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礼拝堂の奇跡 作者:りみ

第3回   1 雪山謎解き紀行
【ゴソゴソゴッ・・・・・ゴソゴソゴソ・・・・・・】
2006年2月。
ある事務所内では、何かが行われていた。
「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜い、れ〜〜〜〜〜ん、あったか〜〜〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・こっちには無いけど〜」
「ん〜〜〜?じゃあやっぱ物置か〜〜〜???」
「物置なんかあったっけ?」
「確か下にあったと思ったけどな・・・・・・・」

ここは、『時野探偵事務所』。今日日(きょうび)めずらしい事務所だ。
そんな探偵事務所には二人の人間がいる。


一人は、ここの事務所の所長の娘であり、超マイペースで常にボーっとしてる小5の少女――時野 連(ときの れん)。いつでもどこでも年寄りのようにボーっとしてて流行などにも無関心だが、推理力は抜群だ。


そして、もう一人――連の父親の、時野 庄治(ときの しょうじ)。何に憧れて探偵になったかは知らないが、探偵のクセに推理力はゼロだ。


そんな二人が今何をしているか―――依頼をうけて仕事をしている?いや、そんな事はしていない。現に、依頼なんてここ数ヶ月ほとんど来ていない。
では何をしているかと言うと、“コタツを探している”。
もう時は2月。真冬で、しかも今年は寒いので、ストーブだけじゃなくコタツも必要だという庄治の提案で、どこに閉まったか覚えているはずも無いコタツを探していた。

「もーいーんじゃない?捨てたんじゃないの?」
「むむむぅ・・・・オレはあきらめんぞ!」
「・・・・ったく・・・・・・・・・・・・・・・」


そのとき。


「んも〜〜!何度ノックしたと思っとんですか〜?」
後ろから、京都弁の女性の声がした。
「わっ、なんや!?この事務所、もっちゃりしてはりますね〜!お掃除、はばかりさん(意味:ご苦労様)!」
見ると、少し長めのショートヘアーにメガネをかけていて、背は少し高いムダに美人の女性がいた。
堂々としたキャリアウーマンのような雰囲気は、不良に絡まれても屈することなく逆にねじ伏せそうだ。
しかも、勝手に事務所内に入ってきて尚かつ“もっちゃり(意味:醜い)”と批判したのだから。相当な度胸の持ち主であろう。
「・・・あ・・・あの、失礼ですがどちら様?」
「ああ、かんにん!(意味:すいません)まぁ、立ち話もなんですし、座って話しましょか!!」
「・・・こっちの言うセリフじゃ・・・・・・・?」
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こうして、この京都人女性の話が始まった。
「ウチは、佐藤 恵利(さとう えり)っちゅうもんです。京都にある出版社に勤めてますわぁ。でな、ウチんとこの雑誌がイマイチ売れんのですよ!ほんで、編集長がほったえて!(意味:暴れる)《何でイマイチ売れんのやぁ!!佐藤!!どんな企画を出せば売れるんやぁ!》って・・・うっさいちゅうねんっ!!!何でウチを名指ししたか?きっと、ウチの苗字が日本で一番多い“佐藤”だからですよ!!まぁでも、ウチは企画出したんですよ!《名探偵が謎解き紀行をしたらどうでっか?》と!!そしたら編集長、本気にしはってね!んで、結局東京で探偵探すハメになったんよ〜。
で、奇跡的にあったんよ!“時野探偵事務所”!!こんなんあるんですね!!ウチ、奇跡や〜思ったんですよ!!」

佐藤は、ところどころ敬語があるものの、ほとんど昔からの知人のように話す。屈託の無い話し方だ。
そんな佐藤がとんでもないことを言った。

「ほんでね、時野さん?“謎解き紀行”にでてください!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
いきなり“謎解き紀行に出てください”なんて言われても無理だろう。
だが、お気楽な佐藤は真剣な様子で言った。
「ほんま、お願いしやす!!!ウチ、こんままやとクビやぁ!!なぁ、時野さん?この哀れな佐藤恵利を救ってください!お願いですよぉ!!」
涙目でウルウルになる佐藤を見て、庄治は言った。
「わ、わかりました、わかりました。佐藤さん、いいでしょう。その、ナントカ紀行とやらにいってやりましょう」
流石に美人の涙にやられたのか、庄治はOKした。

しかし、そのとたん。
「えっ、ほんまでっか!?ありがとうございます〜時野はん!!じゃあ、さっそくなんですが・・・・・・」
さっきまでの涙はウソのように消えた。
(お父さん・・・美人に弱いね・・・・・)
フーとため息をつきながら連はそう思った。

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そして、佐藤の提案はこうだった。
“雪山謎解き紀行”。
噂では、雪山で“人魂(ひとだま)”が出るということだ。その人魂の正体を確かめに行こうと言うことだ。
時野親子は、人魂などのホラーなど全然怖くなく、むしろ親子そろってホラー映画が好きだから、別に反対はしなかった。佐藤にしても、記事のためなら一週間くらい寝なくても平気だという。そんな佐藤が人魂を怖がるはずが無い。
「いやぁ、時野さんがOKしてくれて助かりましわぁ!!ほな、日程は改めて連絡しますね!ほな!!」
そういって佐藤は帰っていった。

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「・・・・・ホントに行くの?」
連が言う。
「あ〜?まぁ、しかたねえだろ」
「面倒くさ・・・・・」
「まぁ、まぁ!!ひょっとしたら事件が起きるかも知れねえぞ!?連続殺人とかな!!」
「起きたら困るよ・・・・・・・・・・・・・・・・」




しかし。
“言霊”と言う物は恐ろしい。
庄治の言った、人魂どころではない連続殺人が、後に真実になるとは・・・・・・・・・・・・・

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Novel Editor by BS CGI Rental
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