広い広い荒野でした。
荒れ果てた土地には、茶色い草が風に流れて、かさかさ音をたてています。 そこに、粗い砂をどけた簡単な道が続いていました。 一台の車が、地平線の向こうからすごい勢いで土煙を上げて猛スピードで 走って行きます。 道の脇には、赤い太字で50と書いてある丸い看板が立っていますが、 運転手は、まるで見ていませんでした。
運転席には、10代半ばと見える幼い顔をした少年がハンドルを握っていました。 黒いタートルネックのセーターを着て、首には古ぼけたゴーグルがぶら下がって います。 少し汚れた、だぼだぼのズボンをはいて裾は、短めのしっかりしたブーツの中に押し込んでいました。
助手席には―――パンダが座っていました。
大きな大きなパンダは、ちゃんとシートベルトを装着して静かに座っていましたが、少し天井が低いようで、天井に頭が当たっています。横幅も足りないらしく、腕の半分は、サイドブレーキのスペースにかぶっていました。 ろくにサイドブレーキは引けない状態です。警察に見つかれば、おそらく免許取り上げでしょう。 少年は、アクセルに足が届くようにかなりシートを前に出して運転しています。はたから見るとかなり窮屈そうに見えました。 少年の腰には使い込まれたホルスターがぶら下がっており、中にはコルトの45口径が収まっています。
「おい、リン。本当にこの道であってんだろうな?」 少年の少し高めの声が、助手席に座っているパンダに話しかけました。 こくり、と首を縦に振るだけで、リンと呼ばれたパンダは何も言いませんでした。 「お前ホントに殆んどしゃべんないんだな〜。」 前を向いたまま、少しあきれた風に少年は言いました。
なにも無い死にかけの草原に、いきなり爆音が響いてきました。 突如道の左側から巨大な5台のバイクが道を塞ぐように止まりました。 クリーム色の小さな古い車はガタガタといいながら、今にも壊れそうな勢いで止まり ました。 バイクに乗っているのは、いかにも立ちの悪そうなお兄さんたちで、爆音を鳴らした まま降りてきて、少年たちに車から出てくるように促しました。 二人は、エンジンを切らずにそのまま降りてきて、バンパーの前に並びました。 車から降りてきたパンダは、二足歩行でした。 金持ってなさそうだなー、そう皮肉げに男たちは言って、少年の前に立ちました。 ニヤニヤ笑っている彼らの顔を平然と見ながら少年は、何が目的ですか?と淡々と聞きます。 そんなこと聞こえてないかのように男たちは、ひやかします。 「おいおい、パンダだよ!変なペット連れてんなー、旅芸人か!?」 「座長とパンダだけでか?」 そりゃいいぜ、そう言って5人が一斉に馬鹿笑いをし始めました。 何がおかしいんだろう・・・少年は心底そう思いました。 「おい、パンダ。お手しろよ!それくらい仕込まれてんだろ?」 男たちのひとりが、笑いながら手を前に出しました。 リンは、男の吐き捨てた言葉を聞いて一瞬ですが、かすかにピクリとしました。 その動きに気づいたのは、多分少年だけだったでしょう。 しかし少年は、関わりたくない様子で知らんふりをしていました。 「おい!!聞いてんのかっての!」 そう言って、男は内ポケットから、小型の銃を取り出してリンの額に当てようと しました。 が、それより先に、リンの手が銃を取り出した男の頭を、思いっきりはたきました。 言うまでもなく、男はありえない体勢で横に吹っ飛んでいきました。 バイクに激突して止まった男の頭は、リンにはたかれたためにぱっくり割れて赤い液体が溢れ出ています。もう、ピクリとも動きません。 「力入れすぎた・・・。」 リンが、少し低音の青年の声で、ぼそりとそう言いながら自分の手を握ったり開いたりして見ていました。 「お・・お前らぁ――っ!!」 一部始終を見ていた後の4人が、もちろん黙っている訳もなく、怒りにとらわれ少年たちに銃を向けます。 「お前らが、パンダって馬鹿にするからだろ?名前がちゃんとあるんだ、悪いのはそっち。」 少年があっさりと、そう言いました。 「じゃあ、先に名乗れよ!!」 「シェイド。」 それは、お前の名前だろ?そう横にいたリンが付け加えます。 「ふざけてんじゃねえよ!」 他の一人が、シェイドに銃口を向けました。
その瞬間、よせ。と、さっきの青年の声が少し大きめに言いました。 野盗のお兄さんたちはびくんとなって、リンを見ました。 「これ以上絡むな、命がある間にどいてくれ。」 妙に説得力のある口調は、野盗の男たちの顔色を変えさせて、バイクをどかせました。 「仲間を、すまなかったな。」 そう言って、リンは車に戻っていきました。 「一つ聞かせてくれ、何者なんだ・・・お前ら?」 車に帰っていくシェイドに、男の一人が質問してきました。 シェイドは、くるりと振り返って笑顔で教えてやりました。 「掃除屋≠ウ。この世のあらゆるゴミどもを処分する仕事。俺らは、クリーナーって言ってるけどね。」 そう言い終えて、シェイドも車に乗り込みました。
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