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S.S.(シークレット・サービス) 作者:ちびとら

第8回   特別な存在

 弦音さんの追跡(といってもただモニターを監視していただけなんですけどね)によって、優結ちゃんの居場所を特定した千尋ちゃんたち。すぐさまここから数キロ離れたところにある埠頭へと急行しました。

 優結ちゃんが捕らえられている倉庫から少し離れたところで車を止めた香菜芽さん。後部座席へ目を向けました。

「ちいにい、できる限りのことはしたけど、もって5……ううん、3分が限界だと思うから」
「ありがとね、真依子ちゃん」
「えへへ」

 傷口をカモフラージュするため新しい制服へ着替えた千尋ちゃん。感謝の意を込め真依子ちゃんの好きな頭をなでなでしてあげました。

「さてと、そろそろ時間ね」

 袖をめくり時間を確認した香菜芽さん、ブレーキを踏み、シフトレバーをPからDへと切り替えたところで後ろの二人に声を掛けます。

「準備はいい?」
「うん」
「こっちもOKだよ」
「それじゃあ行くわよ」

 アクセルを思い切り踏み込み車を急発進させる香菜芽さん。向かう先はいうまでもなく優結ちゃんが捕らえられている倉庫でした。


「ボ、ボス奴がっ!」

 倉庫の外で警備をしていたはずの黒服……えっとこのあいだ、いくつまで振りましたっけ? ページ戻すのめんどくさいのでまたAさんからということで話を進めますね。

 えっと、改めまして。倉庫の外で警備をしていたはずの黒服Aさん、中で余裕をぶちかまして葉巻をプカプカさせていたボスさんへと報告します。

「はあ? 奴らだと」
「へ、へい」

 次の瞬間、ロックしていたはずの倉庫の大きな扉が自動的に開きだし、そこからまばゆい光が差し込み始めました。

「だ、誰だ! 扉を開けた奴は」

 『はぁ〜い、私だよぉ〜ん』と返事したのは真依子ちゃん。とはいっても車の中からでは相手のボスさんにはこれっぽちも聞こえませんけどね。

 扉が数メートル開いたところで光源の正体が車のヘッドライトだと気づくボス以下黒服の皆さん。ライトを背に一人の人影が照らし出されました。

「優結さんを迎えに参りました」

 声の主はというと……って、今更言うまでもないですよね、そうです千尋ちゃんでした。

「千尋さん、どうして……」
「おお、おまえら何してる。相手は怪我人だぞ。さっさと黙らせてこんか!」
「へ、へいっ!」

 ボスに叱咤された黒服の皆さん。ナイフやら鉄パイプを手に千尋ちゃんへと立ち向かっていったものの、千尋ちゃんの放つトランプの前に次から次へとあえなく撃沈。それにしてもほんと懲りない人たちですね。少しは学習した方がいいですよ。

「まさか、優結さんに……はあ……危害は加えてないですよね」

 トランプを放ちつつボスさんを睨みつける千尋ちゃん。うーん、とっても目が据わってます。般若のような形相ってこういうのを言うんですよね、きっと。

「この野郎っ!」

 接近戦ではとても敵わないと判断したちょっぴりおりこうさんの黒服Bさん、胸元から取り出した銃を千尋ちゃんへ向けた……まではよかったんですけどね。怒りのスイッチの入っちゃった千尋ちゃんを止めようなんてある意味勇者さんですよね。

