太陽が1番高くなる刻、最後の演説が始まりました。 次々と立候補者が壇上に上がっては、力強く演説をして降りていきます。 雇い主が最後の演説を真剣に語り始めました。 昨日、愛娘をなくした父親の必死の思いがひしひしと伝わってくる演説です。 シェイドたちは、舞台の隅で控えています。 影に立っているシェイドの左手には、小さく、そして黒く光る拳銃が握られて いました。 聴衆の人込みの中に背の高いすらりとしている女と、その横にパーカーの帽子を だぼだぼにかぶった、がっちりした体格の同じくらいの背丈の男が見えます。 「・・・。」 その二人をじっと見守ります。 演説が盛り上がって、もうすぐ終わるだろう頃合になった時でした。 パーカーの男が女に耳打ちしました。
その瞬間女は、ジャケットの内ポケットに手を入れて素早く小型の銃を抜いて構えました。
「大丈夫だよ。」
誰もいない空間にそう言って、シェイドは左手を真っ直ぐ前に出し、引き金を引き ました。
ぱきゅんっ
高い音が、会場の沈黙を運びました。 カン、そう音がして、女の構えた銃を弾き飛ばしました。 女は驚いた表情を見せた後、急いで人込みに紛れようとしました。 しかし、背後には既にリンが回りこんでいて、その場で取り押さえられます。 その横の男も、もう片方の手で、しっかりと捕まえていました。 「お前っ・・・!!」 壇上の雇い主は、その女の存在を見つけて、そう一言だけ呟きました。 演説は無事に終わり、選挙も何事もなく進んできます。 それから、シェイドたちは主犯の2人を警察に突き出し、そして直ぐに殺し屋の方の アジトも差し押さえられました――。
仕事を終えた2人は報奨金を約束通り受け取って屋敷を後にし、次の町に向かうために、オアシスのような町を出て東に向かっています。 シェイドたちが、屋敷の主人が当選して、また政治家として復活したことを知るのは次の町についてからでした。
―草原の中に舗装された道路がありました。 さわさわと、春の風が緑の長い草を揺らしています。 車の運転席には、前に出しすぎのシートに座ってシェイドが運転しています。 その横の助手席には、狭苦しそうにリンがシートベルトをちゃんと装着して座って いました。 「俺、名前付けたよ・・・無いと呼ぶときに困るから。」 そう言って、片手でホルスターから小さな銃を出しました。ボディは黒く、日の光を反射しています。 「ユリア=v シェイドは、少し目を細めてそう言いました。 「そうか・・・。」 リンも、少し笑って言いました。
クリーム色の、古ぼけて今にもぶっ壊れそうな車は、がたがたいいながら道を進んで いきます―。
―fin―
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