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ドール・バトラーズ 作者:フラン

第6回   一の巻 『バトルって……ドラ○ンボールじゃないんだよ!?』










 え? なになに、これ。
 すっごく危ないような…。
 だって、まるでドラ○ンボールのエ○ルギー波みたいなのが、びゅんびゅん飛んでくるんだけど…。

 屋上で闘うって…!
 なぜか、あたしに襲い掛かってくるのは、あたしと闘うって言った女の人の傍にいた男の人だし。
 その人が孫○空みたいに襲い掛かってくる。

「こら、梅! はやく闘うんだよ!」

 工藤 ハルがあたしに向かって叫んだ。
 何よ、闘うって!? あたしはただの女子高生だっつーの!

「危ねえッ!」

「え?」

 後ろを振り返ると、あのエ○ルギー波が飛んできていた。
 あわわ…! 避けられなよぉ!

「きゃあっ!」

 間一髪。まさにそのタイミングで、工藤 ハルがあたしをかばった。
 あたしの前に立って、まるで弁慶のように、その光線を受けた。

「おお…! ちょー痛って…!」

 プスプスと焦げ臭い煙が立ち上った。
 う、ウソでしょ…? あたしを守ってくれるなんて…。

「おい、梅…! はやく言えよ、助けてって…!」

 なに、こいつは。
 あたしがお願いしなきゃ、助けないってわけ?
 わけわかんない。そんな痛そうな思いまでして、なんで助けようとするのよ!?

「梅……アンタまさか、まだ学校案内を読んでねえのか?」

 んなもん、読むわけない。
 だって読もうとしたら、総ページ数五百ページ。本なんて目次で飽きちゃうあたしには、無理難題すぎるんだ!

「くそっ…! じゃあ説明するぞ! これは『ドール・バトル』っていうんだ」

 彼が説明をしている間にも、相手の攻撃は続いている。
 それを二人で間一髪のタイミングで、バックステップで避ける。

「支配者(ドミネーター)であるアンタたちが、俺たち人形(ドール)を操って闘うんだよ!」

「そ、それで!?」

「アンタが俺に命令するんだよ! 助けてとか、闘えって!
 そうすると、俺にアンタからパワーが送られてくる! それで俺は闘うんだ!」

 つまり…。
 あたしが工藤 ハルに闘えってお願いするってこと?
 なんだか、気に入らないな…。むしろ最高にイヤな気分だ。

 でも…。
 さっき、こいつはあたしを守ってくれた。
 体を張って、すごく痛そうな思いまでして、あたしを守った…。
 信じても………いいのかな…? こいつのこと…。

「さあ、梅! 頼む!」

 グッ…! そういえば、いつからあたしのことを呼び捨てで呼んでいいことになったんだろう。
 でも、今はいいか。それよりも、この時は、目の前の闘いを制すること…!

「お願い、工藤 ハル! 闘って……そして勝って!」

「オールライトだ、梅!」

 昨日見た光景が、再び目の前で起こった。
 工藤 ハルからほとばしる、金色の光。まるで、スーパー○イヤ人みたい!

「いくぜ、脇役がッ!」

 脇役呼ばわりされた男の人に向かって、工藤 ハルが走り出した。
 それは。おおよそ人間の常識を逸した速度で。まるで瞬間移動でもしたかのよう。

「喰らえやッ!」

 光が、辺りを包み込む。
 例えるなら、真っ暗な部屋から、いきなり明るい部屋に行った時の光。
 目を瞑らずにはいられない光。

 何も出来ない。でも、あたしは願った。
 工藤 ハルが勝つことを。絶対に負けないと。
 彼があたしを守ってくれた。だったら、あたしは信じるんだ…!

「……!」

 光が収まった。
 そして、最初に視界に入ったのは、工藤 ハルの姿。
 頭から血を流して、口元からも血が出ているけど、彼は立っていた。

「工藤 ハル!」

 嬉しくて、ついつい叫んでしまった。
 ちなみに工藤 ハルと闘った男の人は、地面にうつ伏して気絶しているようだった。

「か、勝ったの…?」

「おう。圧勝だよ」

 ウソつけ。だって、体中ボロボロじゃん。
 よく見れば、顔だけじゃなくて、体にも切り傷や擦り傷ができてる。

「くっ…! よくも…! 覚えておきなさいよ!」

 そう言ったのは、闘いを申し込んだ女の人。
 気絶した男の人を抱きかかえて、さっさと屋上から降りていった。
 残されたのは、あたしと工藤 ハル。

「どう? カッコよかったろ?」

 自信と笑顔に満ちた顔。
 それがなんだかシャクに障って、あたしは工藤 ハルの顔にビンタを入れた。
 乾いた音が、晴れ渡る空に吸い込まれていった。

「い…! 痛ってえな! なんだよ、突然!?」

「うるさい! 誰がこんなにボロボロになれって言ったのよ? こんなにケガして…!」

 悔しかった。
 あたしが、もっとちゃんとしていれば、彼はケガをしなくても済んだかもしれない。
 それが悔しい。情けない女だって思われたくないのに!

「もし死んじゃうようなケガだったらどうするのよ!?」

「……」

「ちょっとだけ! 本当にほんのちょっとだけど、心配したんだからね!」

「……わりい」

「……謝って済めば……警察なんか…いらないん……だから…!」

 どうしようもなく、涙が流れた。
 この光景が、あたしの記憶と酷似したものだったから。
 誰かを失うのは……あたしと関わった人がいなくなるのは、もうたくさんだから…。

「泣くなよ、梅ちゃ〜ん」

「だ、誰が梅ちゃんよ!?」

「俺の為に泣いてくれるんだね? ああ〜、俺ってば幸せものだな〜」

「ば、バカじゃないの!? 一生やってろ! このバカ、変態、スケベ!」

 ああもう! 涙が出るなんて…! しかもこの男の前で…! 恩田 梅一生の不覚…!

「ねえねえ、梅ちゃん?」

「……なによ?」

「もしかして、俺に惚れた?」

 プッチーン。
 ありゃりゃ。これはもう救えない…。
 っていうか、どこをどう見れば、あたしがこの男に惚れるって?
 マジでキレそう。つーか、キレた。

「フフフ、寝言は寝て言いなさい、工藤 ハル」

「あ、そうそう。その『工藤 ハル』って呼ぶのやめてよ〜。俺のことはハルって呼んで!」

 この期に及んでこの男は…!
 ……フッ、まあいいか。だって、もうこの男は死ぬんだからね…。

「分かったわ、ハル」

「そうそう。……っていうか、その手に握られてるハンマーは何に使うの?」

 分かりきったことを。
 あたしは、神からの思し召しであるハンマーを振り上げ、この男――ハル目がけて襲い掛かった。

「死ねぇぇぇぇ!!」

「おわぁ!? マジ死ぬから! そんなん当たったらマジで死ぬから!」

「殺すためにやっとんじゃい! 覚悟決めてお縄につけやー!!」

 はあぁぁ…。
 普通に過ごせそうにない学校生活。
 今だけでも忘れたいと思うのは、いけないことかしら…?











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Novel Editor