つかっちゃんは連と幼馴染。物心ついてたときから一緒に遊んでた。 といっても、立場上、同い年のはずなのになぜか連のほうが上で、つかっちゃんが頭が上がらない日もあった。 きっと、連の、堂々としてて何にもおびえない態度に、自然とつかっちゃんが従うようになったのだろう。といっても、別に連はつかっちゃんを奴隷扱いした覚えはないし、幼馴染として遊んでた。 小学生になってから、一度も同じクラスになった事が無い。なのでそんなに話す暇もなかった。 そんなつかっちゃんが連を突然気になり始め、暗号館に一緒に行きたかった理由は、ある晴れた日の出来事のためだった。
(・・・アレには驚いたな・・・・。時野にはすげぇ度胸があるって知ってたけど・・・・・・・・) つかっちゃんは、『あの日のこと』を思い出していた。
*************************** 数週間前。 つかっちゃんは本屋で参考書を買って、帰る途中に連を見つけた。 連は、庄治に頼まれて買い物へ行って帰る途中だった。 (おっ?アレ時野だ。) 「ファァ〜〜〜〜〜・・・お父さんは人使い荒いし・・・・」 連が頼まれたのは、ハサミ、カッター、タワシ。要するに日用品だ。 「ねむっ、暑っ・・・・・・・・・・」 つかっちゃんは、久しぶりに連を見て声をかけようとした、そのとき。
「ニャァァ〜〜〜〜ン・・・・」 「オラッ、静かにしろ!!」 一匹の真っ白な仔猫と、メガネをかけた若い男。 男が猫をいじめていた。ハサミでネコの毛をジョキジョキ切って、マーカーで落書きしたりしていた。 「ニャァァ〜〜〜ン・・・・!」 「うるせぇっ!」
【ドガッ!】
無情な男は、ネコが嫌がり泣き叫ぶと蹴った。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 連はその様子を、“怒りの目”で見ていた。 表情は、ちょっと見た目には変わりなくボーッとしたように見える。 でも・・・・・・、目は、鋭く怒っている目だ。 こういうときにだけ見せる、“人を見下した目”――それは、どんなに偉い人でも土下座してしまうような目だ。 連は時折そういう目をすることがある。 それは、“許すまじき犯罪者”や“許せないこと”を目撃した時になる目・・・・・。
「・・・・・・・・」
(!?時野!?) つかっちゃんは驚く。 連はゆっくりと男に近付いた。そして・・・・・・
【ジャキッ・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!】
「・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・!?」 連は、買ったハサミで男の長い髪の毛を切った。真ん中を切ったため、見た目にはとてもみっともない姿だ。 「あ・・・・・・アァァァァアアァア〜〜〜〜!!!!なっ、てめぇ、このガキ!!!何する!!!!」 「・・・・・・・・・アンタがそのネコにした事じゃん」 小5の連と、20代前半くらいの男。どう考えても連に勝ち目は無い。勝ち目の無いケンカだ。 でも、連には元からケンカする気なんて無い。 ただ・・・・・・・・・・・・・・・・・・睨むだけ。 「・・・・・・・・っ・・・・!!」 「あんた、罪も無いネコいじめて、楽しいの?バッカみたい・・・・。・・・動物いじめるなんて、最低な野郎のすることなんだよ。・・・アンタサイテー」 鋭くきつく怖い目で睨むと、相手は子供なのに男はビビり、逃げ出した。 「・・・・・・・・・・・・フゥ・・・・・・」 連はゆっくりとそのネコに手を伸ばす。 「ニャッ!!ニャァァァ!」 そのネコは人間不信で人間を信じていないようだった。 「・・・・・・・・・・・かわいそうにね・・・・・・・・」 連はゆっくりとそのネコを抱いた。 すると、連の手の暖かさにネコは落ち着いた。 「・・・まだこんなに小さいのに、ガリガリに痩せて、こんなことされて・・・・かわいそうにね・・・・・・・大丈夫だからね。あんなこと絶対させないからね・・・・・・・」 表情自体に変わりは無い・・・が、優しい目で見て、優しい顔でネコをなでた。
「・・・時野に・・・・あんな度胸あったのか・・・・。時野に・・・・・あんな優しい一面があったなんて・・・・・」
それ以来、つかっちゃんは改めて連のことを気になり始めた―――・・・。
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