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桜、散る刻まで 作者:フラン

第14回   忘れない。最期まで、君と共に歩んだ僕らの道を――

























和樹は高校2年生として、新入生たちの前に立っていた。
部活動説明会の時間で、写真部の部長という肩書を背負っていた。
目の前の多くの下級生の前で、写真部について語るのが和樹の仕事だ。
メモなどはない。前以て言うことを決めていたわけでもない。
すべてをアドリブで、和樹はそれを行おうとしていた。

「写真部部長の飯島和樹です。今、写真部は俺一人しかいません。本当は、もう一人、部長だったはずの人がいました。けれど、その人はもうこの学校にはいません。なので、俺が部長になりました。」

写真部などに興味ないのか、ほとんどの生徒は周りと話していた。
和樹は構わず続けた。

「きっと、写真なんて…、と思ってる人がほとんどだと思います。最初は俺もそうでした。でも、写真の素晴らしさを、景色に対する感動を、教えてくれた人がいました。」

和樹はマイクを持った手で自分の胸を抑えた。
新入生たちも少しだけ和樹に興味を示し始めたようだ。

「その人は教えてくれました。写真は綺麗な景色があるから撮るんじゃない。自分の感じた想いが、感動した心がシャッターを切るんだ、と。」

自然と言葉が口から出てくる。
和樹は続けた。

「最初は俺もつまらなかった。そしたら、その人が言いました。心震わす景色を見せてあげる、と。俺はその景色に感動しました。」

和樹の熱弁が新入生たちを取り込み始めた。
熱心に耳を傾ける者まで出てきた。

「写真は、生きています。景色が生きたものなら、写真も命を持ちます。もちろん、景色が美しいから生きるのではありません。撮る人本人が写真に命を与えるんです。」

和樹は全体を見回して、マイクを下げた。

「これで、写真部アピールを終わります。興味のある人は、放課後に『写真部』と書かれたドアをノックしてください。」

頭を下げて、ステージを下りる。その後ろから大きな拍手の音が聞こえてきた。




和樹は写真部部室で新入部員を待っていた。
しかし、誰も来なかった。予想していなかったわけではないが、さすがに少し落ち込む。時計は5時を指している。

「早百合がいたら、もっと違っただろうに…。」

愚痴をこぼす。
自分ではやはり、早百合の代わりなど出来ないのだろうか。
早百合が残してくれたカメラを手に取る。それのバッテリーを確認してから、和樹は立ち上がった。

「じゃ、最後の部活動として、やってきますか。」

独り言をつぶやいて、部屋を出て行く。
目指す先は、あの桜だった。




「……………あれから、もう一年か。」

和樹は鮮やかに咲いた桜を見上げて言った。
早百合と出会った、一年前。とても長い一年だったような気がする。
和樹は目を閉じてから、早百合との思い出を脳裏に浮かべていた。

「……早百合。俺は約束どおり、写真を撮ってる。でもよくよく考えたら、写真を撮り続けてる限り、早百合を忘れる事なんて出来ないと思うよ、多分。」

和樹は笑顔で言った。
早百合は死ぬ間際まで、笑顔だった。いや、死んでも、笑顔だった。
和樹はそんな早百合を見習おうとしていた。

「写真部として撮るであろう最後の写真は、2人が出会ったこの桜だ。」

満開の桜。
鮮やかなピンク色。
風に舞う花びら。
たった一本だけそびえる、大きな樹。

春の暖かい風が、和樹の頬を撫でた。
日差しも柔らかくて気持ちよい。
辺りを見回せば、新芽たちが新しい季節のためにせっせと準備をしている。

「……桜は、確かに儚いかもしれない。でも、この春という一瞬のために咲く。精一杯、輝こうとする。――早百合。きみは、いつも輝いていた。」

そう言って、カメラを構える。
レンズ越しに見える風景が、風によって揺れていた。
シャッターを押した。カシャッという乾いた音が響く。

「あ、あの!」

「……ん?」

声を掛けられて、和樹は振り返った。
そこには女の子が1人立っていた。
おそらく新入生。胸のところに、入学祝いの赤いバッジが付いている。

「あたし、飯島先輩の部活動紹介を聞いて、感動して、写真部に入りたくなりました!」

女の子は上気した顔で、精一杯話している。
和樹はそれを静かな優しい目で見つめた。

「あたしも、感動する写真が撮りたいです!お願いします!入らせてください!!」

「……うん、わかった。歓迎するよ。ようこそ写真部へ。」

「は、はい、ありがとうございます!!」

女の子は元気に声を出した。
和樹は桜を見上げながら思う。


―――――早百合。まだ写真部は続きそうだ。きっと来年も、この桜を撮りにくるよ。


「飯島先輩、どうかしましたか?」

女の子が不思議そうに眺めている。
和樹はそれに気づいて、ハッとした。
そして笑顔を取り繕った。早百合を想うと、自然と暗くなってしまうからだ。


―――――だから、それまで待っていてくれ。必ずきみに会いにくるから。


和樹は視線を女の子に合わせて、言った。

「さ、行こうか。」

「え、どこにですか?」

「もちろん、写真撮影に!」






























                                         Fin

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Novel Editor