ただ黙々と作業をする千秋 朝とのギャップに香奈は少し焦っていた というより男の子は苦手な方だった 香奈は全てやり終えると千秋を見た 千秋も丁度最後のプリントだった 「よし、終わった」 千秋はそういってプリントを置くと 腕を延ばした 「たまにはこういう作業もいいよな」 香奈は微笑して千秋を見た すると千秋は言った 「そういえばさ!香奈ってミス神木中3連続だったんだろ?」 興味津々に聞いてくる千秋に香奈は嘘をつけなかった 「‥‥う‥‥うん」 「今年もなれるよ、友達もそう言ってたし」 そういってニコニコする千秋を見て香奈はつられて笑っていた 香奈は時計を見て言った 「そういえば、部活、本当に大丈夫なの?」 時計はもうすぐで部活の終わる時間だった 次第に千秋の顔からは笑顔が消えていく そして呟いた 「俺、今さ、足首捻挫してんだ」 「‥‥え?‥‥だって朝‥‥‥」 足を捻挫しているのに並み大抵の我慢じゃ 人かかえて冊を飛び越えるなんてできるはずがない 「俺ってちょっと無理する所あるし‥‥」 そういってまぎらわすような言い方をする千秋に 香奈は黙っているしかできなかった 「来年もあるし‥‥今年は応援がんばる」 そういってまたニコニコする 「来年は‥‥レギュラーになれるよね」 香奈はそういった 本気で本音でそういった 多分、千秋にもわかっているはずだ 「来年‥‥‥な」
日曜日、今日は綾瀬と隼人は本家によばれていた 成美達の子供は2人、長男・次男だった 本家もこの男の子達に大喜びしていた、 なんせ綾瀬は1人っ子を産んで、女の子だったからだった 「お久しぶりです叔母様」 綾瀬は深々とお辞儀をした そこには成美と太一も居たのだ 綾瀬はこの日が来る事をどれだけ望んでいなかったか 隼人だけはしっかりとわかっていた‥‥ 「綾瀬さん、娘さんの香奈さんはもう今年で16ですよね」 叔母様はもう歳だ、そのせいでおっとりしてきている あのときの元気もないからずっと座りっぱなしらしい 「はい、今年で16になりました」 叔母様は続けて言った 「成美さんの長男の大輔さんは今年で15になりました 本家跡取りの御結婚は早くて3年後ということで よろしいでしょうか‥‥」 この言葉でもう決まってしまうんだ 3年後、香奈を嫁に出さなければいけない‥‥ きっと香奈の事だから嫌がるに決まっている それでも綾瀬は深々と頭を下げて返事をした 「はい‥‥」
最近買った外車の車は真っ黒で黒光りをしていた その中でエンジンをかける隼人 最後に成美や叔母様に挨拶をして綾瀬が車に乗り込んだ 「綾瀬、本当に香奈を本家の跡取りに出すのか?」 隼人は言った、これが隼人の本音だった 「だって、出さなくちゃ‥‥いけないじゃない」 綾瀬は深いため息を付いた 車は発進したが続けて喋った 「もうお袋も長くないし、3年以内に死ぬかもしれねぇ そうしたら次は褄蕗家を俺達が仕切る事になるんだ」 隼人は微笑を浮べて綾瀬に言った 「もうこんな下らねえ難しいしきたりなんかやめようぜ」 その時確かに綾瀬は自分の事のように喜んで居た なんていったってたった独りの愛娘なのだからだ、綾瀬と 同じ人生にしたくなかったからすごく嬉しかったのだろう
帰り道香奈が歩道橋を渉っているのを見かけた 「あ、香奈だ」 隼人はそういって指さした 香奈の隣には千秋が歩いて居た その光景に2人は驚いた なんていったって16年間の香奈の人生、初めての 光景だったのだからもう最上級の喜びだった 「隼人!!あの子男の子と歩いてる!」 綾瀬は昔のやんちゃな娘だった頃のように騒いだ 隼人もなんていっていいのか、口を開けて馬鹿なツラだった こんな都会でも外車は目立ったのか香奈は2人に気付いた そして千秋を待たせてこっちに向かって来た 「香奈!!何あの男の子?!」 綾瀬は少し興奮気味に聞いた 「お母さん、あの人は同級生の美群さん」 香奈の言葉に綾瀬は止まった あの喜びも一切を忘れるような香奈の言葉に 驚いた、 「美群って‥‥」 そういって綾瀬は車から降りて千秋の方に向かった 「あ、こんにちは」 千秋は頭を下げた そして顔を上げた時の千秋の顔を見て綾瀬はついつい 言ってしまった 「もしかして‥‥譲二の‥‥」 「‥‥え?」 綾瀬は千秋の肩をつかんで言った 「もしかして、譲二の子供?」 その真剣さに千秋はただうなずくしかしなかった すると綾瀬はその場にしゃがみ込んで泣いてしまった 「やっと‥‥見つけた‥‥」 必死でそれだけ喋ったのだった
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