(この部分を抜かしてしまいました。(2)と(3)の間に入ります) 翌日は昼前から小雨が降ってきて、鈍く光る硬い素材でできた天幕を被りながらの走行となった。次第に強くなる雨に、カサンはぶつぶつと文句ばかりつぶやいていて、アリスタとヴァン、他のマシンナートたちもあきれて寝たふりをしていた。急にモゥビィルが大きく傾いた。 「きゃあっ!」「うわっ!」 イージェンと抱きかかえられていたセレン以外の五人は互いにぶつかり合って、あやうく荷台から落ちそうになったものもいた。 モゥビィルが斜めになったまま停まった。イージェンがすぐにセレンを抱えて、飛び降りた。モゥビィルは泥の中にはまってしまっていた。他のマシンナートたちもなんとか降りてきた。カサンが前の席を覗き込んで怒鳴った。 「何してるんだ!泥にはまったぞ!」 モゥビィルを動かしていた運転士が顔を出した。 「雨でぬかるんでたんです、しかたないでしょ」 行法士が降りてきた。車輪のはまり具合を見て、ため息をついた。 「板積んてたっけ」 聞かれてヴァンが答えた。 「板はないな、テント、下に敷くか」 雨避けに使っていた天幕の布を畳んで、車輪の下に押し込んだ。運転士がひとり残り、動かした。だが、車輪は空回りして泥から抜け出せなかった。カサルとアリスタを除く三人の男が後から押すことになった。 「せーの!」 ヴァンの掛け声で運転士がモゥビィルを動かそうとし、男たちが肩で後から押した。ほんの少し後の車輪が進んだが、すぐに戻ってしまった。 「壱号車に連絡して、モゥビィルを寄こしてもらいましょう」 行法士が運転士に連絡させようとした。イージェンが後ろに回った。 「こうなると馬車もモゥビィルも変わらないな」 その皮肉っぽい言い方にカサンは頭に血が上った。詰め寄ろうとしたとき、イージェンが手のひらを荷台の後に押し付けた。手のひらが光って、モゥビィルがぐっと動き、次には車体が少し浮き上がった。 「なっ!」 皆絶句した。トンと押しやると、モゥビィルは泥から出て、道の上にドォンと音を立てて降りた。 「魔力を認めなかったら、モゥビィルはまだ泥の中ってことだよな?でも、実際にモゥビィルはどこにある?」 イージェンの更なる皮肉に、ついにカサンの顔が青ざめた。ヴァンが泥だらけになった天幕をひっぱり上げた。 「できれば、こいつを使う前にやってほしかったな」 イージェンがそっぽを向き、セレンを抱き上げて荷台に飛び乗った。ヴァンがアリスタに肩をすくめて見せ、天幕を荷台に上げた。泥だらけの天幕だったが、雨避けに広げた。雨はその後さらに激しくなった。 「到着はいつなんだ」 イージェンが誰ともなく尋ねた。ヴァンがちらっと前の座席のほうを見た。 「予定では夕方には着くはず。少し遅れてるから、なんとか夜早い内には着くだろう」 モゥビィルに乗ってみるのも経験と思ったので同行したが、慣れないことと雨に濡れたために、セレンが疲れていた。少し熱っぽい。飛んでいれば今朝には着いていた。 「セレン、もう少しで着くらしい…我慢できるか」 出来なければ、モゥビィルを降りて、どこかで身体を乾かし、温めようと思った。頬を少し赤くしたセレンが見上げた。 「だいじょうぶです」 それならもう少し待ってみるかと抱き直した。 すっかり日が落ち、モゥビィルの前に付いている四つの灯りが道を照らしているだけになった。雨はまだ止んでいなかった。マシンナートたちも、身体が冷えたようで、唇が紫色になっているものもいた。 イージェンは首を巡らせて前方を見た。はるか先に海らしき揺らめきが見えた。モゥビィルの速度なら、後一刻くらいと思われた。
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