翌朝、完膚無きまでに寝坊した俺たちが学園へと到着したのは、あとちょっとで三時限目の終わりを告げるチャイムが鳴るところだった。チャイムが鳴るまで屋上へ通じる階段の踊り場で時間を潰し、チャイムが鳴り階下がわいわいがやがやと騒がしくなったところで教室へ向かった。 「あれ?」 「司さん、どうかしました……わ、人がほとんどいない」 教室のドアを開けるとどういう訳だかわからないけれど、中には二桁にも満たない人数しかいなかった。一体どうなってるんだ? 三時限目が体育とか教室移動を伴うようなものではなかったはずだし、もしかして集団食中毒にでも……って、まだお昼前だし、それにうちの学食でそんなこと起きそうもないし。ここは誰かに聞いてみた方が早いだろう。さて、誰に話を聞こうかな……お、ちょうどいいところに適任者がいるじゃないか。側まで近づき声を掛ける。 「よっ、名緒」 「おはようございます、名緒ちゃん」 「二人ともおっはようさん」 「名緒、ずいぶんと人が少ないみたいだけど何かあったのか」 「休講よ休講。三、四時限目続けて休講ときたらよほどの用がない限り学食とか図書室に行っちゃうわよ。それにしても二人揃って四時限目からご出勤とは……」 名緒はレポート用紙の上を走らせていたペンを止め、めんどくさそうに顔を上げてきた。途端、名緒の表情が瞬く間に凍りつく。続いて持っていたペンがするりと指先から抜け落ち、机の上をコロコロと転がりだした。 「おい名緒、どうしたんだよ急に」 「う、うそぉ……」 「な、何だよ。まるで狐にでもつままれたような顔しちゃってさ」 名緒は俺と七海の間を指さしながら、 「三上クンと七海ちゃんが手を繋いでる……」 「あ……。えっと、これはだな、その……」 経緯を説明しようと口を開きかけたところで何故だか名緒はくすくすと笑いながら、 「なーんてね、冗談よ、冗談♪ ねえ三上クン、これからちょっと時間いいかな?」 「別に構わんが……」 そう言いながら、ちらっと隣にいた七海に視線を向ける。すると七海は俺が何を言いたいのか察してくれたらしく小さく頷き返してくれた。それにしても目と目で話が通じるなんて、まるで何年も付き合っているような恋人同士みたいで、思わず嬉しくなってしまう。 「あ、もちろん七海ちゃんもだからね」 「え、わたしもですか? え、あ、はい」 急に声を掛けられた七海は戸惑いながらも返事をした。だったら始めから七海の名前も一緒に呼べばいいだろうに、まったく。 「さてと、話もまとまったところで。ここじゃあなんだし、とっておきの場所があるからそこに行きましょ」 名緒を先頭に俺と七海がそのあとをついて行くような形で教室をあとにした。
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