「ねえねえ、次はそうだな……よしっ! これ、これにしよっ♪」
声を弾ませ手にしたガイドブックに書かれているアトラクションを指さす玲緒。
(予定と違っちゃったけど、楽しそうだしこれはこれで良しとするか)
昨日の晩、ある情報筋から入手した『お姉ちゃんが好きなアトラクションランキングぅ〜』を参考に予めスケジュールを立てたんだけど……。一つめ(これに関しては計画通りだった)をこなした時点で『次はあれに乗ってみたいなぁ』と上目遣いで催促され、二つめをこなした時点で『次はあれよね、あーれ』とあっさり主導権を奪われ、三つめをこなした時点でまあ現在に至るわけで。
(そろそろ、かな?)
玲緒に気がつかれないように注意しつつ時間を確認する。えっと、アトラクションの平均待ち時間が三十分前後として、ざっと計算するとそろそろ次の行動に移さないとまずい時間であった。
「なあ玲緒、そろそろお昼にしないか」 「お昼? あれ? もうそんな時間……って、ああっ!」 「どど、どうした? 急に大きな声なんか出して」
何事かと思い玲緒に尋ねる。すると玲緒はしゅんと顔を俯かせながら、
「やっぱりその……は、初デートと言ったら、えっとあのその……て、手作りのお弁当を……」 「すまん、それだけは勘弁してくれ」
即答する俺。料理のスペシャリストである瑞菜さんの血を受け継いでいるはずなのに、玲緒の料理スキルといったら……。よくぞ今まで死人を出なかったものだと、別の意味で感心してしまうぐらいの腕前だった。
「ご、ごめん! ちょっと待ってて、すぐ探すから。えっと恭平はお肉の方が好きだったわよね。確かこのあたりに……」 「いや、その必要はないから」
パラパラとページをめくっている玲緒に声を掛ける。
「だってお昼食べるんでしょう? せっかくこういうところに来てるんだし、それにその……デ、デートなんだから、ハンバーガーとかじゃあいくらなんでも味気も色気もないでしょう? だったらここはちょっと奮発して……あ、お金のことなら心配しなくていいよ。チケット代は恭平が出してくれたんだから、ここは私が……」 「ストップ!!」 「きょ、恭平?」
俺の声に目を丸くする玲緒。
「実はな、もう予約してあるんだ」 「予約? 何の?」 「あほかっ! もちろん昼に決まってるだろうがっ!」 「はあ? あんたこそ何言ってんのよ。ここにあるレストランはね、ぜーんぶその場に行かないと予約できないようなシステムになってるのよ。今までずっと一緒にいた……ああっ! まさかあんたっ!」 「えへへ、そゆこと」
入場してすぐのこと。『ちょっとトイレに行ってくるからそこの店でも見ててくれないか』そう玲緒に告げ向かった先はというと、トイレではなくレストランの予約カウンターだったのである。
「へー、あんたにしてはずいぶんと手際がいいのね」 「そりゃまあ一応デートだからな」 「どーせ未緒の受け売りってオチなんでしょうけどね」 「うぐっ!」
これまたバレてたりして。
「それじゃあ恭平、エスコートよろしくね♪」
そう言って玲緒は今となってはごくごく当然のように俺の左腕に自分の右腕を絡めてきた。
|
|