「うっるさいです! 邪魔するんじゃないです!」

 黒服Bさんが引き金を引く直前に千尋ちゃんが放ったトランプが銃口へと突き刺さった結果、行き場の失った銃弾がバーンという音を立て内部で暴発しました。

 このままでは全滅させられるのも時間の問題、そう判断したボスさん。ついに最後の手段を取ることにしました。

「ここ、これ以上近づいてみろ。ここ、こいつの命はないと思え」

 優結ちゃんに銃を突きつけるボスさん。天井近くにある採光用の窓ガラスに向けトランプを放ったところで歩みを止めた千尋ちゃん。

「そそ、そこにトランプを置け。全部だ」

 ボスさんの指示に従いそっとトランプを床に置く千尋ちゃん。

「そそ、それで全部か」

 無言のままコクリと頷く千尋ちゃん。

「おい、おまえら念のため確認してこい。隅々までな」
「へいボス」

 隅々という部分を強調するボスさん。その言葉の意図を理解した黒服CさんとDさん、それはもう嫌らしい目つきで千尋ちゃんの元へ向かって行きました。

「悪く思うなよ嬢ちゃん。これもボスからの命令なんでね」

 千尋ちゃんが着ていたカーディガンのボタンを外し、手を掛ける黒服CさんとDさん。そのうちの一人がおっと手がすべったと千尋ちゃんの膨よかな胸にわざと触れたものの、何事もなかったかのように一切表情を変えない千尋ちゃんが。

「目的は私なんでしょ。千尋さんには手を出さないで」
「こっちにだってプライドってもんがあるんだよ。こいつには散々コケにされたんだ。これぐらいはなぁ」

 優結さんから銃口を外し、銃を持った手で千尋ちゃんの服を脱がせている黒服Cさん、Dさんにさっさとせんかと促すボスさん。外したスカーフを投げ捨て胸元にあるファスナーへと手を掛けたところで、突然、ボスさんが手にしていた拳銃が何者かの手によってはじき飛ばされました。

 それをやったのは弦音さんでした。ここから数百メートル離れた先にある大型クレーン上から千尋ちゃんが割った窓ガラスでできたほんのわずかな隙間を縫ってライフルでボスさんが手にしていた拳銃を狙撃したのでした。

 それを合図に千尋ちゃん、服を脱がせようとしていた黒服CさんとDさんのあごを素手で砕くと、すぐさましゃがみ込みトランプを拾い上げました。そして常人とは思えない瞬発力でスタートを切るとそのままボスさんめがけ全速力で駆け出しました。その反動で傷口が開き出血し始めるもののそんなことお構いなしに次から次へとトランプを投じ、あっという間にボスさんを残し黒服の皆さんを全滅させたのでした。

「彼女に、優結さんに手を出した代償、その命で償ってもらいますから」

 ボスさんめがけてトランプを放つ千尋ちゃん。ボスさんの体からわずか数センチ離れたところに突き刺さるトランプ。その光景に恐怖のあまり失禁&気絶するボスさんなのでした。

「優結さん、お怪我は……」

 ようやく優結ちゃんの元へ辿り着いた千尋ちゃんでしたが、時間切れというか出血多量によりついに意識が途切れ倒れ込んじゃうのでした。

「千尋さん、しっかりして下さい! 千尋さんってばっ!」

 両手を縛られている優結ちゃん、必死に千尋ちゃんへと呼びかけていると、駆けつけた香菜芽さんと真依子ちゃんの手で再度応急処置が行われ始めました。

「どうして、どうしてこんな無茶なことを……」

 ようやく香菜芽さんに縄をほどいてもらったところで涙をボロボロと流しながら千尋ちゃんに声を掛ける優結ちゃん。香菜芽さん、優結ちゃんにコートを掛けながら『真面目だからお仕事というのもあるんだけどね』と前置きしてから、

「なによりも千尋ちゃんにとって優結ちゃんは特別な存在だからなんじゃないかしら」

 そういって優しく微笑む香菜芽さん。

「……バカ。千広くんの……バカ。まだ私、千広くんに気持ちを伝えていないのに……」
「やっぱり気がついてたのね。千尋ちゃんが千広くんだってこと」

 以前一度だけ見た千広くんの背中にあった傷跡が千尋ちゃんにもあったからと答える優結ちゃん。

「香菜芽先生、お願いがあるんですけど……」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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