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掃除屋【クリーナー】 作者:葉月 東

第3回   オアシスの花
奥の客室に通された二人は、依頼の内容を聞きました。

―家の主人は政治家で、うまくやっていたのだが市民からの信頼を得ている自分を
疎ましく思うジエルフという政治家に目をつけられて政治家生命を絶たれた。
しかし、主人は2日後の再選挙でまたやり直すつもりでやってきている。
が、ここでまたジエルフの手が迫ってきていた。
幾度となく消されかけたが、何とか今日まで持ちこたえている状況で3日前に
なった今、ジエルフの手配した殺し屋たちが本格的な動きを示してくるはず・・・(娘に
よって確信済)。
そこで、その激戦から主人を守り、ついでに昔からこの町を脅かしてきた殺し屋の存在のデリートを頼まれて欲しい―
というのが今回の仕事の内容でした。

話の後、シェイドたちは報奨金の相談も終え、用意された部屋に向かっています。
シャワー浴びたい。シェイドは、リンの横で独り言を言います。
それに答えて、リンも首を縦に振りました。
いきなり、どふん!という音がして、リンがバランスを崩しかけて止まりました。
シェイドが、ひょいとリンの後ろを見ると、金色の美しい少女がくっついています。
リンの毛に顔をうずめて、なにやら満足そうでした。
・・・そこに、一瞬の沈黙が流れました。

―客室。
「先、シャワー浴びてくる。」
そう言って、シェイドがバスルームに消えていきます。少し気に入らなさそうな表情
でした。
ソファにパンダが座っていました。その膝の上にはユリア嬢がいます。
「リンさん、どこからいらしたの?」
ふわふわした小さな少女はリンに聞きました。
「・・・・。」
リンは、ちょっと無視しました。
ユリアは、すこしむぅっとした表情を作って言います。
「ユリア、殺し屋のリーダー知ってるのにな。」
ぱっとリンの顔がユリアのほうに向きました。
「撫でてくれたら教えてあげる!」
リンは少し考えて、しぶしぶユリアの頭を優しく撫でてやりました。
ふふっとかわいく笑って、リンを抱きしめてから、話を始めました。
「実はユリアの新しいお母様なの、ちょっと前につかんだ情報なんだけどね、お父様の財産目当てよ。」
何故それを父親に言わないのか、と聞くと、言ったわ!と返ってきました。
「信じてくれないんだもの、私が新しい母様にやきもちを妬いているって思って
いるの!ホント馬鹿みたい。私が始末してやろうと思ったけど、お父様が悲しむのは嫌だし・・・なにより人数が多いのよ。」
どのくらい?と聞くと、家に使用人として入ってるのが分かっているだけで15人、と答えます。
「そうだ、よかったら私のコレクションを見に行きません?必要なものがあったら
貸して差し上げるわ。
まだ、お父様にもメイドの人たちにも話してない秘密の部屋にあるの!」
とても楽しそうに緑色の目を細めました。
「シェイドと一緒に行った方が、ためになるんだが、駄目だろうか?」
リンさんの頼みだものいいわ、そう言って、またぎゅっとしました。
それから、皆には内緒よ!と言って家の見取り図を渡されたときでした。
ちょうどメイドが、ユリアを迎えに来ました。
出て行く前に、リンにそっと耳打ちしました。
―今日の6時、お庭にあるライオンの噴水のところでね。―

その5分後サッパリしたシェイドが、出てきました。
それから、さっきまでユリアと話したことを手短に話して、リンは腰を上げてバスルームに入っていきました。
シェイドは、それを見送って、どさりとベッドに倒れこんでボソリと言いました。
「どういう情報網だよユリア嬢・・・。」
それから時計を見やってまだ少し時間があることを確認して目を閉じると、驚異的な速さで睡眠に入りました。

―PM6時中庭噴水前。
シェイドたちは、ユリアが来ないので体術の組み手をしていました。広くてとても適していたからです。
「がっ!!」
リンの掌拳が、シェイドの顎にはいって吹っ飛びます。
いたた・・・。そう言って、体を起こして芝生の上にあぐらを掻きました。
「来ないな。」
リンが、近づいて来て言いました。
シェイドが、きょとんとしてリンから話しかけてくるなんてめずらしい!
と、びっくりしました。
嫌な予感がする。そうリンが言った瞬間です。
ばあん!!と、二階の一室の窓が派手な音とともに破れて、人影が飛び出てきました。手には、細い 何かを握っていました。
「あそこユリアの部屋だ・・・。」
リンが、そう言い終わる前にシェイドは、ホルスターからコルトを抜き出して影に狙いをつけて撃ちました。
空中の影から肉片が飛ぶのが見えると、片方の羽をなくした飛行機のように不安定に回って庭に落ちました。シェイドが駆け寄ると胸に穴が開いた女性が死んでいます。
「確かユリア嬢のメイド・・・。」
手には、サイレンサーが付いた銃をしっかり握っていました。

そのころ、リンはユリアの部屋に走っていました。
鍵の掛かったドアを蹴破ると白いスカートが赤く染まりかけている少女が、力なく壁に寄りかかっています。
「ユリアっ!!」
リンの声が部屋に響きました。
うっすら開かれた緑の目は、力無くリンを見ます。
「時間遅れちゃっ・・・た、ごめ・・。」
うまく喋れなくて、喉がヒューヒュー鳴っています。
リンが、急いでユリアをおぶさって人を探しました。
驚くほど人は、いません。
「鍵・・渡しとくね、噴水のライオンの口の中に・・させば・・・・。」
鍵を持っていた手に力が無くなって、金属音とともに鍵は床に落ちました。
リンの背中に当てられていた小さな手にも、もう力を感じません。
静かにリンの足は止まりました。
丁度、人を呼んで駆けつけたシェイドが足元の鍵を拾いあげて低い声で言いました。
「案外早く動き出したな、色々知りすぎてたんだ――。」

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Novel Editor