この学校は女子校って事になっている。 そして、更に学校の特色を言うなら、寮制度を採っているということだ。 この制度は不思議なことに、全生徒が寮に入らなければならないということ。 しかも寮は二人で一部屋。
「……」
朝。 なんだか、昨日は色々ありすぎて、疲れきっていたみたい。 ぐっすり眠れて、すっきり気分爽快だなぁ。
「……ん…」
体に何かが触れているみたい。 あたしの肌をなぞるようにして、あたしの体を滑っていく。 くすぐったいような……気持ちいいような…。
「あ…ん…」
その何かがあたしの胸にまで侵入してきた。 そして、あたしの胸を揉みくだしている。
「あん……やめ……」
不思議と、変な声が出てしまった。 それがしばらく続いて、さすがのあたしも不審に思った。 あたしが、胸を揉まれてる!?
「……」
「よっ、おはよ」
目を開けた先にいる人間。 工藤 ハルとかいった名前の男だ。 その男の手が、あたしの寝巻きの中に侵入していて、それがあたしの胸を触っている。
「……何やってんの?」 「ん? ああ、体のスキンシップってやつだよ」
事も何気にそう言っている。 あたしは、とりあえずこの男の腕を思いっきり掴んでやった。
「いやぁアンタ、感度はバッチリだな! これで胸も大きかったら最こ――」
「へえ。それはなに? キミはあれなの? 自殺願望をお持ちだと?」
ドスのきいた声を出す。 それに、さすがのやつも感知したのだろう。 あたしからほとばしる、黒く歪んだ殺気というものを。
「あ、いや、これはだな! 女の子を見ると勝手に反応しちゃうこの体が悪いわけで…!」
「ふ〜ん。じゃあ、その勝手に反応しちゃう体に教えてやらなくちゃね」
あたしがポキポキと手の骨を鳴らす。 まあ、とりあえず、殺すってことで。
「世の中には、手を出しちゃいけない人間もいるってことを」
□
この学校は少し……いや、だいぶおかしい。 だって、ここは女子校ですよ? それなのに男子がいるし。 しかも寮の部屋は男子と一緒! これは一体どういうこと!? 襲われろとでも言いたいわけ!? 出て来い、学校の責任者!!
「ここの数式はこうなるわけで…」
ちなみに今は授業中。あたしの嫌いな数学だ…。ま、好きな教科って言ったら体育くらいなんだけど。 それにしても、問題はあたしの隣のやつ。工藤 ハルだ。 まあ、朝にこれでもかってくらいに殴っておいたから、顔中ボロボロだけど。
「じゃあ、これを恩田 梅さん。やってみてください」
「へ?」
不意に、あたしに当てられた。 もしかして集中していないのがバレたかな? つーか、数学って将来に役に立たないくせに無駄に難しいんだよ!
「X=3、Y=2だよ」
隣の席のやつ――工藤 ハルが小さく呟いた。 それは答えらしき言葉。とりあえず、それを答えとして言ってみた。
「エ…X=3、Y=2です…」
「はい、よく出来ましたね。それじゃあ次の問題を…」
え? なにこいつ? あたしに答えを教えてくれたわけ? 朝、思いっきり殴っちゃたのに…。 なんだか、良いやつ……なのかな?
「あ、ありがと」
あたしが小さく言う。
「気にすんなって。もう一回、揉ませてくれたらチャラにしてやるよ」
……。 前言撤回。こいつは敵だ。女の敵だ。
「…! 痛って…!」
とりあえず足でも踏んでおこう。 今騒ぎ出すと、周りに迷惑がかかるし…。
「痛いっつーの!」
「キミが悪いんでしょ! この変態! スケベ!」
「いやぁ、それほどでも」
褒めてない! ……ってツッコミたいけど、ここは我慢。 だって、そんな程度の低いツッコミじゃあ、いまどき誰も笑ってくれないもん。 むしろこの男は『変態、スケベ』を否定しないんだ…。
「どうしたんですか? 恩田 梅さん?」
「あ! いえ、なんでもないです!」
はぁ…。何でこんな変なやつと一緒にいるんだろ…? これから先が思いやられるよぉ…。
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