バイトを終え、優結ちゃんの住むマンションまでやってきた千尋ちゃんと優結ちゃん。別れ際、千尋ちゃんは優結ちゃんに1枚のメモ用紙を手渡します。そこに書かれているのは千尋ちゃんの連絡先でした。
『もし外出する際には、どんなに近くでも連絡いただけませんか』
いつ何時でも構いません、すぐ駆けつけますから決してお一人で外出だけはしないでくださいねとお願いする千尋ちゃん。わかりましたとメモを受け取る優結ちゃん。明日、迎えに来る時間を確認し、マンションのエントランスから優結ちゃんを見送る千尋ちゃん。できることならコバンザメのごとく24時間、ぴったりくっついていているのが理想なのですが、まだ優結ちゃんからお許しが出てませんからね。まあ許しが出てたとしても、千尋ちゃんにできるかっていわれるととっても微妙なんですけど。真依子ちゃんの報告によるとこのマンション、セキュリティーはしっかりしているとのことなので、今日の報告も兼ね一端退却することにした千尋ちゃん。
自宅へと戻った優結ちゃん。シャワーを浴びている途中であることを思い出しました。
(しまった。帰りにコンビニに寄って買ってくるつもりだったのに……)
胸元に目を向け、ちょっぴりため息をつく優結ちゃん。科学的根拠がないことぐらい十分理解してはいるものの、毎日欠かさず飲んでいるんだから少しぐらい大きくなってもいいじゃないと不満の声を漏らす優結ちゃん。とはいえ日課ですからね。たとえ一日、されども一日です。悩んだ末、買いに行くことを決意した優結ちゃん。千尋ちゃんからは外出するときには連絡下さいと言われてたけれど、そんな理由で千尋ちゃんを呼び出すのは気が引けるし、すぐ近くだし、それに今日一日これといって何も起きなかったわけだし。きっと同姓同名とかで私じゃないんだよ。そもそも狙われる理由なんてこれっぽっちも思い当たらないしねと結論づけた優結ちゃん。お風呂を出て髪を乾かしてから外出することに。
コンビニで牛乳とお気に入りのお菓子を買って自宅へと戻る途中、ある異変に気づいた優結ちゃん。さっきまではこんな黒塗りの大きな車停まっていなかったのにと。
『優結さん、貴方をお守りするためにこの学園へとやってきたんです』
千尋ちゃんの言葉を思い出す優結ちゃん。ちょっとだけ不安がよぎります。優結ちゃんが歩みを止めた直後、車から黒のスーツに黒のサングラスという、いかにもそれらしき人が数名降りてきました。
「優結お嬢様ですよね。お迎えに上がりました」
その中の一人、ここでは黒服Aさんとでもしましょうか。が、一歩前へ出て優結ちゃんに車へ乗り込むように促してきました。あらあら、優結ちゃん予感的中です。
「だ、誰ですかあなたたちは」 「お父上の知り合いのものですよ」
不敵な笑みを浮かべる黒服Aさん。
「父も母もとうに他界しました」 「おや、そうでしたか。おかしいですね、我々が入手した情報よるとお父上はまだご健在のはずですが。まあ詳しいお話は移動の車中で、ということで」
再度、車に乗り込むよう促す黒服Aさん。身の危険を感じた優結ちゃん、逃げだそうと振り返るとそこにも黒スーツ姿の集団が。
(あの話、本当だったんだ……)
千尋ちゃんに連絡を入れなかったことを後悔する優結ちゃん。
「ささ、どうぞ」 「いいえ、遠慮させていただきます」 「千尋さん」 「お、おまえ、いつの間に……」
そこのいた全員が驚くのも無理ありません。まるで手品のように千尋ちゃんが現れたのですから。千尋ちゃん、黒服Aさんに向かって『これからカラオケに行くんですから邪魔しないで下さい』と宣言し、優結ちゃんの肩に手を回し抱き寄せます。
「邪魔立てするようならどうなるか、わかるよなぁ」
