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暗号館の秘宝 作者:りみ

第13回   12 最愛の人
それから千鶴は楽しかった。浩之といると、空襲の恐怖が去る。浩之といると心休まる。誠実で真面目な浩之は、千鶴の心の支えだった。

「・・・千鶴、君には夢がある?」
「・・・夢・・・?・・・夢を抱いたって・・・きっと、叶いませんよ」
「どうしてそう思うんだい?」
「戦争真っ只中ですよ・・・・・、いつ終わるのかも分かりません。ひょっとすると今夜にでも・・・空襲で死ぬかもしれないのです。私達は・・・生きて・・・大人になれるのかどうかさえも分からない・・・そんな状況で夢なんか持てません」
「そうか・・・・・、それでも、夢は必要だ。僕には夢があるよ。・・・『暗号館』を建てるんだ」
「・・・暗号・・・館・・・・?」
「そう。館。・・・・千鶴、実はこの原っぱには、加賀見家が代々“ある仕掛け”をしてるんだ」
「ある仕掛け?」
「加賀見家の最初の祖先が・・・隠した財宝がこの原っぱにあるらしいんだ。・・・そして、その財宝の半分を、“愛する人”に授けるんだ・・・。・・・僕は、いろんな人に『謎解き』のおもしろさを知ってほしい。だから・・・『暗号館』を建てて、暗号を見事解けた人にも財宝をあげたいんだ」
「すごいっ・・・・!すごい夢ですね・・・・!!すごい・・・!」
浩之は、大人になって建てたい暗号館の設計図を口で説明した。

「・・・・・・でも、まず先に君にあげたいな」
「えっ?」
「“愛する人”に授けるんだ・・・、僕の愛する人は、君だよ」
「!!!」

“相思相愛”と言う言葉がピッタリだった。
・・・・しかし・・・・戦争はそんな恋心も無残に葬った。
「特攻隊!!??」
8月8日――終戦間近だった。後1週間で終戦、というときに、浩之に『特攻隊』へ行く命令が出た。
特攻隊とは、飛行機に乗って相手の船に体当たりをする隊のこと。
「・・・2日前に、広島に原子爆弾が落ちただろう?あれで日本も焦ってるんだよ・・・、まだ二十歳にもならない僕にまで命令が来るという事は・・・・・きっともうすぐ終わるよ、戦争は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「特攻隊へ行ったら・・・間違いなく死ぬね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
千鶴は何もいえなかった。
特攻隊へ行って生きて帰ってきた人なんていないのだから。
事実、千鶴の父も特攻隊へ行って死んだ。
浩之も間違いなく・・・・・・・・・・・・。


「・・・・浩之さん・・・・人は・・・何のために戦争をするのでしょう?何のために・・・多くの犠牲を生んでまで、戦いたがるのでしょう?何のために・・・何のために・・・・神様は戦争を仕掛けたのでしょう・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・、千鶴・・・国のために死ねるのなら僕は本望だよ。それにね・・・・ちづる。・・・君を守りたいんだ・・・・、君にはちゃんと生きていてほしい。・・・戦争はきっとあと何日かすれば終わるだろう。だから・・・・僕は、君に生きてほしいんだ・・・。あの空の向こうから、ずっとずっと君を見てるよ・・・君は、戦争なんかに負けちゃダメだ」
「・・・・浩之・・・・さんっ・・・・!!!」



***************************
8月9日。浩之は特攻隊へ行った。
そのとき、千鶴の住んでいる家のところへ空襲がたくさん落ちた。
千鶴は、幼い弟や体の悪い母を庇って逃げ惑った。
海の上では、今まさに浩之の乗った飛行機が相手の船へ向かっていた。
(・・・さよなら、千鶴・・・・・!・・・愛してるよ・・・・!)

【ドゴ―――――ン!!!!!】
「・・・・・・・・・・・・!・・・・浩之・・・さん・・・・?」
どこかで感じた。浩之はたった今、この世を去った・・・・・・。
「浩之さんッ・・・・!!!浩之さん!!!!!」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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