「………ちゃん」
「……………」
(なな、なんで?)
「……かなちゃん」
「………」
(どど、どうしてまなみちゃんがここにいるの?)
「かなちゃんてばっ!」
「……え?」
「こーら、お客さんがいらしたのにボーっとしてちゃあダメでしょう。さ、ご挨拶ご挨拶」
「ごご、ごめんなさい。えっと、あの、そのー……おお、お帰りなさいませ、ご主人……じゃなくって、お嬢様」
母さんに急かされすぐさままなみちゃんに挨拶したものの、動揺しまくりで練習通りみたいに上手くいくはずもなく、のっけから大失敗です。
「かなちゃんかなちゃん。あのね、ここは店員さんの制服がたまたーまメイドさん風なだけであって、別にメイド喫茶じゃないから普通に『いらっしゃいませー』でいいわよ」
それならそれでさっきまでの練習は一体なんだったんですか。
「ちょっとしたお茶目かな。さてと、まなみちゃん紹介しておくわね。今日から土日限定でうちのお店を手伝ってくれることになった白石かなちゃん。不束者ですがよろしくお願いしますね。ささ、かなちゃんからもご挨拶ご挨拶」
母さん母さん、あのねいくらなんでもその名前は安直すぎないでしょうか? 『かなで』と『かな』、おしりの一文字を取っただけなんですけど。でも母さんに宣言された手前、話を合わせないと。
「えっと……奏くんのいとこで白石かなと言います。まなみちゃ……まなみさん、よろしくお願いします」
「初めまして。私、佐藤まなみと言います。こちらこそよろしくお願いしますね」
「まなみちゃん、ごめんなさいね。ちょっとだけかなちゃん借りるわね。かなちゃん、ちょっとこっちへ」
まなみちゃんに断りを入れてからボクを店の奥へと連れて行く母さん。
「どう? 驚いた?」
ええ、そりゃもうこれでもかってぐらい驚きましたとも。まさか母さんが言っていた第三者がまなみちゃんだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたから。
「やっぱりこれぐらいのサプライズがないとおもしろくないだろうと思って。さてと、ここから先は若い二人に任せて、かーさんは撤収するわね」 「はい? ちょちょ、ちょっと待って」
撤収って、もしかしてあとは自分でなんとかしなさいってこと?
「そうね、有り体に言えば」
「そんなぁー、いくらなんでも無責任すぎるよぉー」
こんな姿にしておいて放置するなんていくらなんでもそれはあんまりです。
「そうかしら? どちらかというと悪いのは奏くんだと思うんだけどなー。そもそも奏くんがさっさと告……とと、いけないいけない」
「何? ボクが何?」
慌てて口を塞ぐ母さん。その行動に疑問を感じたボクは母さんに尋ねたものの、『何でもなーい』の一点張り。ものすっごく気になります。
「でもでも、かなちゃんならきっと大丈夫よ。まなみちゃんに気づいてもらえるわ。なんてったってかなちゃんはかーさん自慢の娘なんだから」
「な、何を根拠に」
どうしてまなみちゃんにボクだって気がついてもらえるって言い切れるんですか。ちっともわからないです。それとね、さっきから何度も言ってるけれど、ボクは娘じゃなくって息子だってば。
「だって変わったのは外見だけだもの。内面は奏くんのままだから」
「ボクのまま?」
「そうよ。姿は女の子かもしれないけれど、中身は男の子のままってことよ。例えば、短いスカートをはいているときは、こう内股にして足をうしろに持ち上げるようにして靴を脱がないとダメなの。さっきかなちゃんがしたみたいにこう足を内側に持ってきて脱ごうとすると……そうね、やってもらった方が話が早いか。かなちゃん、ちょっとやってみて」
「う、うん」
母さんに言われたとおり、さっき靴を脱いだときのように足を持ち上げたところで、母さんに声を掛けられる。
「はい、ストップ。かなちゃんからだと気づかないかと思うんだけどね、スカートがめくりあがっちゃっててか−さんから中が丸見えになってるわよ」
うしろにいたかーさんからの言葉に首をかしげる。中が丸見え? 別に問題なんて……あ。
「ぎゃあぁぁぁーーーーーっ!」
慌てて足をおろすボク。ももも、問題大ありだよ。ということはということは、まなみちゃんにまなみちゃんにぱぱぱ、ぱんつ見せちゃったってことじゃないかぁぁーーーっ! あまりのショックにへなへなとその場に座り込むボク。
「いくら女の子の姿をしてても、中身は男の子のままってことよ。優風ちゃんにはノーヒントでって言われてたんだけどね。かーさんからのささやかなプレゼント」
だから優風ちゃんには内緒だからね、と人差し指を口にあてる母さん。
(ボクはボクか……)
そうだよね。母さんの言うとおりだよね。こんな姿をしていてもボクには違いないってことだよね。
「ありがとう、母さん」
「いえいえ、かわいい娘のためですもの。それじゃあかなちゃん、頑張ってね」
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