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change 作者:ちびとら

第1回   今は女の子なの

 体の異変に気がついたのは、目を覚まして着替えようと寝間着のボタンに手をかけたときだった。


「……あれ?」


 どうして胸が盛り上がってるんだろう? しかも異様なぐらいの大きさに? まさか寝ている間に蜂にでも刺されたとか……って、いくらなんでもここまで腫れるはずないか。そもそも痛みもちっともないし。

 となると考えられるのはいつもの姉さんの悪戯ってところか。肩を落とし、はあーっとため息を吐くボク。

 いくら熟睡したら何をしても起きないからって、ボクは姉さんのおもちゃじゃないんだからこういうことは止めてって何度も言ってるんだけど、月一回ぐらいのペースでなんからしらの悪戯を仕掛けてくるんだよね、これが。

 前回はゴスロリ着せられてたし、その前はうちの学校の制服(もちろん男の方ではなく女子の方)だったし、その前の前は確か……そうそうナース服だよ、うんうん。そういえばあのナース服、いくらなんでもちょっと丈が短すぎで……ごめんなさい、話が逸れました。

 まったくもう。毎回毎回よくもまあ飽きずに仕入れてくるよね、あんなモノ(服)。ある意味敬意を払いたく……なるわけあるかっ! あんな悪戯に付き合わせるボクの身になってほしいものだよ。大体ね、ボクは姉さんの着せ替え人形じゃないんだから、と力説したところで姉さんが止めるなんてこれっぽっちも思わないけど。ええ、ある意味慣れたけど。

 で、今回はなんのコスプレだ。CAさんとか婦警さんとか、あとやっていないものとなると……あれ? そういえばさっき自分の目で確認したときには、いつも着ている寝間着だったじゃないか。コスプレじゃないとすると今回は一体何だろうね? この異様に膨らんだ胸に何か深い意図が隠されているとか? あー、そっか、そう言うことか。あることを思い出したボクは思わずポンと手を叩く。そういや姉さん前回のときに、


 『せっかく胸を強調するような衣装にしたのに胸がなくってつまんない』


 なんて無茶なこと言ってたっけ。男なんだから胸なんかあるわけないつーの。ということは今回のターゲットはこの胸ってところだね、うんうん。

 きっと姉さんのことだから、ボクが眠ってからひっそりこっそり部屋に入ってきて、ブラでも着けて、その中になんか詰めもので膨らませたってところだね。でもって、オチとしてはボクに『起きたら女の子になってるー』とか言わせるつもりだったんだよ。うんうん、我ながら名推理、名推理っと。

 まったくもう、いくらなんでもそんな子供だましが通じるかってんだよ。ささ、こんな邪魔くさいもの(ブラジャー+詰めもの)なんてさっさと取って着替えないと。

 だって今日はまなみちゃんとの大切な約束があるんだから、こんなことに構ってられるかってんだよ。ようやく決心がついたんだ。まなみちゃんに好きだって告白するって。今日会ってまなみちゃんに想いを伝える、そう決めたんだから。

 でもよかった。今日、まなみちゃんの予定が空いていて。今までにも何度か電話したことあるけれど、あんなに緊張したのは生まれて初めてだよ。いけないいけない、さっさと着替えないとね。

 あれ? なんだこのボタン、すっごく外しづらいぞ……ていうか逆になってるし。これってもしかして女性用の寝間着か? ということは今回もある意味コスプレだったってこと? うーん、まさか同じ柄の寝間着なんか用意しているなんて、姉さんには地味すぎて気が付かなかったよ。だって姉さんだからすけすけのネグリジェとか用意しそうだしね。

 ま、いっか。ボタンさえ外してしまえば、あとはこっちのもの……って、あれ? ないぞ、ブラが。おっかしいなぁー、いくらなんでもボタンを2、3個外せば布地が見えてもおかしくないはずなのに。証拠にほら、こうしてちゃんと谷間が見えてるんだから……あれ? 谷間? なんで? なんで男であるボクに胸の谷間なんてあるんだ?

