日付が変わり、学園へ登校する時間を迎えた千広くん改め千尋ちゃん。ちなみに真依子ちゃんの話では今回のお薬の効力は一週間に設定されているとのことです。ということは……千広くん、女顔であることに加え、お薬の影響で性別が反転しちゃってますからね。プラス、スタイルもなかなかのモノ(もちろん女性としてですよ)になってますし、よほどのことがない限り千尋ちゃんが千広くんだと気がつく人なんていないです。そんな状態で登校して『実は千広なんです』なんてぶっちゃけたりしたら色々と問題が発生しちゃいますよね。そもそも隠密行動しなくちゃいけない人物が目立ちまくってどーするんですかー、です。
とはいえ優結さんの警護をするならできる限り側にいた方がなにかと都合がいいわけで。まあそのために女の子になった(させられた)わけですしね。そこで香菜芽さんからある提案が出されたわけですが……。
クリーム色のセーラー服に襟は薄茶、胸元には濃い茶色のスカーフをきゅっと結び、襟と同色のプリーツスカートという学園指定の制服を身につけた千尋ちゃん。あらあら、ここまで似合っているとある意味怖いですよね。どこからどーみても女子生徒にしか見えませんね。香菜芽さん、グッジョブです。
半ば諦め、いつもより早めに家を出て学園へと向かう千尋ちゃん。学園へと到着すると普段は昇降口経由教室へ向かうのですが、本日向かった先はというと職員室。なにせ手続きしなくちゃいけませんからね。転校生の千尋ちゃんとして。
転入手続きを終え、香菜芽の計らいで優結ちゃんと同じクラスへ編入することに成功した千尋ちゃん。とはいえ千尋ちゃんからしてみればとっても複雑な心境なんですけどね。なにせ優結ちゃんと同じクラスということは、別の言い方をすれば自分のクラスに編入しているわけですから、そんな気になっても無理もありません。恐らく世界広しといえどもそんな経験した人いないはずです。
転入生恒例の挨拶&質疑応答を終え、席へと着いた千尋ちゃん。次のお約束行事といえば校内案内ですよね。本来ならクラス委員が受け持つところなのですが、さすが香菜芽さん、クラス委員には別の仕事を与え、その任を上手いこと優結ちゃんへと割り振るところなんてとっても用意周到です。
こうして優結ちゃんと接触する機会を得た千尋ちゃん。とはいえ基本ベースはあくまで千広くんですからね。姉の弦音さんと違って恋愛ごとにはめっぽう弱い上、プラス校内案内とはいえ優結ちゃんと二人っきりというシチュエーションです。それだけでもう緊張しまくっちゃう訳でして。そんな千尋ちゃんの姿を見た優結ちゃんはというと、きっと転校したばかりで緊張しているんだなと解釈(まあ事情も知りませんし無理もないです)、千尋ちゃんに対して優しく気遣うのでした。初めのうちはぎこちなかったものの、終盤にはとっても仲良しさんへと相成った二人。最後に千尋ちゃん、優結ちゃんにある約束を取り付けます。お話がありますので放課後屋上に来てもらえませんからと。そう、ボディーガードの件を伝えるために……。
「千尋さん、ごめんね、遅くなって」
放課後、待ち合わせ場所である屋上で待っていた千尋ちゃんの元に駆け寄る優結ちゃん。
「ううん、私も今来たところだから。優結さん、今日は色々とありがとうございました」
休み時間の合間を縫って校内を案内してもらった優結に感謝の意を込め、深々とお辞儀をする千尋ちゃん。
「いえいえ、クラスメイトとして当たり前のことをしたまでだよ。ところでお話ってなにかな?」 「優結さんにだけ本当のことお話しします。実は私、ここの生徒じゃないんです」 「え?」
思いも寄らない千尋ちゃんの言葉に困惑する優結ちゃん。無理もないですよね、いきなりそんなこと言われたら誰だって困っちゃうはずです。そんな優結ちゃんを他所に言葉を続ける千尋ちゃん。
「優結さん、貴方をお守りするためにこの学園へとやってきたんです」 「ど、どういうことですか。だって私、普通の……」 「一部の方々にはそうではないんです。ですから私が……」 「誰、ですか? 誰に頼まれて、なんですか?」
千尋ちゃんの言葉を遮るかのように鋭い眼差しを向け詰め寄る優結ちゃん。
「申し訳ございません。依頼主に関することはお答えすることはできないんです」
深々と頭を下げる千尋ちゃん。依頼主からの要望ですから、こればかりは致し方ありませんよね。とはいえ優結ちゃんからしてみればそんなこと関係ないんですよね。
「千尋さん、もし貴方が私の立場だとしたら、はいそうですかって納得できちゃうんですか? よろしくお願いしますなんて言えちゃうんですか?」 「無茶なお願いだということは重々承知しています。ですが信じて下さい。そして貴方をお守りすることをお許し下さいませんでしょうか」
優結ちゃん、半ば諦めの混じったため息をつくと、
「……きっと私に拒否権なんてないんですよね」 「申し訳ありません」
優結さんからお許し出るまでは登下校時とか外出時に限らせていただきますからと申し出る千尋ちゃん。
「え、外出してもいいんですか?」
予想外のことに驚きの声を上げる優結ちゃん。そりゃあそうですよね。だってボディーガードをしてもらわなければいけない状況ということは、何らかしらの危険が迫っているということですよね。だとしたら極力、外出は控えて下さいと言われてもおかしくないですから。
「優結さんの安全を第一に考えるのでしたらそれが一番なんでしょうけどね。でも、私としてはできる限り、優結さんには普段通りの生活を送ってもらいたいんです」
だからといって優結さんに危険が及ぶような真似は絶対しません。それと優結さんからお許しが出るまでは一定の距離を置いての警護にしますからと付け加える千尋ちゃん。
「千尋さんって変わった人ですね」 「そう、ですか?」 「だってそこまで気を遣うなら危険が及ぶまで陰から警護とかしませんか?」 「ポリシーなんです」
千尋ちゃんの答えに思わず笑みを浮かべる優結ちゃん。
「わかりました。けれどもまだ納得できたわけではないので、答えは保留でいいですか」 「もちろんです」
これからアルバイトがありますのでと歩き出した優結ちゃん。何歩か歩いたところで何か思い出したかのようにポンと手を叩くとくるりと千尋ちゃんへと向き合う。
「千尋さん、二つほどお願があるんですけどいいですか?」 「ええ、私のできることでしたらいくらでも」
優結ちゃんからのお願い、一つめは『尾行されるぐらいなら正々堂々と隣を歩いて下さい』で、もう一つはというと『これから向かうところ、できれば内緒にしていただけませんか?』だったのでした。
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