そして炎呪旅館へ着いた。 そこは、一つまたげば右側に街はあるが、左は田舎――農村だった。家々の間に田んぼがあり季節はずれの蜻蛉(とんぼ)が飛んでいる。 此処で農村の見学でもするのだろう。
「ようこそ、いらっしゃいました」 女将と、まだ若い仲居らしき人達数人が来てお辞儀をした。 「私、女将の麻村 静乃(あさむら しずの)でございます」 と、女将に案内されてそれぞれ部屋へ行く。 案外部屋は多く、男女別々で班の人たちと一緒と言う事になる。 ***************************** 部屋の中。 連、緑、理沙そして菜摘。 「・・・・・・・・・・・・・いっとくけど」 「「「?」」」 菜摘が、まるで宣戦布告のように連と緑に言う。 「あたしに構わないで。いいから、あたしに話しかけないでよ」 と、憎しみのこもった目で言った。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
**************************** 同じ頃。 「オウオウ、若女将さんよ、“炎呪財宝”は本当にあるのかい?」 「あ、私にはよく・・・」 「お客さん、この子をからかわないでくださいな。この子、接客には慣れてないんですよ」 「へ〜・・・・・」
そして廊下では、さっきの若女将と女将が親しげに話している。 若女将の方は女将を尊敬の眼差しで見、女将の方は若女将をわが子を見るような温かい目で見ていた。 「・・・・・あ、あの、麻村さ・・・・じゃなくて女将」 「いいわよそんな。呼びやすいように呼んで」 「ありがとうございました。私、子供相手は平気でも・・・」 「いいのよ、わかってるから。理央(りお)ちゃん両親亡くしてタイヘンだったんでしょう・・・私にとっては娘のようなものだから」 「ありがとうございます・・・・本当、麻村さんが私のお母さんだったらなぁ・・・・」
その後、『理央』と呼ばれた若女将の下に、ショートヘアーが活発さを目立たせる仲居がやってきた。
「理央〜」 「!冬香(ふゆか)ちゃん・・・」 「麻村さんってほんっと優しいよね〜今までの女将と大違い!!今までの女将は威張り散らしてたけどさ、麻村さんは優しいよね〜〜ほんっと、全てを包み込む母!みたいな」 「うん、そうだね。・・・・あ、ちょっとちょっと」 「・・・・・?」 「?」
『冬香』と呼ばれた仲居が、少女三人――連と緑と理沙を呼び止める。
「そっち行くと裏口だよ??」 「・・・・・・・・・菜摘・・・・・・・こっちに女の子こなかった?」 「さぁ〜私も理央も今此処に来たばっかだし・・・それより、生徒さんたちみんな夕食でしょ?だったらあっちだよ」 「ホラ見ろ、緑、連」 「・・・連ちゃん、沢田さん。鈴木さんは・・・・もう行ったんでしょうか?夕飯に・・・」 「・・・・・・・・・・・・・菜摘は・・・・・多分外だよ」
三人の会話を聞いて、冬香は瞬時に人間関係について悩んでいるのだと悟った。
「・・・・色々タイヘンだねぇ??」 「?」 「あ、ごめん。私は仲居の磯村 冬香(いそむら ふゆか)・・・って、何で自己紹介してんだろ。ま、いーよね。ね、理央?アンタも自己紹介しちゃえ〜」 「うん。私は、若女将の高木 理央(たかぎ りお)です」 「アタシら二人はこの村の小学校、中学校の同級生!って言うか小学校も中学校も一個しかないし小学校この間潰れたしねー…」 「潰れた?」 連が聞くと理央が代わりに答えた。 「ええ。もうこの村に小学生はおろか子供なんていないもの。高校も無いわ…建てる資金が無いのよ」 「アタシは一度都会の高校行ったんだけど…それが最悪でさー!水も空気も汚いし皆汚いやつらばっかだったし!だからやめたの。…やっぱ、生まれ育った地が一番じゃん?」
冬香は明るく活発な若い女性で、笑った顔が可愛らしい。理央も若いが冬香とは反対に遠慮がちに話す。理央も冬香に負けじと可愛らしい容姿をしていた。 「フーン・・・・・・・・・・・・」 「えっと、こっちが時野連ちゃんです。で・・・青山緑です」 「・・・・自己紹介しあってる?」 「アハハハッ!!!おもしろいねぇ!」 冬香がやけに爆笑していた。 「あ、生徒さんたち集まってるみたい・・・・ね、連ちゃん、緑ちゃん。じゃあ・・・」 「うん」
***************************** 大広間。 六年生の総数は百二十人。なので膳も多く仲居たちが忙しそうに運んでくる。 「ねぇねぇ、鈴木どんなん??」 女子達がしつこく聞いてくる。 「別に・・・・・・・・・・」 「なんか、怖かったです」 「やっぱぁ???」 「アイツ変だもん!さっきも、裏口から出ちゃうし!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 「見てたけど、止めなかった!!!どっか行けば?って感じ出し」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めてよ・・・・そういうのは」 「だってうざいんだもん!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全部一緒の方がむしろ気持ち悪いと思うけど?」 「・・・うん。・・・それより、あれ!!!お風呂終わったら集合だよ」 「“あれ”?」 「“あれ”!!先生たちに見つかんないように、肝試し大会!!」 「あー・・・・・」 「裏口から行けば良い所ありそうだし!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
************************** 午後七時。 「と言うことは、裏に行けばあるんすか??」 「ええ。裏の祠がある場所を越えて行けばあるらしいです。ですが、やめておいたほうがいいですよ」 「あぁ??」 「そんな簡単にいけば500年も置いておいたリしません。・・・みんな災いにあっているんです。あれに関われば必ず災いが起きます。絶対に失敗しますよ」 「ヘッ、そんなヘマしませんよ。明日の朝早く行ってきますよ」 と言い、社長と秘書の男、そして数人の社員は部屋へ戻った。
「・・・・・・・・・・あの・・・」 「あれ、理央ちゃん」 「今の方々・・・・もしかして・・・」 「ええ、ダム建設の方々ですよ」 「・・・・懲りないんですね・・・・」 「本当ウザイわね」 「!明子(あきこ)さん」 仲居の中ではリーダー格の、春宮 明子(はるみや あきこ)。 「ったくぅ・・・・・・・・今にバチがあたるわよ!!!」
明子が憤慨して理央、冬香、裕人、村長の前に女将の麻村が現れた。
「・・・・・全く、追い出してやりたいわね」 「!!!女将!!!」 「みんな、もうお風呂に入ってきていいわ。後は私が出来る」 「えっ、そんな!!!」 「フフフッ、私はいつだって若いわよ〜?大丈夫!!!」 「でも、120人もの生徒さんの布団敷くのはタイヘンです!!手伝いますよ!!」 と理央が言う。 「大丈夫!いいから、お風呂に入って来なさい?」 「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」 「でもっ、手伝わせてください!!!」 「?・・・・わかったわ」
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