒にしないでっ!」


抱き付いている俺の腕から抜け出そうとする彩葉。
そんな彩葉をしっかりと抱き締めながら俺は彩葉の耳元でそっと囁く。






「…でもさ。彩葉と一緒にいられるなら運命、あってもいいかもな。」




ニッコリ微笑みかけると彩葉は恥ずかしそうに俯いた。


「…今更何よ…」


そう呟きながらも言葉とは裏腹に俺にきゅっと抱き付いて来た。
そんな彩葉が可愛くて俺は彩葉にキスを送ったのだった。
彩葉と一緒にいられるのなら、目に見えなくても信じてみようかと思う。










運命、必然、赤い糸。全部信じて君と一緒に。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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