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ドール・バトラーズ 作者:フラン

第3回   一の巻 『変なやつ、再び。そして狂う学園生活』










「よっ!」

 うわぁ…。
 あいつだよ…。今日の朝に会った変なやつだ。
 やっちゃったなぁ…。

「……」

「おいおい! そんな変な目で見んなよ!」

 いやいや。
 変な目で見たくもなるよ…。
 だって、明らかにこいつ変だもん。

「ところで、キミ、だれ?」

「ひっでえな! 今日の朝に自己紹介しただろ! 工藤 ハル! 覚えとけよな!」

 ため息が出るくらいうんざりした気分だ。
 何でこいつはあたしに付きまとうんだ?
 はっ! もしかして、ストーカーってやつ!?

「おい、聞いてんのか?」

 ……いや、いくらなんでもストーカーは無いかな。
 ストーカーだったら、わざわざ姿を出すとは思えないし…。だったら、他に考えられることは…。
 はっ! もしかして、新手のナンパ!?

「恩田 梅! 俺の話を聞いてんのか!?」

「ナンパはお断りだッ!」

「……は?」

 なるほどね。やっと理解できた。
 いくらあたしが可愛いからってナンパをするとは…。

「あたしはそんなに軽い女じゃないの! ナンパなら、他の人を当たってね!」

 フフフ。
 ポカーンとした顔をしてる。きっと断られたのがショックなのかも。

「なに言ってんだよ! ったく、わけわかんない奴だな…」

 くっ! この男、まだ諦めないようね…。
 どうやって撃退しようか…! 何かいい案は無いかな…!?

 あたしが、この変なやつ――工藤 ハルをどうやって諦めさせようか考えている、ちょうどその時。

 あたしの後方で、信じられないほどの轟音が響いた。

「……ッ!!」

 な、なんだ!? 一体、なにがどうしたんだ!?

「もうおっぱじめやがった。今年の新入生は活気なこった」

 男――工藤 ハルが呟いた。
 あたしは何が起こったのかさえ、理解できていない。

「ね、ねえ! なによ、今の音は!?」

「ありゃあ、バッジ所有者のバトルだろ? んなことも知らないのか?」

 バッジ所有者のバトルぅ?
 意味わかんないし! しかも知らないのをバカにされてるみたいで、ちょっとムカつくし!

「さっき配られたバッジがあるだろ? それを賭けてバトルをやってるってわけ」

「へえ…それは初耳。でも、何でただのバトルで爆発が起こってるのよ?」

 はっきり言って、そこが分からない。
 あたしたちは女子高生ですよ? 孫○空のかめ○め波じゃあるまいし、ただ闘って爆発が起こるかっちゅーの!

「そりゃあ『クリスタル・バッジ』を使ってるからだろ」

「……これ?」

 あたしの胸に付いているバッジ。
 それを指差して聞いてみる。

「そ。それで闘ってんだよ」

「はぁ?」

 やっぱりこの男は変なやつだ。
 帰るときのついでに病院に付き添ってあげよう…。

「だから! これとドールを使って闘ってるんだよ! ちゃんと学校案内見たのか!?」

「……見て…ない」

 あたしは、新しいゲームを買っても説明書なんて読まない主義だ。
 だってメンドくさいし、それにゲームなんてやってれば分かってくるものだし。
 そういう精神だから、このあたしが学校案内なんて読むわけないの!

「……アンタ、この学校で無事にやっていけるのか…?」

 不安そうに、工藤 ハルが囁いた。
 いやいや! なに言ってんのこの人! ってゆーか、この学校って普通じゃないの!?
 むしろ『無事』って何よ!? 下手したらケガしたりするってこと!?

「いいか? まず『ドール』って単語は分かるか?」

「そ、それくらい分かるわよ!」

 これでも受験をくぐり抜けてきたんだから!
 『ドール=人形』でしょ!

「言っておくけど、ただの『ドール』って意味じゃないからな」

「へ?」

「この学校の『ドール』っていうのは、俺たちのことだよ」

「……キミたち?」

「そう。この学校は女子高なのに、男子がいるのを不思議に思わなかったか?」

 それはさっき思ったことだ。
 とりあえず、うんうんと頷いておく。

「俺たち男子のことを、この学校では『ドール』って呼ぶんだ。
 そんで、さっき貰った『クリスタル・バッジ』! これで俺たちを操るんだ」

 ……。
 またわけのわからないことを。
 彼の頭蓋骨を開いて、脳みそを見てみたいよ。

 そんなことを考えていると。
 再び、はちゃめちゃな爆発音が轟く。
 さっきから闘っているという二人の戦闘が激化してきたようだ。

「くそっ! 説明は後だ! まずはここから逃げ――」

 工藤 ハルが全てを言い終える、その一瞬前。
 大きな爆発によって、砂煙が舞い上がった。それはあっという間にあたしたちを包んで、あたしの視界はゼロに近くなってしまった。

「ゴホゴホッ!」

「おい! 梅! 大丈夫か!?」

 やつに『梅』なんて呼び捨てにされる義理は無ぁい!
 あたしは意地になって、返事をしなかった。

 その刹那――。

 爆発によって吹き飛んできた大きな影。
 あたしが視線を上げると、そこには、大きな石……いや、岩石って呼んでいいくらいの岩があたしの頭上に。

「ううう…! うそぉぉ!!?」

 あたしの物凄い大声。
 きっと人生で一番大きな声じゃないかと思うくらい、腹の底から叫んだ。

「そこか、梅!」

 立ち込める砂煙の中から、一つの影が飛び込んできた。
 工藤 ハル。そいつはあたしの前に立ちふさがって、あたしに言った。

「俺に命令しろッ!」

「へ?」

 こんな危機的状況だというのに!
 またこいつは意味の分からないことを!

「いいから! 助けろって言えッ!」

「え? え?」

「早くッ!」

 なんなのよ、こいつ。
 つーか、岩がもう目の前に来てるし…。
 あたしの人生もあっけないものだったなぁ…。

「早く言えって! そうすりゃ助けられるんだッ!」

 助かる? あたしが?
 ウソかもしれない…。っていうか、あの大きな岩が飛んできて、助けられるわけないし…。
 
 でも…!
 あたしは、まだ死にたくないんだ!
 やりたい事とか、やり残した事だってたくさんあるんだ!
 ええい! 溺れる者はわらをも掴むんだ!

「た、助けて! お願い―――!」

「アイアイさー!」

 あたしの助けを呼ぶ声が飛んだ、その瞬間――。
 目の前に立っている工藤 ハルの体から、黄金の光がほとばしった。

「パワーマックス!」

 工藤 ハルが、手を前にかざす。
 そして、そこから放たれる金色の閃光。

 その閃光が岩に直撃する。
 あたしは、あまりの眩しさに目を瞑ってしまった。だから、岩がどうなったか分からない。

 だけど、あたしが目を瞑ったまま、数秒が過ぎた。
 岩はこない。何も起こらなかった。
 怖いけど、勇気を出して目を開ける。

 まず目に入ったのが工藤 ハル。
 んで、その次が――。

 ―――粉々に砕かれた岩の破片だった。

「どう? 俺のこと見直した?」

「え…? なにが……どうなって…」

 工藤 ハルがあたしに向き直って、自信満々な顔でそう言った。
 あたしの方はというと、目の前で起こった出来事さえ理解できないで、ただ呆然とするだけだった。

「これが『ドール』の力。んで、その力を引き出すのが、アンタ――恩田 梅ってわけ」

 『ドール』とか、力とか、意味が分からないけど…。
 でもまあ、さっきまで死ぬような思いをしたわけだし、今は生きてるって事に感謝しよう。

 ただ、この学校が普通でないって事は、よく分かった。
 これから先の学校生活に一抹の不安を覚えながらも、あたしは笑った。
 笑えば、きっと何でも上手くいくと思ったから。そんな幻想でも抱かないと、やっていけそうにもないし…。だから、笑っていこう。そう思うんだ。










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Novel Editor