まただ。またこの男は、あたしにケンカを吹っかけるようなことばかりする。 それは今朝の出来事である。
朝はやはり眠いわけで。 起きるのが苦手なあたしにとって、朝というのは強靭な敵となる。 でも、ここでの生活では、起きるしかなかった。 だって…。
あの男――ハルが、いつもあたしの胸に手を突っ込んで、その中をまさぐっているんだから。
「というわけだが、何か反論は?」
「いいえ、何もありません」
あたしの手には巨大なハンマーが。 それを何十回か叩き込んでやった。ハルの頭には十数個ものタンコブができている。 自業自得! ざまあみろだ!
「それにしても毎朝毎朝よくもやってくれるわね…。そろそろ本気で天国目指してみる?」
ハルとは一緒の部屋で寝ているのだが。 朝を起きてみると、必ずと言っていいほど、ハルの手があたしの体に侵入してる。
「めっそうもございません。なにとぞ御慈悲を…」
土下座をして、頭を床にこすり付けている。 まあ、そんなことをしても、許す気にはなれないけどね。
「あとハンマーで百発殴らせて。そしたら許すから」
本当なら、それでも許したくは無いんだけど。 そんなことをしている内に、学校のチャイムが鳴ってしまった。 いつも思うんだけど、朝の十分て、夜の三十分くらいの価値があると思う。
「ああもう! 学校に遅刻しちゃうじゃない!」
「梅がいけないんだろーが! いいじゃん、胸ぐらい触ったって! 減るもんじゃなし!」
こんにゃろう…! 急がなくちゃいけないから、今は見逃してやるけど、後で覚えとけよ〜!
「あ、やばっ! まだ着替えてなかった!」
まだ寝巻き姿だった! やばい! 本当に遅刻しちゃう! とりあえず、さっさと着替えて…!
「……こっち見たら、殺すからね」
「梅の着替えを見れるなら、死んでもいいぞ、俺は」
「そう。じゃあ、いま死ね」
ハンマーを使って、ハルを部屋から追い出した。 ふう。まったくエロっていうか、変態というか…! どうしようもないやつだ!
「さ! 早く着替えて学校行かなきゃ! 遅刻は厳禁だしね…」
□
いや、なんだろう、この空気…。 教室に入った途端、みんながあたしを凝視してくる。 え? あたし、何かやったっけ…?
「おいおい。なんかやったのかよ、梅」
「あたしは知らないよ…」
この学校の決まりらしい、男子を横に控えさせるということ。 それに則って、あたしの隣にはハルがいる。
「あ〜、もしかしたら前に屋上で倒した奴らの事かな」
「え? どういうこと?」
「この学校ではテリトリーを争ってバトルするんだよ。屋上だとか、体育館だとか」
……つまり、あたしはあのとき勝っちゃったから、テリトリーを持ってると。 それが原因で狙われることも多くなると。
「じゃあなに? あたしは、テリトリーを持ってるから、こんな目で見られていると?」
「ま、簡単に言えばそう。つーか、正確には梅じゃなくて、俺のおかげなんだけどね」
そんなことは聞いちゃいない。 それより、この痛い視線をどうにかしてほしいな…。 あたしがそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「あんたが恩田 梅かい?」
ボーイッシュな声。あたしは後ろを振り向いた。 そこには美男子とも見違えるような、女の人が。とうぜん隣には、男の子が付いている。
「話は聞いてるよ。たしか、屋上のテリトリーを持ってるんだっけ?」
なんだ、この人は。 妙に馴れ馴れしいな…。っていうか、背が高いなー。
あたしの身長は160。この人は、ゆうに170を超えていると思われる。
「あたしは二年の池田 アスカ。あんたに屋上のテリトリーを巡って、決闘を申し込みたい」
「はあ?」
「時間は放課後。場所は屋上で。じゃ、待ってるから」
………ちょっと待て。 こっちの都合を考えてみてくれ。っていうか、勝手に話を進めるな。 と、言いたいところだが、もうすでにその女の人――池田 アスカ先輩はどこかへ行ってしまった。
「もう! なんなのよ、一体!?」
はああぁぁ…。気が滅入るなぁ…。 本当はあたし、闘いたくなんてないのに…。
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