 首を傾げつつ胸に手を持って行く。手にはふにふにと柔らかくってそれでいて弾力というか張りのある感触が布越しに伝わってくる。なんで? どーしてこんなに胸が大きくなってるんだ? これじゃあまるで女の子みたい……って、そんな生物学的法則を無視したようなことあるわけないじゃないか。どーせ両面テープとかなんかで直接体に貼り付けているだけだよ、きっと。

 確認のため寝間着をグイッと引っ張り中を覗き込むや否やすぐさま元に戻すボク。


「ぎゃあぁぁぁーーーーーっ!」


 思わず大声を上げるボク。どどど、どういうこと? ななな、何でボクに胸(しかも巨乳だし)なんかあるの?

 あまりの出来事に動揺しまくったボクは誰でもいいから相談しようと部屋を飛び出したまではよかったものの、どこかに躓いたわけでもないのに急にバランスを崩すとそのまま床へとダイブ。クッション(胸)があっても痛いものは痛いです。

 ううー、これ(胸)、すっごく邪魔です。歩くたびこんなに揺れるなんて思いもしなかったです。女の人ってすごいなぁー。こんな邪魔なものあっても普通に歩いてるんだから。あ、もしかしてブラって揺れを抑える役目が……なんて分析なんかしている場合じゃないだろうがっ。急いで下に行かないと。

 体を起こし、フラフラしながら廊下を移動し、難関である階段を慎重に下り居間へ。中に入ると朝食を準備していた母さんの姿が。た、助かったぁー。


「母さん母さんっ!」


 ボクの呼びかけに手を動かしたままこちらに顔を向ける母さん。


「どうしたの奏(かなで)くん……じゃなかったわよね。かなちゃん、そんなに慌てて。朝ご飯だったらもうすぐできあがるからちょっと待っててね」

「え、あ、うん。それじゃあ顔でも洗って……じゃなくって! それどころじゃないよ。あのねあのね、信じてもらえないかもしれないけれど、起きたら胸が胸が」


 さっき自分で確認したときみたく左手で寝間着を引っ張りながら右手で胸を指さすボク。すると母さんは手に持っていたフライパンを置きコンロの火を止めると、パタパタとスリッパを鳴らしながら近づいてくる。そしてボクの左手をやんわり押さえ、ボクの胸を隠しながら、


「こーら、ダメでしょう。女の子がそんなはしたない真似しちゃ。これでもかーさん、かなちゃんをそんな風に育てた覚えはないんだから」


 はい? 女の子?


「何言ってるの、母さん? ボク男だよ」


 反論するボクに母さんはそれぐらいわかってるわよと軽く頷いてから、


「昨日まではね。でもねかなちゃん、今は女の子なの」


 疑うんだったら違うところも確認してみたら、と視線を下に向ける母さん。母さんに言われたとおり確認のため一旦廊下へ出るボク。さすがに母さんの目の前で確認はできないから。

 パタンとドアを閉め、何度か深呼吸し、気持ちを落ち着かせたところであそこに手を持って行く。持って行くと……。


「ぎゃあぁぁぁーーーーーっ!」


 ボクの悲鳴が廊下に響き渡る。

 ななな、ないよ! きれいさっぱりなくなってるよ! うそだよ、そんなことあるわけないよ、きっときっと何かの間違いだよ。そう思いすぐさま中を覗き込んだものの結果は変わらず。


「ど、どうして……」


 ショックのあまり全身からすうーっと力が抜け、その場にへなへなと座り込んでしまうボク。神様ぁー、ボク何か悪いことしましたか?


「うーん、86のEってところかしら?」

「……姉さん?」


 顔を上げると、何かを品定めをするような視線を向けている姉さんの姿があった。それにしても86のEか……。大きいとは思っていたけど、まさかそこまであるなんて思わなかったよ。どーりでバランス崩すわけだ。一体何キロあるんだ、これ? あ、余談だけど、姉さんには服の上からでも瞬時に相手のサイズを見極められるという特技があるからサイズに関しては間違いないはず。


「やっぱり苛めるなら巨乳に限るわよねー♪」


 姉さんは素早くボクのうしろに回り込むと胸をわしっと掴みもみもみし始める。


「ちょ、やだ、姉さん。ちょっとやめて、うひゃぁっ! お願い、お願いだから、そんなに強く揉まないでぇぇーーーっ!」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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