懐にしまっておいたサバイバルナイフをちらつかせる黒服Bさん。その光景に思わず息をのむ優結ちゃん。
「えー、わかんなぁーい」
優結ちゃんの不安を余所にわざと戯けてみせる千尋ちゃん。
「この野郎、ふざけやがってっ!」
ナイフを抜き、千尋ちゃんめがけ襲いかかる黒服Bさん。
「千尋さん危ないっ!」 「ぎゃあぁぁーーーっ!」
悲鳴を上げたのは千尋ちゃんではなく左手で右手の手首を押さえうずくまる黒服Bさんだった。ちなみにというか案の定というか、彼の手の甲には1枚のトランプがグサリと突き刺さっていました。うーん、何度見ても痛そうですね。
「女性に向かって野郎扱いはいかがなものかと思いますけど。優結さん、失礼しますね」 「え? きゃっ!」
人差し指と中指で挟んでいたトランプを仕舞い、優結ちゃんをお姫様だっこする千尋ちゃん。
「しっかりつかまってて下さいね」 「え、あ、はい」
言われたとおり千尋ちゃんにギュッとしがみつく優結ちゃん。そして千尋ちゃんが右手を空へ向かって挙げたと同時に二人の体が宙へと舞う。驚きの声を上げる黒服の皆さま。そりゃあそうですよね、人間の常識を逸した跳躍力を目の辺りにしたのですから。まあタネあかしをすれば、千尋ちゃんの右手首にある腕時計風の装置から近くの建物の外壁めがけてワイヤを発射、勢いよく巻き上げることによってあたかも飛んでいったように見せただけなんですけどね。
ワイヤを巧みに操作し、黒服の皆さまの輪から脱出した千尋ちゃんと優結ちゃん。優結ちゃんを降ろした千尋ちゃん、『少々お待ち下さいませ』そう言って黒服集団へと向かっていきます。瞬く間にKOされていく黒服の皆さま。
「つつ、次はこう上手くいくとは思うなよ。野郎ども、引き上げるぞ」
残機が残りわずかとなったところで、典型的な悪の手下さんお約束の台詞を吐きしっぽを巻いて逃げ出す黒服の皆さま。彼らが撤収したのを確認したところで優結ちゃんに向き合う千尋ちゃん。
「優結さん、お怪我はありませんか?」 「あの、その、えっと……は、はい、大丈夫……です」
めまぐるしい展開に未だ混乱している優結ちゃんに向かって頭を下げる千尋ちゃん。
「私、優結さんに謝らないといけないことがあるんです」 「ああ、謝らなくちゃいけないのは私の方で……あ」
優結ちゃんの口元にそっと人差し指を添え、その先にある言葉を遮る千尋ちゃん。
「優結さんに無断でマンションのエントランスを監視していたんです」 「そんな私の方こそ連絡もせずに出かけた挙げ句、事件に巻き込まれちゃって。千尋さんにとんだご迷惑を掛けてしまって申し訳ありませんでした」
頭を下げる優結ちゃん。
「迷惑なんかじゃありませんて。だってお願いしたのは私の方からなんですよ。優結さん、貴方を守らせて下さいって」 「千尋さん……」
千尋ちゃんの心遣いに思わず目元を潤ませる優結ちゃん。
「優結さん、貴方をお守りすることをお許しいただけませんでしょうか?」 「あの、その……よ、よろしくお願いします」
それではマンションまでお送りしますねと歩き出そうとした千尋ちゃんに向かって優結ちゃんからある提案というかお願いが。
『優結さん、しばらくの間うちに泊まっていただけませんか』
まあ優結ちゃんからしてみればそうお願いしちゃうのも無理ないですよね。なにせ襲われちゃったばかりですから。とはいえ千尋ちゃんからしてみれば、まあ色々とあるわけで。なにせ中身はあくまで千広くんですから。
「しょ、少々お待ち下さいませ。香菜芽姉さ……上司に確認取りますので」
どうしたらいいのか困った千尋ちゃん、とりあえず香菜芽さんに相談することにしました。
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