「姉さん、これってどういうことなのかな」
「あら、怒った顔もかわいいわね」
「からかわないでっ!」
怒りにまかせ、ばんっと両手を力一杯テーブルに叩きつけるボク。ボクがどうして怒っているのかというと、まなみちゃんとキスしたはずなのに女の子の姿のままだからである。
どういうことなのか事情を説明してもらおうとお店へ戻るとさっきまで姿をくらましていた姉さんを発見。すぐさま身柄を確保し、現在へ至るわけで。ちなみにまなみちゃんはというと母さんに呼ばれ店の奥へ消えている。
「あのね、キスしたら元に戻れるなんてそんな魔法じみた薬なんてあるわけないじゃない。常識的に考えなさいよ」
あきれ顔でそう宣言する姉さん。非常識の固まりである姉さんに常識なんて説かれたくないです!
「今日一日我慢なさい。明日には元に戻れるから。せっかくだから今日一日お店で働いてみたら? きっといい経験になるわよ」
「そんな経験したくないってばっ!」
誰が好き好んでこんな恥ずかしい姿見せびらせるかってんだよ。やりたきゃ自分でやれってんだよ。
「そう? それは残念。せっかく二人のかわいいメイドさんが見られると思っていたのに」
「二人のメイドさん?」
それってどういうこと? 認めたくはないんだけど、一人目はボクで確定なんだろうけど、もう一人っていうのは一体誰なんだろう。姉さんは絶対着ない(着せるのは好きなくせに)だろうし、となると母さんか。ちょっとだけ想像してみる。……先生、違和感これっぽっちもないです。身内とはいえあれで二児の母っていうんだから世の中ってほんと不思議だよね、なんて一人うんうんと頷いているとドアの開く音が聞こえてくる。
「はーい、ちゅうもーく。本日だけですが新しいスタッフが増えましたぁ、ぱちぱちぱち〜。それじゃあご挨拶ご挨拶」
「えっとその……佐藤まなみです。よろしくお願いします」
「……」
「うんうん、かわいいかわいい」
母さんの背後から現れたまなみちゃんの姿に驚くボク。どど、どうしてまなみちゃんがまなみちゃんがボクの同じ服装……メイド服なんか着てるんですかぁー。
「どうどう、惚れ直したでしょう」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら尋ねてくる母さん。ええ、そりゃもう。こんなかわいいメイドさんに『お帰りなさいませご主人様』なんて言われた日には、毎日だって通って……ってなんてこと言わせるんですか。
それよりも一つだけ許せないことが。
「かーさんの嘘つきっ! 長いスカートあるじゃないかっ!」
「だってだってかなちゃんの絶対領域見たかったんだもん」
そんなの見なくていいです!
「そ、それじゃあ私が奏くんのを……」
「それはそれでダメっ! まなみちゃんの絶対領域を見ていいのはボクだけ……あ」
しし、しまった! ついつい本音が。でもでも一応彼氏なんだし、それぐらいは主張してもバチは当たらない……よね?
「かなちゃんったら独占欲つよすぎ」
「いい、いいでしょ別に」
恥ずかしさのあまり顔が赤くなる。するとまなみちゃんはボクのすぐ側までやってくるとはにかみながら一言、
「それじゃああとで取り変えっこしようね。二人っきりのところで」
「……う、うん」
まさに災い転じて福となすです。言ってみるもんだね、うんうん。あとでデジカメ用意しておかないと。
そんなことを考えていると、母さんがパンパンと手を叩きながら、
「はーい、それじゃあお客さんも待っていることだし、二人とも頑張ってお客様にご奉仕してあげてね」
「マジですか」
「もちろんマジに決まっているじゃない。きっときっとお店始まって以来の売り上げになるわよ〜」
「勘弁してよぉー」
そう言ったところで、許してくれるはずもなく。こうしてボクとまなみちゃんはこの姿でメイドとして(なにがうちはメイド喫茶じゃないからだ。しっかり謳ってるじゃないか)お客様にご奉仕する羽目に。
追伸、母さんの宣言通り、閉店まで店は満席でした。……まあ、男だし、その気持ちもわからなくはないけどね。
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