「アンタに仕えることなった工藤 ハル(くどう はる)だ。よろしく」
天気良好、東南に微風あり。 空を見上げれば果てしない青が広がり、人と空の間を飛ぶ鳥たちも元気そう。 今は学校へ行くための登校中。つまり、朝なわけなんだけど…。
そんな時に、あたしの前に変なやつが現れた。
「なんだよ、そのリアクション! もっとこう…! 色々あるだろ!」
あたしの冷め切った視線を感じ取ったらしい。 それにしても、朝っぱらから元気なやつだ…。
「あーはいはい。わかった、わかった…」
あたしはその変なやつの肩に手をのせ、爽やかに言ってやる。
「この近くに良い病院知ってるから、行っといで」
「良い病院? 俺は怪我も病気もしてねえぞ」
こいつ…! 自覚すらしてないとは…。 もはや救い難いわね。
「大丈夫。そこの病院の先生に任せておけば、万事上手くいくから」
その変なやつが困ったように頬を指で掻いている。 困ってるのはあたしの方だ!
「なあ? アンタ、何か勘違いしてねえか?」
「勘違いはキミの頭でしょ。それより、あたし急いでるから。じゃ」
さっさと学校に行こう。 へんなやつに構っている時間は無いんだから。 だって、今日は―― 新しい高校生活の始まりだもの!
□
学校が見えてきた。 まだ創立二,三年らしいから、遠くから見ても綺麗だって分かる。 真っ白な校舎に大きな時計塔。あれに憧れて、あたしはこの高校を選んだんだから!
「楽しみだな〜」
この高校の魅力的なのは校舎だけではない。 まずは女子高って事と、あたしの家から近いし。 制服もすっごく可愛いんだ。ほかの高校と比べると、月とスッポン! 象と蟻! 現代人とクロマニヨン人!って感じなんだよ。
それから歩いて約五分。 あたしは念願の高校の校門へ辿りついた。
「きれ〜」
思わず見上げてしまった。 予想以上の豪華さ。まるで大きなお城みたい。
「あなた、新入生かしら?」
「へ?」
校門を通り抜けようとした、その時だった。 綺麗な黒髪を腰まで伸ばした女性――おそらく上級生――が声をかけてきた。突然のことで驚いて、あたしはマヌケな声を出してしまった。
「あなた新入生でしょ? 顔を見れば分かるわ」
にっこりと微笑みかけてきた。 その笑顔はとても美しい……っていうか、綺麗だった。
「あ、はい。そうです」
「やっぱりね。じゃあ、あなたのドールはどこかしら?」
……? ドール? なんですか、それ。
「え? もしかして、まだ会ってないのかしら?」
「え、ええ……まあ…」
何を言っているんだろうか。 まったく今日はよく分からないことがたくさん起こる日だな…。 朝の変なやつもそうだし、この人も綺麗なくせに変なこと言ってるし…。
「あなた、名前は?」
「あ、ええと、恩田 梅(おんだ うめ)ですけど…」
あたしが名前を言うと、その人はポケットからメモ帳のようなものを取り出した。 そしてパラパラとめくりながら、あたしの名前を呟いている。
「恩田 梅……恩田 梅、と……」
「あ、あのー…。あたしが何か…?」
少しだけ不安がよぎる。 高校初日だっていうのに、ついてないな〜もう!
「あった。えっと、あなたの担当は…」
担当? なんだか、変なことになってきたような…。
「工藤 ハル! あなたの前に、そう名乗った人が来なかった?」
……………………。 ……………………来たような……来なかったような……。
「……来て…」
どうしようかな…。 もしかして、朝の変なやつのことかな…。いや、たまたま名前が一致しただけだ! きっとそうだ!
「来てません。ぜんぜん知りません」
「……そう。わかったわ」
ごまかし完了。 目の前の綺麗な人も、あたしの言ったことを信じたみたい。
「まあ、いいわ。このあと体育館で入学式をやるから、遅れないようにね」
「はい! 失礼しま〜す」
ふ〜。なんとか切り抜けられたみたい。 それにしても、この高校ってば、ちょっと変なのかもしれない…。 入学初日から不安がいっぱいだよ…。
|
|