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falsehood 〜嘘から始まる恋物語〜 作者:ちびとら

第9回   違うの?

 途中、乗り換えを一回挟み、電車に揺られることおよそ一時間ちょっと。電車を降り駅から歩くこと十分、本日の目的地であるチーズ好きの小動物がメインキャラクターとなっている遊園地へと到着した。

 入場ゲートの手前にズラリと設けられているチケット売り場で二人分のチケットを買い、その脇を抜け入り口へと向かう。

「ほいチケット」
「え、あ、うん……」
「玲緒、どうかしたか?」

 玲緒は俺が差し出したチケットをじいっと見つめているものの、何故か手を伸ばそうとはしなかった。

「……やっぱ払う」
「はい?」
「『はい?』じゃないわよ。チケット代に決まってるでしょうがっ」

 ちょっとだけ頬を膨らませながら、手に持っていた籐製のバッグから財布を取り出そうとしている玲緒。その手を制しながら、

「今日は俺が全額持つって話だっただろうが。ていうかそもそも言い出しっぺはおまえだぞ」
「そんなのわかてるわよ。そうなんだけど、そうなんだけどさ、その……明日も、でしょ?」
「……明日?」

 えっと……何かあったっけ?

「あのね、華乃とのデートに決まってるでしょう。あんたのことだからあの子に出させるような真似、絶対しないでしょ」
「ああ」

 そういやそういう設定にしたんだっけ。すっかり忘れてた。

「大丈夫、明日の分はちゃんと姉さんから取材費という名目でもらっているから」
「ええっ! あの弥生さんがっ! 嘘でしょそんなの」

 玲緒の指摘通り、そんなの真っ赤な嘘である。仮に、仮にだぞ、姉さんに『取材に行くから金をくれ』なんて口にした暁には……。ブルブル、考えただけで恐ろしさのあまり寒気がしてきた。それに俺自身の持論として、やっぱ女性に出させるような真似だけはさせたくない訳で。

「ホントだってば。その代わり『期日までに間に合わなかったらどうなるかわかってるわよね?』と釘さされたけどな」
「あは、あはははは」
「笑いごとじゃねえよ。でもまあそういう訳だから気にしなくていいぞ」
「……いいの、ほんとに」
「ああ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「おう、甘えろ」

 これにて一件落着、かな。

「ねえ恭平、一つ確認しておきたいんだけど……いいかな?」
「うん? なんだ?」
「今日はその………デート、なんだよね?」
「一応な」

 昨日の別れ際、人の首をグイグイ締め上げながら『いいこと、明日はあくまでも下見だからね、し・た・み。断じて決してぜえぇぇーーーったい、デートなんかじゃないからね。いい、わかった! わかったらさっさと返事するっ!』と半ば脅して……もとい仰ったのはどこの誰でしたっけ?

「デ、デートってことは、その………こここ、恋人同士ってことなんだよね?」
「……はい?」

 玲緒先生、別にそういう関係でなくてもデートぐらいはするものじゃないのでしょうか。

「だったら、その……やっぱりこういうことしなくちゃいけないんだよね?」
「こういうこと?」

 次の瞬間、玲緒のとった行動に目を丸くする。

「れ、玲緒?」
「えっと……違うの?」

 小首を傾げながら上目遣いで尋ねてくる玲緒。や、やばいって、そんな姿を見せられたら理性なんてきれいさっぱり吹き飛んでそのままぎゅっと……………はっ! そんなの、生死の境をさまよっているときに、こっちへおいでとクイクイと手招きしている天国の父さん母さん(二人とも健在です)の元へ飛び込んでしまうぐらいまずいじゃないか。ていうか、そもそもどこをどう解釈すれば、そういう風になるのかこっちが聞きたいぐらいだ。なにせ玲緒のとった行動とは、俺の左腕、もう少し詳しく説明すると二の腕あたりだな。そこに数時間前に味わったあのもちもちして柔らかい感触が……。そう、玲緒はまるで抱きつくかのように俺の腕に自分の腕を絡めてきたのである。

「れ、玲緒?」
「な、なに顔を赤くしてるのよぉ」

 あほかっ! そんなことされたら当然だろがっ! ましてや相手がその……ごにょごにょごにょごにょ……。

「そ、そういうおまえだって顔、赤いじゃんかよ」
「こここ、これはお化粧のせいであって、断じて決してぜえぇぇーーーったい、恥ずかしいとかそういうのじゃなくって……ちょ、ちょっと、なによぉ」

 俺の視線に気が付いた玲緒は見るからに機嫌が悪そうな視線を向けてきた。

「いや、ちょっと嬉しかったから」
「なにがよぉ」
「化粧。まさかそこまでしてくれるとは思っても見なかったから。どうりでいつもと雰囲気が違うわけだ、うんうん」
「こここ、これはその母さんが勝手にやったことであって、わわわ、私は別にそのあのえっと……」

 玲緒は頭のてっぺんから煙が出てもおかしくないぐらい顔を真っ赤にしながら、弱々しい声で言い訳し始めた。

「ま、そういうことにしておくわ」
「ここ、こらそこっ! 勝手な解釈するんじゃないわよ」
「ほーら、時間ももったいないことだし、さっさと行くぞー」
「ちょっと恭平、まだ話は終わってないわよ。いーい、私はね、あんたのためになんか……」

 なんだかんだ文句を言いつつも、俺の左腕に絡められた玲緒の腕が離れることはなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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