■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

十人十色 作者:フラン

第4回   4





幸せなんて人それぞれ。

そんなことは知っている。

でも、君の幸せとあたしの幸せが

少しでも同じであったなら

これほど幸せなことは無いと

あたしは思うんだ。














「ねぇ、秀くんにとっての幸せって、なに?」

 あたしの名前は、高木 玲。
 みんなからはレイって呼ばれてる。
 これでもロマンチックなあたし。君の幸せについて聞いてみた。

「んあ?」

 君の情けない声が返ってくる。
 あたしたちが付き合うことになったのは、本当に奇跡で。
 二年前に恋愛に興味ないっていう感じの君が、突然あたしに告白してきた。
 理由を聞くと、『なんとなく、好き。』だって。

「秀くんの幸せって、なに?」

 恋愛沙汰には、とことん疎い君――津村 秀彦。
 これでも、あたしたちは付き合っているの。

「幸せね〜。なんだろうな〜?」

 今いる場所は、大きな公園にある広場の中。
 青く茂った芝生に寝転がっている君と、そこにお尻をついて座っているあたし。
 天気は良好。気温・湿度ともに適度で、心地よい午後二時。
 暖かい日差しの中で、あたしたちは日向ぼっこをしていた。

「……なんて言うか、漠然としてて、言葉にするのが難しいな」

 寝転がっている君が、上目遣いであたしを見る。
 答えに困っている顔をしている君に、あたしは笑いかけた。

「あたしも。幸せの答えって、正解なんてあるのかな?」

 幸せって、何だろう?
 昔から考えているけど、答えに辿り着いたことは一度も無い。
 だからこそ、君に聞いてみた。

「幸せが欲しい人は……手を広げて、集めるものなのかな?」

 あたしがそう尋ねると、君は少し考えるように少し唸った。
 そしてゆっくりとした口調で言う。

「そういう人もいるんじゃないかな。でも……」

 君の言葉に耳を傾けるあたし。
 恋愛には疎いけど、頭は良い君。
 胸に期待を膨らませて、君の言葉を待っていた。

「俺は違うな。幸せって、欲しがるんじゃなくて、勝手にやってくるものだと思う」

 君は寝転がっていた上半身を起こす。
 そしてあたしに向き合って、続けた。

「もちろん少しは努力しなくちゃ、幸せなんて来ないけどさ」

 笑顔をこぼす君。
 あたしも釣られて笑ってしまう。

「レイは幸せってどんなものだと思う?」

「……あたしは…」

 ……幸せ…かぁ。
 お金がたくさんあること?
 偉い人になること?
 どれもこれも違う気がする。

「………なんだろうな……。分からないや」

「じゃあ、こういうのは幸せ?」

 そう言うなり、君はあたしに抱きついてきて。
 突然のことにあたしの思考回路は完全にオーバーヒート。
 頭の中がこんがらがって、体温だけが上がっていく。

「な、な、ななな…!?」

 君の匂いを感じる。
 それが心地よくて。
 あたしも、君の腰に手を回した。

「……幸せ?」

 君が尋ねる。
 あたしは無言でうなずいた。
 声を出したら、上ずってしまいそうだから。

「俺も、幸せ」

 君の声。
 君の匂い。
 君の感触。
 それら全てを感じ取れて。
 あたしは……幸せ。
 確かに、幸せって感じてる。
 あたしは、今、紛れも無く、幸せ。

「なぁ、レイ。そろそろ、離してくれる?」

 君の声にハッとした。
 長い間抱き合っていたようで、周りの人たちの好奇の視線を感じる。
 あたしには、それが一瞬のようで。

「あ、ゴ、ゴメン!」

 とっさに離れる。
 君の顔はとても赤くなっていて。
 君も幸せを感じていたのかな?
 もしそうなら、あたしの幸せと君の幸せは…。

「……結構恥ずかしいな、こういうの」

 君が照れたように言う。

「う、うん。そうだね」

 あたしも素直に返す。
 きっとあたしの顔は真っ赤に違いない。

「………ね、レイ?」

「なに?」

「も一回、やっていい?」

 君は赤い顔を更に赤くして。
 あたしに体温も更に上がって。
 恥ずかしい。でも、断れない。
 断りたくない。あたしも君を抱きしめたい。

「うん。」

 今度はゆっくり近づいてくる君。
 そして静かに、あたしの背中へと手を回す。

 君の体重がのしかかって。
 上半身だけを起こして座っていたあたしは、地面に倒れこんで。
 君があたしの上に覆いかぶさるようになって。
 お互いに抱き合った。温かい。
 君のぬくもりを感じる。

「ドキドキしてる?」

 あたしが君の下からそう聞く。

「めちゃくちゃ」

 あたしの耳元でそうつぶやいた。
 そう言ってくれると、あたしも嬉しくて。

「あたしも、すごくドキドキしてる。こんなの……初めて」

 あたしは感じた。
 幸せのカタチを、確かに感じ取った。
 君といること。それがあたしの幸せ。

 君の幸せは……あたしと少しは同じかな?
 こんな風にして、お互いを感じあっている。
 そこに幸せを感じるなら、あたしと君の幸せは、きっと一緒。
 大好きな人と一緒に感じられる幸せ。それは、とっても大事なもので。

「好きだよ、レイ。なんとなくじゃない。……お前が、大好きだ」

「あたしもだよ。大好き、秀くん」

 幸せは、手を広げて求めるモノじゃない。
 きっとそれは近くにあって。それに気が付かないだけで。
 あたしはそれに気が付いた。
 幸せを、この手に握り締めた。

 あたしの幸せっていうのは―――君といること。君を感じること。
 それだけで、あたしは、幸せなんだよ。





← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor