今は昼食時。 あたしは屋上に出て、お日様をいっぱい浴びながらご飯を食べるのが好きなんだ。 だから、あたしはお弁当を片手に屋上にいるわけだけど。 横に余計なやつがくっついてきてる。
「おっ! 美味そうな弁当じゃん!」
「なによー! そんなこと言ったって、あげないんだからね!」
余計なやつ=工藤 ハル。 何なの、こいつは。いつまであたしに付きまとうわけ?
「じゃあ、から揚げだけ! お願い!」
「やぁだ! あたしだって、から揚げが一番好きなんだから!」
「なんだよ、女の子のくせに! そんなに食うと太るぞ?」
プッチーン。 ありゃりゃ。もうダメだわ、こいつ。 今日が命日だ。
「え、なになに? 怒った? ねえ、怒った?」
「ちょっと静かにしてなさい。すぐ天に召してあげるから」
「冗談だってば。だってアンタ、スタイル良いじゃん! ちょっと胸が足んないけど…」
グッ…! こいつ、人が気にしていることを…! ますます殺意が浮かんできた。…………でも、スタイルが良いって言ったから、半殺しで済ましてあげようかな…?
「でも、胸が無いくせに太ったら、もう最悪だな。救いようがねえ」
………。 あれ? なぜかは分からないけど、いつの間にかあたしの手には大きなハンマーが。 なるほど。神様がお許しになったのね。こいつを撲殺することを。
「フフフ…。いい度胸してるわねえ…」
「おいおい…何する気だよ!? つーか何で、んなデカいハンマー持ってんだよ!?」
「神からの思し召しよ。覚悟しなさい、この変態スケベのデリカシーゼロ男ッ!」
「バカ言ってんじゃねえ! 確かに俺は変態スケベだがな! デリカシーはちゃんとあるぜ!?」
ツッコミどころの意味が分かんない。 っていうか、やっぱり変態でスケベなのは認めてるんだ。
「言いたいことがあるなら、地獄の閻魔様の前で言うことね」
「なに? アンタ、地獄とか天国とか信じてんの? ぷぷっ、意外にガキなんだ」
バカにしたように言ってきた。 なるほどね。今、やっと理解できた。 この男は、自分の命が存続の危機にあるっていうことを分かっていないようだ。 だから、こんなナメたことが言えるのね。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
「おお! 危ねえッ!」
思いっきりハンマーを振り下ろす。 この男の脳天を狙ったはずが、避けられたため、地面にハンマーが突き刺さった。
「おおお…! おい! シャレになんねえぞ!?」
砕けた地面を見て、工藤 ハルが焦ったように叫ぶ。 やっと気付いたようだ。だが、この程度であたしの気は鎮まらない。
「シャレ? 笑わせないでよ。っていうか避けちゃダメじゃない。キミの頭かち割って、血の噴水を作るんだから」
フフフ。 こんなことが言えるなんて、あたしも結構やるもんね。
「わわわ…! 分かったから! もう悪口言わないから!」
「……絶対?」
「絶対!」
土下座しながら嘆願するやつを見て、あたしはやっとハンマーを下ろした。 これだけやれば、この男も自重するようになると思う。
その時だった。
不意に、閉めていたはずの屋上の扉が、音を立てて開かれた。
「ちょっとそこのあなた!」
そこの入り口から、大きな声を出している人が。 もちろんそれは女の子。だってここは女子校だもの。 そして、あたしと同じように、彼女の隣には男の子が控えている。
何、この学校。男子と一緒にいなきゃいけない決まりでもあるの?
「ここはあたしが支配してる領域(テリトリー)なの! 勝手に入らないでくれる!?」
……はあ? テリトリー? 何を言っているんだ、あの人は。 それよりも、『勝手に入らないでくれる!?』って…。屋上って誰かの所有物だったりするの?
「あ、あのー。あたしには何がなんだか…」
「あら、あなた新入生のようね」
今初めて気が付きましたといった素振りで、その女性はそう言った。
「だったらちょうど良いわ。あたしのテリトリーで勝手をした人間がどうなるか、周りの人に知らしめておく必要があるわね」
そう言いながら近づいてくる。 見たところ、この人は上級生のようだ。だって制服が新品じゃないし。
「あなたにバトルを申し込むわ。今ここでね!」
バトル…。なんだか、昨日も聞いた言葉のような。 チラリと工藤 ハルを見てみる。
「良かったじゃん。さっそくバトル開始だ」
嬉しそうに言ってくる。 もう、こいつら…。わけの分からないことばっかりで、頭が痛くなりそう。 いいわよ! バトルだろうが何だろうが、やってやろうじゃないか!!
|
|