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桜木坂の友情 作者:りみ

第11回         〜   中編

「・・・・・・・・・・・・・・なぜわかった・・・・・・・?」
その口調は、温厚な運転手などではなく、鋭く冷たい口調だった。

「ふつーの運転手はね・・・無線って切っておかないよ?」
無線とは、他の運転手と会話等をするためのもの。(もちろん雑談などではない)
この運転手は、あらかじめ無線を切っていたのだ。
「ヘェ・・・それだけのことで見抜いたと?」
「というか・・・ただ“そうでしょ?”って聞いただけじゃん。アンタが一人で勝手に喋ってくれたし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どーする?」
「どうでも・・・・・・・・・・・・オレは弾無しだ。この変な記者とやらが・・・」
「そーだな・・・・・それに、○×ホテルへ行かなきゃ、オレらの計画は達成できねえ」

「・・・・・・・本当の計画って何?人を殺すことじゃないでしょ?」
「ヘッ、オマエみたいなガキに話すかよ」
「では、大人の僕には話すんですね?」
と裕が冷静に言う。
「オ、オマエにも話さねえよ」
「そうですねぇ、僕の予想だと・・・高飛びですね」
「うるせぇよ、人質は人質らしくしてろよ」

(・・・・・・・・・高飛び・・・・・・・・?)
連の頭に何かがひっかかった。


「あの・・・・・・・降ろしてくれへんの?」
佐藤が言う。
「誰が降ろすかよ、アマ!!!!下手に動くと撃つぞ!!」
「ハイハイ、もう、そんな怒らんでもええやんかぁ!!」
「何逆ギレしてんだよ・・・(静かな怒)」


そうこうしてる間に○×ホテルに着いた。
運転手はこのホテルを知り尽くしているらしく、誰の目にもとまらない裏口へバスを走らせた。
「オラァッ、さっさと歩きやがれ!!!!撃つぞ!!!」
「撃てばいいのに・・・・・・フア〜ア・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・撃ったら・・・・目的達成できないもんね?だから・・・・撃てないんでしょ」
「うるせぇぇっ!!!!!」
そういいながらも男は撃てなかった。そう、弾だってちゃんとあるのに、撃てない理由があったのだ。
*****************************

○×ホテル内。
男が銃を従業員に突きつけると、驚きながら悲鳴を上げる女性が多数。
《キャアア―――!!!》
「うるっせぇ!!!!!・・・静かにしろよ・・・・・」



そして数時間後に警察が、その後アナウンサーやテレビ局も来た。
『えー、ただいま犯人は○×ホテルに人質を多勢連れ込み立てこもっている様子です。うかつに入っては人質の命が危ない模様。あ、今私服警察が○×ホテルへ――――』




刹那。
【ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!】

『キャアアアッ!!??』
《キャアアア!!!!》
《ウアアアッ!!??》

この大きな建物が揺れた。同時に壁がくずれてくる。










――――――――爆発だ。





その爆発により、壁がくずれ、6人は3:3で離れ離れになってしまった。
壁越しに会話は出来るが姿がおたがいに見えない状況だ。

「ヒエウエェッッエェ!!??」
奇怪な声を上げたのは片瀬。
「・・・・・・・・・五月蝿いよ」
壁越しに連が片瀬に言う。
「・・・・・・・・・・・・・・・(怒)怖いもんは仕方ないだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フーン」
「!!!!!(カチン)オマエなぁ、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ、え!?死にたいのか!?じゃあ死ねばいいだろう!!死にたいんだろう!?そうでなきゃそんなに落ち着いてなんて・・・・―――」




「・・・・・・・・・・・・怖がればいいの?」





「・・・・・・・・え・・・・・・!?」
「怖がればいいの?怖がれば・・・・助かる?だったら怖がろうか?」
「そ、そういう問題じゃ・・・」
「怖がろうが泣こうが笑おうが、今からどうなるかなんかわかんないじゃん。・・・・あんな奴らのために泣いて死ぬのと、あいつ等を睨み続けて死ぬの・・・・・・どっちも同じだけど、嫌いなやつのために涙なんか流せないでしょ・・・あんな奴らのために怖がりたくないでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・信じてればいいんじゃない?あんたの上司を・・・・・・」
そういい連は裕を見る。いや、正確には、壁越しに連の眼差しが裕に注がれたようだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じる・・・・」
片瀬は、裕を、そして連を信じてみることにした。

*****************************
それから、30分ぐらい経った。
こちらは連・佐藤・木村――すなわち女組みがいる場所。
連は、こんな状況でもどんな状況でも構わず眠そうだが、“何か”を考えている様だった。
「あ〜〜・・・・・なんか暗いなぁ、しかもウチらだけやね・・・」
「そうですね・・・・」
「あ、木村さん、大丈夫やでっ!!!な?」
「ええ・・・・・」
「・・・木村さん、裕さんのこと好きやろ??」



