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掃除屋【クリーナー】 作者:葉月 東

第2回   オアシスの花
チェンジを動かして、クリーム色の古い車は、今にも解体してしまいそうな勢いで黒い煙を出しながら 走り去っていきました。
土煙の尾を引きながら、車は道を進んでいきます。

車の中で、シェイドはリンに言いました。
「なんでとめたんだ?」
少し不機嫌そうな表情でした。
「ほおっておいたら、全員死んでた。からまれたのが俺じゃなかったら、1分後には
全員死んでた。」
リンは、静かに、そして落ち着いた風に言いました。
1人殺したのは何でなんだ?と聞くと、本当に殺す気はなかったんだが・・・とだけ
答えました。
シェイドは、リンの言った全員殺してた≠ニいうことは否定しませんでした。

不意に、リンが前方を指差しました。
指した一点を見ると、小さな町が見えてきました。
「やっと着いた!まずは、腹ごしらえだな。」
リンが、こくりと頷きます。
実は、二人は2日間絶食中でした。シェイドが、距離の読み間違えをしたために食料の量が足りなかったのです。
町は、周りの環境にそぐわず豊かで、まるで砂漠の真ん中にあるオアシスのよう
でした。
町の北側には、大きなお屋敷が立っています。領主の家でしょう。それは白塗りで、屋根は濃いめの青、アンティーク調の窓枠が財の豊かさを示していました。
今回の依頼者は、あそこの主人か。シェイドは、そう言いながら町の東をひた走っていました。
屋敷とは全然違う方向に車は進んでいきます。まずは私欲を満たすのが先です。
少年はそういう性格でした。

―食事と買い物を済ませた二人は、早速依頼宅に向かいます。
二階に通されて、客室に案内される途中でした。
廊下脇の一室から、まるで鈴がなるような声で笑う少女の声が聞こえてきました。
メイドと何かをして遊んでいるのか、複数の声が混じっています。
その一室の前まで来ると少女の声で、父様のお客様ね?とシェイドたちに話しかけて
きました。
「挨拶をしたいの、入ってきてくださらない?」
そう鈴の声は語りかけてきます。
シェイドたちは、雇い主の娘であろうその人物に失礼の無いようにと思い、部屋の前で足を止めました。
シェイドがドアノブに手を伸ばしてドアが少し開いた瞬間、リンが、かすかに鉄と火薬の匂いを感じ取りました。

ぐっと本能的にシェイドの腕をひっぱってドアから引き離すと同時です。

ぱぱぱぱぱぱぱん。

乾いた音とともに、ドアに小さな穴が開き、白い廊下の壁に黒い穴が7つあきました。
シェイドは、リンにひっぱられて少し宙に浮きながら、ホルスターから素早くコルトを抜きます。
銃弾が止んだあと、素早く安全装置をはずし、親指でハンマーを上げ、ドアの開いた隙間から手だけを伸ばして引き金を引きました。

ずどん。

さっきより強い音が高い天井に反響しました。
少女の座っていたソファの背もたれに大きな穴が開いて、綿がはじけ飛びます。
「当たった?」
壁の陰からシェイドがひょこりと顔を出して部屋の中を覗きました。
少女とメイドが唖然としてソファに開いた穴を見ています。白い煙が、大きく開いた穴とシェイドの左手のものから出ていました。
「あ、死んでないや、おかしいなー俺としたことが・・・」
そう言ってもう一度銃を構えます。
その後ろからリンがとめに入りました。
リンの説得により、しょうがなさそうにシェイドは銃を下ろしました。

「何で撃った?」
コルトをホルスターに戻しながら、少女に聞きました。
シェイドの目に感情はなく、いつもの敵を見る目でした。
少女の座っているソファの肘置きには、細い銃口が見えています。
「お父様に近づく奴は、みーんな悪い奴なの!最近来る人たちは、お父様を殺そうとか連れ去ろうとか、そうゆうこと考えてる人たちが大体だから今日こそ私が始末してやろうと思ったのよ、でも、あなたたちは違ったみたいね?いつも来る奴らはそんな薄汚れた身なりじゃないもの。」
そう少女は言ってシェイドの目をしっかりと見据えました。
ウルトラ級ウファザコン?シェイドは、心の中でそう思いながら疑いの眼差しを
向けます。
「お父様が、狙われてるってのは私の狂言じゃないのよ?おトイレに設置した盗聴器で、ちゃーんと裏は取れてるんですからね!!」
自慢げに少女は威張りました。
「ちなみに、これは私の考案した家具型銃で、12.7口径の銃が埋め込んであるの、オートだから1回で 7発連発できるのよ!」
少女は、さっきまでの唖然とした顔とはうってかわって何か楽しそうにソファの説明をし始めました。
シェイドは、一人で淡々と話をしている少女を点になった目で見ています。

ふと、少女はシェイドのホルスターに眼を落としました。
とたんに頬が赤らんで、美しくウェーブのかかった長い金色の髪を揺らしながら、笑みをこぼして言いました。
「あなた、なんて古いものをお持ちなの!素敵だわ、私のコレクションの中にも無い
ものですもの!とても貴重な種類なのね?」
ああ、兵器マニアか・・・シェイドは誰にも聞こえないようにボソリと言いました。
少女は小切手をメイドに取らせて、数えるのがめんどうなほどの0と最後にユリア≠ニサインを入れました。
これで譲ってもらえないかしら?そう言ってビリリと小切手を破ってシェイドに
差し出します。
「嫌です。」
そう一言言い残して、リンと一緒に部屋を後にしました。

「私、初めてパンダを見ましたわ・・・、二足歩行ができる喋る動物なのね!」
少女、ユリアはそんな新たな発見に胸を躍らせていました。

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Novel Editor