いつも隣にいてくれた
小さい頃から知っているあなた。
あなたを想い続けて
もう何年経つでしょう。
気づいてもらいたいんだけど
気づいてもらいたくない
そんな葛藤を
あたしは胸の中で
何度繰り返したでしょう。
……康太くん。 康太くんは、私の気持ちに気が付いてるんだろうか? 昔から近所に住んでて、幼稚園から高校までずっと一緒の幼馴染。 昔からの腐れ縁。表面上ではそう言っているけど、それは単なる照れ隠しで。
如月 康太(きさらぎ こうた)。 私が、想いを寄せる人。 康太くんは、こんな私を受け入れてくれるだろうか? 高校が同じなのは、実は私が合わせたりしたからだったりして。
「瑞希!」
私が家を出ると、目の前にはあなたが。 如月 康太。私の幼馴染。そして、私の想い人。 ちなみに、私は笹村 瑞希。瑞希って書いて、ミズキって読むの。
「おはよう、康太くん」
爽やかな笑顔を向ける。 あなたの魅力的な笑顔に負けないようにと、精一杯の笑顔。
「そんな呑気な事言ってられねぇぞ! 遅刻しちまうよ!」
実を言うと、わざとこの時間に合わせている私。 だって、そうしないとあなたと一緒にいられる時間が他に無くて。 どうしようもないこの気持ちを、こういう風にして、解消してる。 本当は、もっと一緒にいたいのに。
「ほら急ぐぞ、瑞希!」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
あなたの足は、私のそれよりずっと速くて。 昔……中学の初めまでは、私の方が速かったはずなのに。 あなたが、男の子ってことを認識させられるなぁ。
「康太くん! 速いよぉ!」
「んだよ、おっせぇな!ほら、手ェ貸せ!」
あなたが私の手を引っ張った。 そして、そのまま走っていく。 私は息を切らす事さえ忘れて、あなたの手の感触を感じていた。 心臓だけは、ドッキンドッキンって悲鳴を上げてるけど。
そして、やっとのことで駅に着く。 一応電車にも間に合って、私たちは息をついた。 ホームで数分待っていると電車が来て、私たちはそれに乗り込んだ。
「あのさ、康太くん?」
「ん、なんだよ?」
「彼女とは……うまくいってるの?」
康太くんは、彼女持ち。 もちろん、それは私じゃなくて。 同じ学校で、同学年の可愛いって有名な女の子。 康太くんはその子とお付き合いをしている。
「……別に」
少し仏頂面になってしまった。 でも私にはあなたの事がよく分かる。 その顔をするときのあなたは、照れている証拠。
「なによ〜。幼馴染にも隠すこと無いでしょ?」
「うっせ。瑞希にはカンケーないだろ」
「えへへ。照れてる照れてる」
あなたの顔が赤くなっていく。 それを見て、可笑しい反面、悲しさが込みあげて来る。 あなたの目に見えているものは、あなたの彼女だけで。 私の姿なんて、どこにも無い。 でも、それでもいいと思う。あなたと過ごせる時間があるのなら、それだけでいい。
「俺のことより、瑞希はどうなんだよ?好きな奴の一人でも出来ねェのかよ?」
私が好きなのは、康太くん一人だよ。 そう言えたら、楽になれるんだろうな。 でも言える訳が無い。今の関係を崩すくらいなら、このままでいたい。
「いないよ。だって、素敵な人なんていないんだもん」
「そっか。そうなんだ」
あなたは柔らかな笑みを浮かべて、私を見つめてくれる。 きっとあなたにとって私は、ただの幼馴染で。 妹みたいにしか思っていないのかな? 私は、こんなにあなたを想っているのに。
「でもさ、もし好きな奴ができたら…」
あなたが笑みを浮かべながら、続ける。 私はそれを黙って聞いて。
「俺に相談しろよな? 絶対に力になってやるから」
あなたの優しさが胸に突き刺さる。 あなたの親切さがあたしを貫いて。 そして、私の心の中には、虚しさだけが残って。
「……うん。ありがと、康太くん」
悲しい恋なのかも。 辛い恋なのかも。 叶わぬ恋なのかも。
それでも、私は あなたを想い続けたくて。
あなたの笑顔を あなたの優しさを 少しでもいいから分けて欲しくて。
あなたの彼女に向けられる優しさを ほんの少しでいいから、私にも向けて欲しくて。
「……康太くん」
「ん?」
私がここで告白したら、あなたはどんな顔をするかな? 戸惑うかな? それとも怒ったりするかな? 分からない。その答えを分かりたくもない。
「彼女のこと……大切にしてあげてね」
それしか言えなくて。 あなたは顔を赤らめて、鼻の頭を指先で掻く。
「ったりまえだろ。お前に心配されるまでもねェよ」
そうだね、と私が返す。 そして曖昧に笑っていると、目的の駅に着いた。 私たちが電車から降りると、そこのホームには康太くんの彼女が待っていた。
「遅いよ、康太くん!」
「わりぃわりぃ。ちょっと寝坊しちゃってさ」
康太くんと彼女の会話。 そこには、当然だけど、私の居場所なんか無くて。
「……先行ってるよ、康太くん」
「おう、じゃあな、瑞希!」
私は駅の階段を上がっていく。 後ろでは、あなたと彼女の楽しそうに笑う声。 私は悲しみを押し殺して、心の中でつぶやいた。
このままでいい。 あなたは彼女だけを見ていて。 私はあなただけを見ていて。 その関係で、良い。 きっと、私はあなたと共に歩くことは無いと思う。 だけどそれでも、あなたを想い続けていたい。 それが、あたしの、幼馴染としての たった一つのお願い。
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