「えええええええ!!!???」


「え、どうしました!?木村さん!?」
「いっ、いえ!ちょ、どうして・・・・」
「えーわかってないの、裕さんと連ちゃんだけですよ」
「え・・・・」
「あの二人なんか似てますよね・・・・・連ちゃんは恋バナとか嫌いらしいんですよ。塚田君って言う、連ちゃんの事好きな男の子いるんですけど、連ちゃん全然気づいてないの!」
「・・・・フフッ、裕さんと一緒ね・・・・私がどれだけ思いを伝えても、全然わかってくれないんだもの・・・・わかってるのかどうか、よ」
「・・・・だいじょーぶですって★ウチ、コレでも赤い糸とか信じとるんですよ?」
「赤い糸?」
「あっ、今、ガラやないな〜思いましたね!?」
「いっ、いえ!?」
「隠さんでもええよ、木村さん!ウチには似合わへんもん!」
「そんなこと・・・・」


【チッチッチッチッチ・・・】


どこからか時計の音。・・・いや、爆弾か?
壁の向こうから裕の声が聞こえる。
《片瀬君、そこに、何かありませんか??》
《ここには・・何も・・・》
《庄治さん》
《えっと・・・わかりません》

木村が裕の声を聞いて、壁に向かって話す。
「裕さん、どうしたんですか??」
《加奈子さんですか、そちらに、何か時計の音が出ているものはありませんか??》
木村を怖がらせないように、彼は配慮して言った。
 
「ここには何も―――」
木村はそう言って下を見た瞬間、表情が強張った。何か黒いものがある・・・。
それが、犯人達が仕掛けた爆弾だった。動かせないようになっていたのだ。
「ちょっとこれ・・爆弾やないの??」
佐藤が木村に聞く。しかし、いくら気が強い木村でも、答えられない。
「裕さん・・・ありました・・・。これ・・爆弾ですね・・・」
「あ、ホントだ」
連の落ち着いた声。まるで見慣れているかのように。
《加奈子さん、いいですか・・。そこに、いくつの線が見えますか?》
「・・・4本です。赤と、青と、黄色と、緑・・・。」
《そこに何か紙はありませんか?》
木村は探したが、何にも無い。
「ありません・・・。」
「・・・・・これ・・・・動いてますよ?後・・・・86分やて!!!」
「86分・・・・・か・・・・・」
86分――すなわち1時間26分。つまり一時間半も無いと言う事だ。
「うわぁっ、どないする!?4本の線以外にも、中で複雑に絡みあってますよ!?」
《それは・・・・きっと、犯人の内どちらかが爆弾設計図を持っているはずなんです。それさえ手に入れば・・・・・》
「・・・・・・設計図ねぇ・・・・・・・」

その時、コツ・・・と言う足音が聞こえた。
「・・・この音は・・・・・、あの運転手のおっちゃんの足音や!」
「わかるの?」
「うん、ウチ耳ええんよ♪」

佐藤の言うとおり、運転手のフリをした犯人が銃を持ってやってきた。
「おやおや・・・・・・レディが3人残りましたか」
「その言い方やめてくれへん?気持ち悪い」
「おやおや、失敬・・・クックック・・・・・・・・」
「なぁ・・・・爆弾の設計図もってへん!!??」
佐藤が単刀直入に聞く。
「オヤオヤ、知らないねぇ・・・・・・・」

ちょうどその時壁の向こうからコソコソ言う声が聞こえた。
裕が何かの気配を感じたようだ。
《あちら側に・・誰か、3人以外に他の人がいますね》
《そ、それってもしかして犯人だったら・・3人とも・・・》
 庄治は最悪の事態を考えていた。
《加奈子さん》
 裕が呼びかけると、木村は小さく返事をした。
「ハ、ハイ・・・・・・・・」
《犯人・・・いますね?》
「え、ええ・・・・・・偽者の運転手さんです・・・・」
ちょうどのその時。
「ホォ、ちょうど離れ離れになってしまいましたか・・・」
「!!!」
気がつけば、加奈子の目の前に犯人がいた。
「あ、あ、あなた・・・・・・何の目的があって、そんな・・・・・早く解放しなさいよ!!!」
「フッフッフ、甘いねぇ。このまま返すと思うかい?甘いねぇ・・・・俺らは、爆発にまぎれて逃げる。お前らは・・・・・爆発で跡形も無く消える」
それを聞いて加奈子が青ざめる。佐藤が怒ったように言う。
「何言うてはるの!!!!アンタも爆発に巻き込まれるべきやぁ!!!人をこんなトコに閉じ込めて!!!爆弾解除しいやぁ!!」
「残念だが無理だな。生きててもらっちゃ困るんだよ」
「なんでやのん!!」
「なんでもだ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのさぁ」


