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Letter 〜三ヶ月遅れのbirthday〜 作者:ちびとら

第1回   プロローグ
「私、絶対に手術は受けませんっ!」
 主治医である知佳先生に向かって私は強い口調でそう答えた。次の瞬間、あたふたと困惑した表情を浮かべる先生の姿、今でもはっきりと覚えている。

 事故だった。駅まで妹を迎えに行った帰り道、信号無視してきたトラックが私の運転する車にぶつかってきた。聞いた話によると、車は激しく吹き飛ばされ反対車線にある電柱にぶつかってようやく止まったそうだ。目が覚めるとベッドの上、そんなのドラマだけの話だと思ってたけれど本当だった。だんだんと意識がはっきりしてきたところであることに気づく。そうだ、妹は? 優希は何処? 上半身を起こし白く無機質な空間を見回す。けれども優希の姿はどこにもなかった。こうしてはいられない。一刻も早く優希を……。立ち上がろうとした瞬間、ある異変に気付く。ウソ……なんで……なんで足に力が入らないの。もしかして骨折とかしているとか。慌てて布団を引きはがす。けれどもギプスはおろかこれといった外傷らしきものは見受けられなかった。だったらどうして……。どこからともなく不安という波が押し寄せてくる。まさかそんなこと……そんなことあるわけない。そんなの……そんなの絶対認めたくない。けれど現実はそれを許してはくれなかった。
 さすっても、叩いても、掴んでも、どんなことをしてもピクリとも反応を示さない両足。先生曰く、足の自由を奪っているのは腰椎にできた血腫による神経圧迫が原因だと教えてくれた。ただし手術を受けて血腫を取り除きさえすれば歩けるようになるかもしれない、そう付け加えた。
 今となってはそんなことどうでも良かった。何故って、先生の話にはまだ続きがあったから。それは妹の優希のこと。優希も私と同じように両足が動かなくなったそうだ。『治るんですよね。手術を受ければ治るんですよね』すかさず先生に尋ねる。けれども先生は首を縦に振ってくれることはなかった。
 脊髄損傷、それが優希から歩くという行為を失わせた原因だった。しかも私と違って手術を受ければ治るというものではなく、それどころか現代の医学では治療法すら確立されていないとても難しい病気だった。
 目の前が真っ白になっていく。私が……私が優希の……。優希に取り返しのつかないことをしてしまった。私があんなことさえ言わなければ。迎えに行ってあげるなんて言わなければ、こんなことには……こんなことにはならなかったのに……。

 だから私は手術は受けない。妹の未来を奪った私にそんな資格はないから……。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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