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暗号館の秘宝 作者:りみ

第4回   3 勝ち目の無いケンカ
つかっちゃんは連と幼馴染。物心ついてたときから一緒に遊んでた。
といっても、立場上、同い年のはずなのになぜか連のほうが上で、つかっちゃんが頭が上がらない日もあった。
きっと、連の、堂々としてて何にもおびえない態度に、自然とつかっちゃんが従うようになったのだろう。といっても、別に連はつかっちゃんを奴隷扱いした覚えはないし、幼馴染として遊んでた。
小学生になってから、一度も同じクラスになった事が無い。なのでそんなに話す暇もなかった。
そんなつかっちゃんが連を突然気になり始め、暗号館に一緒に行きたかった理由は、ある晴れた日の出来事のためだった。

(・・・アレには驚いたな・・・・。時野にはすげぇ度胸があるって知ってたけど・・・・・・・・)
つかっちゃんは、『あの日のこと』を思い出していた。


***************************
数週間前。
つかっちゃんは本屋で参考書を買って、帰る途中に連を見つけた。
連は、庄治に頼まれて買い物へ行って帰る途中だった。
(おっ?アレ時野だ。)
「ファァ〜〜〜〜〜・・・お父さんは人使い荒いし・・・・」
連が頼まれたのは、ハサミ、カッター、タワシ。要するに日用品だ。
「ねむっ、暑っ・・・・・・・・・・」
つかっちゃんは、久しぶりに連を見て声をかけようとした、そのとき。

「ニャァァ〜〜〜〜ン・・・・」
「オラッ、静かにしろ!!」
一匹の真っ白な仔猫と、メガネをかけた若い男。
男が猫をいじめていた。ハサミでネコの毛をジョキジョキ切って、マーカーで落書きしたりしていた。
「ニャァァ〜〜〜ン・・・・!」
「うるせぇっ!」


【ドガッ!】


無情な男は、ネコが嫌がり泣き叫ぶと蹴った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
連はその様子を、“怒りの目”で見ていた。
表情は、ちょっと見た目には変わりなくボーッとしたように見える。
でも・・・・・・、目は、鋭く怒っている目だ。
こういうときにだけ見せる、“人を見下した目”――それは、どんなに偉い人でも土下座してしまうような目だ。
連は時折そういう目をすることがある。
それは、“許すまじき犯罪者”や“許せないこと”を目撃した時になる目・・・・・。


「・・・・・・・・」



(!?時野!?)
つかっちゃんは驚く。
連はゆっくりと男に近付いた。そして・・・・・・







【ジャキッ・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!】








「・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・!?」
連は、買ったハサミで男の長い髪の毛を切った。真ん中を切ったため、見た目にはとてもみっともない姿だ。
「あ・・・・・・アァァァァアアァア〜〜〜〜!!!!なっ、てめぇ、このガキ!!!何する!!!!」
「・・・・・・・・・アンタがそのネコにした事じゃん」
小5の連と、20代前半くらいの男。どう考えても連に勝ち目は無い。勝ち目の無いケンカだ。
でも、連には元からケンカする気なんて無い。
ただ・・・・・・・・・・・・・・・・・・睨むだけ。
「・・・・・・・・っ・・・・!!」
「あんた、罪も無いネコいじめて、楽しいの?バッカみたい・・・・。・・・動物いじめるなんて、最低な野郎のすることなんだよ。・・・アンタサイテー」
鋭くきつく怖い目で睨むと、相手は子供なのに男はビビり、逃げ出した。
「・・・・・・・・・・・・フゥ・・・・・・」
連はゆっくりとそのネコに手を伸ばす。
「ニャッ!!ニャァァァ!」
そのネコは人間不信で人間を信じていないようだった。
「・・・・・・・・・・・かわいそうにね・・・・・・・・」
連はゆっくりとそのネコを抱いた。
すると、連の手の暖かさにネコは落ち着いた。
「・・・まだこんなに小さいのに、ガリガリに痩せて、こんなことされて・・・・かわいそうにね・・・・・・・大丈夫だからね。あんなこと絶対させないからね・・・・・・・」
表情自体に変わりは無い・・・が、優しい目で見て、優しい顔でネコをなでた。





「・・・時野に・・・・あんな度胸あったのか・・・・。時野に・・・・・あんな優しい一面があったなんて・・・・・」



それ以来、つかっちゃんは改めて連のことを気になり始めた―――・・・。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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