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ドール・バトラーズ 作者:フラン

第7回   一の巻 『女の敵は、ブッ殺せ!』










 まただ。またこの男は、あたしにケンカを吹っかけるようなことばかりする。
 それは今朝の出来事である。

 朝はやはり眠いわけで。
 起きるのが苦手なあたしにとって、朝というのは強靭な敵となる。
 でも、ここでの生活では、起きるしかなかった。
 だって…。

 あの男――ハルが、いつもあたしの胸に手を突っ込んで、その中をまさぐっているんだから。

「というわけだが、何か反論は?」

「いいえ、何もありません」

 あたしの手には巨大なハンマーが。
 それを何十回か叩き込んでやった。ハルの頭には十数個ものタンコブができている。
 自業自得! ざまあみろだ!

「それにしても毎朝毎朝よくもやってくれるわね…。そろそろ本気で天国目指してみる?」

 ハルとは一緒の部屋で寝ているのだが。
 朝を起きてみると、必ずと言っていいほど、ハルの手があたしの体に侵入してる。

「めっそうもございません。なにとぞ御慈悲を…」

 土下座をして、頭を床にこすり付けている。
 まあ、そんなことをしても、許す気にはなれないけどね。

「あとハンマーで百発殴らせて。そしたら許すから」

 本当なら、それでも許したくは無いんだけど。
 そんなことをしている内に、学校のチャイムが鳴ってしまった。
 いつも思うんだけど、朝の十分て、夜の三十分くらいの価値があると思う。

「ああもう! 学校に遅刻しちゃうじゃない!」

「梅がいけないんだろーが! いいじゃん、胸ぐらい触ったって! 減るもんじゃなし!」

 こんにゃろう…!
 急がなくちゃいけないから、今は見逃してやるけど、後で覚えとけよ〜!

「あ、やばっ! まだ着替えてなかった!」

 まだ寝巻き姿だった! やばい! 本当に遅刻しちゃう!
 とりあえず、さっさと着替えて…!

「……こっち見たら、殺すからね」

「梅の着替えを見れるなら、死んでもいいぞ、俺は」

「そう。じゃあ、いま死ね」

 ハンマーを使って、ハルを部屋から追い出した。
 ふう。まったくエロっていうか、変態というか…! どうしようもないやつだ!

「さ! 早く着替えて学校行かなきゃ! 遅刻は厳禁だしね…」





 いや、なんだろう、この空気…。
 教室に入った途端、みんながあたしを凝視してくる。
 え? あたし、何かやったっけ…?

「おいおい。なんかやったのかよ、梅」

「あたしは知らないよ…」

 この学校の決まりらしい、男子を横に控えさせるということ。
 それに則って、あたしの隣にはハルがいる。

「あ〜、もしかしたら前に屋上で倒した奴らの事かな」

「え? どういうこと?」

「この学校ではテリトリーを争ってバトルするんだよ。屋上だとか、体育館だとか」

 ……つまり、あたしはあのとき勝っちゃったから、テリトリーを持ってると。
 それが原因で狙われることも多くなると。

「じゃあなに? あたしは、テリトリーを持ってるから、こんな目で見られていると?」

「ま、簡単に言えばそう。つーか、正確には梅じゃなくて、俺のおかげなんだけどね」

 そんなことは聞いちゃいない。
 それより、この痛い視線をどうにかしてほしいな…。
 あたしがそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

「あんたが恩田 梅かい?」

 ボーイッシュな声。あたしは後ろを振り向いた。
 そこには美男子とも見違えるような、女の人が。とうぜん隣には、男の子が付いている。

「話は聞いてるよ。たしか、屋上のテリトリーを持ってるんだっけ?」

 なんだ、この人は。
 妙に馴れ馴れしいな…。っていうか、背が高いなー。

 あたしの身長は160。この人は、ゆうに170を超えていると思われる。

「あたしは二年の池田 アスカ。あんたに屋上のテリトリーを巡って、決闘を申し込みたい」

「はあ?」

「時間は放課後。場所は屋上で。じゃ、待ってるから」

 ………ちょっと待て。
 こっちの都合を考えてみてくれ。っていうか、勝手に話を進めるな。
 と、言いたいところだが、もうすでにその女の人――池田 アスカ先輩はどこかへ行ってしまった。

「もう! なんなのよ、一体!?」

 はああぁぁ…。気が滅入るなぁ…。
 本当はあたし、闘いたくなんてないのに…。












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Novel Editor