「どうにかならないなんて言わせないわ。打開策があるからここに来たのよね…?」
流れることなく留められていた涙を袖で拭いながら、少女は白磁の男を見据えた。
「はい。この砂が落ちきるまでに、彼を見つければいいのです。
けれど、彼の引きずり込まれた世界は、歪んだ空間。
何も信用してはいけません。
世界の時間はアトランダムに移り変わり、窓やドアは時間の境目となっています。
ひとつのドアを開ければ、それはどこに繋がっているか…決まった所に着くことは
1/10くらいでしょう。
…いいですか、ここからが重要です。よく聞いてください。
彼に会いに行くには、3段階ふまなければなりません。
―大過去、過去、そして現在。
この3種類の時間の智樹君に接触する事が必然です。」
順に指を折りながら、サウォンは説明を続ける。
「時間アトランダムといっても年数が変わるほど時間は経ちません。
季節が変わる程度のものと思って頂けるとわかりやすいかもしれませんね。
大きく時間を飛び越すには特別な扉が必要になってきます。
後ろを…、ご覧になってください。」
千影は首を傾げて、玄関を振り返った。
「え…?」
彼女の瞳に映ったのは見慣れた重々しい鉄製のドアではなく、見たことのない、
空色のドア。
まるで3Dで描かれたようなそれは、この世界に馴染んでいなかった。
「それが、飛び越えるためのドアです。
いつどこに現れているのかは皆目見当もつきません。」
少し苦笑して、男は言う。
そこで鍵となるのが…。そう言いながら今度は胸ポケットから
赤い包装紙に包まれた3つの飴玉を取り出して千影に手渡した。
「これは『彼の欠片』とでも言っておきましょうか。 僕たちが今から行く世界は、いわば夢の世界。
そこで彼がこれを口にすることによって、夢の中で覚醒する、という現象が
起きます。
欠けていたピースが揃ったんですからね。」
サウォンはてきぱきと話を進めていく。が、
複雑で、非現実過ぎる説明は、ただ千影の脳の中を掻き回していくだけだった。
「あとは覚醒した彼自身に働いてもらいます。
扉の正確な位置がわかるのは、彼だけですから。」
ようは、飴玉を食べた智樹がナビとなって、自分たちを扉に誘導してくれる、という手
順なのね。と聞くと、満足そうに男は首を縦に振った。
「貴方のやるべきことは、3種類の時間の中で彼を探し出すこと。
この飴を食べさせること。そして、時間までにドアをくぐる事。」
そう再度確認すると突然、あとは進みながらお話します。
と、千影の腕をまた強く引っ張る。
「時間がありません。行きましょう!」
その一声を合図とするように、二人は走り出した。
すると、閉まっていた扉が ―まるで誘っているかのように― 開いていく。
スピードはそのままに、彼女たちはもうひとつの世界に飛び込んだ――。
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