連の声。
「あ?」
「コレ・・・・・・・爆発したらどんくらい??」
「ハハ、お前らの骨など跡形も無くなくなるわ!!このホテルもろとも木っ端微塵だ!!ま、安心しろ、痛みなど無いからな。痛みなんて感じる間もなく、気がつけばあの世だ!ハハハハハ!!!!」







「・・・・・・・・・・・落としたらどーなる?」











「「「・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・?」」」
木村や佐藤は、連が何を言っているか理解不能と言う表情だったし、それ以前に一番驚愕の表情を浮かべていたのが偽運転手。
「な・・・・お、落とす気か!?」
「悪い?」
「な・・・・落としたら今爆発するぞ!?」
「どーせもう80分後には爆発するんだから、今したって一緒じゃん」
「バカッ、やめろ!!!おい、ガキ!!!!撃つぞ!」
「撃ったら死ぬからコレ落ちるよね。・・・・落ちたら爆発するんだ?」
そういって連はニヤッと少しだけ笑った。
偽運転手には、それが悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「じゃあ・・・・・・解体してくれる?」
「ば、バカ言え!!!!!」
「フーン・・・・・・・・・・・・・・わかった。じゃーいーよ」
「れ、連ちゃん・・・・・・」
偽運転手はホッとしたようだった。
「設計図くれない?そしたら解体できるし」
「オマエがする気か?ガキがか!ハハハハハ・・・・」


「やらないよ、めんどくさい。・・・誰かがやれば良いだけの話じゃん」
「・・・・・・・・ホォ・・・・・」
「・・・・・・・・・ねー佐藤さん」
「えっ??」
佐藤が連のほうを向く。
「この人さぁ・・・・・もう倒していいから」
「あ、ほんと?」
「なっ?何言ってる!?」






刹那。








【ドガッ!!!!!!!】


「・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・」

【ドサッ!!】
偽運転手は一瞬にして倒れた。
佐藤は武術の達人であることを知っているのはなぜか連だけだった。
《加奈子さん、設計図ありましたか??》
「・・・・ありました」
《では・・それに従って切ってください》
「ハイ・・・・」
実を言うと、加奈子はさっきから怖くて怖くて仕方が無かった。むしろ堂々としてられる連と佐藤を羨ましくも思っていた。自分がこんなにも臆病だったなんて・・・と。

でも、今は信じている。自分を、そして壁の向こうにいる裕を。


【プチ、プチ・・・・・】
 
切っている音が聞こえるが、急に木村の手が止まった。
 
「裕さん・・・」
《何ですか?加奈子さん》
「・・・これが、最後の2本なんですけど・・・どっちを切っていいかわかりません。設計図に描いてないんです・・・」
《何色が残ってますか?》 
「赤と、青です。・・・裕さん、どっちを切ればいいんですか?」
壁の向こう側で裕は考えていた。
赤と青・・・・・昔切った時は・・・・・・・・・いや、でも今はヒトリじゃない。
《加奈子さん、僕はあなたを信じますから、あなたが切りたいと思ったほうを切ってください》
 
「で、でも・・私の不手際で皆が・・・・・」


《僕は、加奈子さんを信じてますよ》



その一言で、木村の迷いは消えた。
決めたんだ。裕が信じてくれた自分を信じると。
「・・・好きなほうを切っちゃえばいいじゃん」

「・・・・・・・・・連ちゃん・・・・・・・・・・」
「・・・・・あの人が信じてみるみたいだからね。・・・・自分を信じればいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・裕さん、切ります!!」



(・・・・・でも・・・・どっちなの・・・・!?ああ、ダメ!!!確立は二分の一・・・・・もし・・・当たれば・・・・助かる。でも、でももし間違えたら・・・・!!!!・・・・わからない、一体どっちなの・・・・・・!!??)

「・・・・・・・・・・・・・・・木村はん」
「・・・・・・・・・えっ・・・・?」
「裕さんのこと、好きやろ?」
「え?ええ・・・・・・・・」
「ほな、“この人と生き残りたい!”って願えばええねん。願って何かが解決するわけやないけど、何も信じないよりはマシやで?願うと・・・案外上手くいくかもやで?」
「佐藤さん・・・・・・・・」

(・・・・願う・・・・・・私は、裕さんが好き・・・・・だから、だから・・・・生き残りたい・・・・生きて、裕さんと一緒になりたいの!!!・・・・・・・・・裕・・・さん?・・・・あっ・・・・!そういえば・・・・)
木村は、思い出したかのように佐藤を見る。
「?」
佐藤は、何故見られたかわからないという顔だ。

(・・・・フフフッ・・・・・バカらしいけど・・・・でも・・・・・どうしても、“こっち”は切りたくない!!!)




【プチッ・・・・・・・・・!!!!】



木村は目を閉じながら、赤と青のどちらかを切った。








【・・・・・・・・・・・・・・ピタ・・・・・・・・・・・・】









―――――――――止まった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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