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礼拝堂の奇跡 作者:りみ

第19回   16 そして復讐の鬼と化す
それは15年前のある日。
前田勉は学校に忘れ物をし、暗い校舎に一人で入っていった。


「・・・・・・・・・・・・・・?」

ふと、職員室の明かりがついていることに気づいた。
イタズラ心からか、ふと覗いてみると―――――


「!!!!」


そこには、ずっと信頼していた郷田先生と、クラスメイトの二人――上野と盛岡が、麻薬を打ち合っていた姿があった。
(・・・・・なんで・・・・!!!???どうして・・・・!!!)
勉は戸惑いを隠せなかった。が、即刻にこの場を立ち去らなければならないと思い、逃げようとした。


【ガコン!!!】
「!!!」
そばにあったバケツを蹴ってしまった。暗がりでわからなかったのだ。
「!?誰だ!!!」
「・・・・・前田・・!?」
「・・・・・・・捕まえろ」


そして、上野と盛岡の二人に勉は捕まった。
「やめっ・・・・やめてください!!!先生!!!ボクは・・・・ボクは誰にも言いません!!!!!」
悲痛の叫びもむなしく、
「イヤ・・・・・困るのだ。だが、殺すとなると面倒だから・・・・なぁ?」
いやらしくニヤリと笑う郷田。

そして懐から、一番キツイとされる麻薬を取り出した。
「!!!!!」
それを一度でも打たれれば、廃人と化してしまうだろう。
「や・・・・・やめろ・・・・・・・・・・・・・うああああああああああ!!!!!!!!」




そしてそれから。
“強制的に”廃人と化され、“強制的に”・・・麻薬中毒になった。


そして、車のヘッドライトが何かに見え、飛び出して行き―――轢かれた。

そして、後に麻薬を使っていたことが判明され、どこへ行っても“自業自得だ”“麻薬中毒者”といわれるようになった。

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「・・・・・・フフッ・・・・・というわけよ・・・・」
「・・・・・・・・そんな・・・・!!先生がそんなこと・・・・!!!」
「でも・・・・・・・美千代、あなたは、それをどうやって知ったの?」
「・・・・・・・・・・学校に入ったのよ。先生と話がしたくてね・・・・」

*****************************

そして再び15年前の日。
星崎美千代こと、前田薫は一人息子の勉が死んだことを知った。
その頃周りは誰も、薫が勉の母親だと言うことを知らなかったし、母子家庭でも母は単身赴任だということで、誰も親子関係を知らなかったのだ。
薫は違うところに住んでいたし、仕送りこそしているものの勉とは滅多に会わなかった。利口な勉もそんな母の事情をよく理解しているため一人暮らしに慣れていた。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・・・・・・・・-―――――!!!!」
薫は絶句した。

勉の死後、彼が住んでいた家には『自業自得だ』『地獄に堕ちろ』という張り紙が貼られ、石を投げられていた。
「っっっ・・・・・・・!!!!勉・・・・!どうして・・・?どうしてあなたが・・・」

―――私は自分を責めたわ。
私はあんまり勉と一緒にいなかった。だから非行に走ってしまったのだろう、と。責めて責めて、私自身を責めまくったわ。・・・・・・・・・・だけど違ったの・・・・


学校。
勉の遺留品を取りに行くためと、先生に挨拶するため。
先生や生徒は、勉の母親を見たことが無いだろうから驚くだろう・・・と思っていた。


そのとき。

「・・・・・・フゥ、上手く口封じが出来たな」




―――――え?

「ですね。見られたときはどうしようかと思いました」
「すっげーキツイヤツ携帯してて良かったですね」
「ああ・・・だが、俺らは使うわけにいかねえな」


三人の男の声。
薫は覗いた。


「・・・・・・・・・・・・・・前田のヤツが廃人化した時はほっとしましたよ。これならいつか事故にあうなーと」
「こっえーこえー♪正直笑いましたよ」
「だな・・・・・・・まぁ、見られたら即打つだけだな」


薫の心臓がヒヤリと冷たくなり金縛りにあったように凍りついた。
(・・・・・・・・・・・・・ハイジンカ?ウッタ?ドウイウコト・・・・・?・・・・・・ツトムハジブンノイシデウッタンジャナカッタノ・・・・・・・ムリヤリニ・・・・コイツラニ・・・・・・・・・コノ鬼タチニ・・・・・・・許サナイ・・・・・・・・!!!!!)


涙がツゥ・・・とつたう。


それは決して悲しみの涙ではなく、“復讐”を誓う鬼となった証だった。


こうして、“裏切り”“絶望”は・・・・・薫を鬼に変えた・・・・・・・


(オ前ラ・・・・・・・・・・・・・復讐シテヤル・・・・復讐・・・・・・・殺ス!!!!!!!!!)

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「・・・・というわけよ」
聞いている人は、涙を流したり黙りこくったりしていた。
「・・・・・・・フフフフフフッ・・・・私はあの日から・・・・鬼になった・・・・復讐の鬼に・・・・・・・・・ね・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

薫の目には冷たい殺気が浮かぶ。
「・・・・・わかる?あなたたちに、この気持ちが。ずっとずっと愛した一人息子が、いきなり悪者に仕立てられて、死んでからも尚後ろ指さされるの。住んでいた家がボロボロになるの。悪い評判ばかりで・・・身内の事も調べようとする。・・・・・・・こんな“罰”があるかしら。・・・・きっとこれは私への罰ね。息子をほうって置いた私への罰。でも何も・・・・!!!あの子に・・・・・・!!!あああっ・・・・・!!!・・・・・・・・フフッ・・・・わからないわよ・・・・・・あの日から・・・・15年前のあの日から復讐の鬼となった私の気持ちなんて・・・わかる方がおかしいわ・・・・・・・こんな不公平な事ってあるのかしら。本当の悪者――鬼は今までどおり平和に暮らして何の罪悪感も感じていない!!!何もしていない――少年は、無実の罪を着せられ死後もさげすまれて・・・・・・・こんな不公平な事って・・・・あるのかしら・・・・・・・」
「・・・・そんな・・・・・だったら何で・・・・・・・・・」
「・・・言わなかったのか、って?桜木さん。・・・・言える訳ないじゃないの。だって復讐の鬼となったのよ?私。それに・・・今更何言っても・・・・・あの子の無念は晴らせないの・・・・・あの子の代わりに私が4人を殺さない限りはね・・・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4人?」


4人。
郷田、上野、盛岡――3人。このほかに後1人を殺す・・・・誰のことだろうか?
「・・・・・・・なぁ、誰のこと?後1人って・・・誰殺す気なん?」
「・・・・・・・・・・・・フフフフフ・・・・・」

隅っこに置いてあった紙コップを手にした薫。
「・・・・ここに入ってるの・・・・・・・・・・“灯油”よ?灯油・・・・・これにね・・・・」
スッ・・・とライターを取り出した。

《―――――!!!》
周りの空気に緊張が走る。
「フフフフフッ・・・・ここね、古くて・・・・・灯油が漏れ出しているの・・・・・・だから灯油を溜めて置いた・・・・・・・・・・つければ一気に引火しちゃうわね・・・・・火をつけたまま落としたら・・・・・瞬く間に燃え広がる・・・そう、最後の被害者は私・・・私自身が消える事でこの殺人は完全と化すの・・・・・・・・・・!」


【・・・・・・シュボッ!!】
「!!あ、あかんっ!星崎さん、あかん!!!」
佐藤が止めるが、遅い。





火がでたライターを、薫は灯油の入ったコップの中へ落とした・・・―――――。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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