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彼らの心は限りなく硬く。 作者:ガイア

第3回   最終実地試験3
 日は限界まで上り、森林地帯は湿った土から酸素を蒸発し、一層湿気を増やした。地は森林によって影で覆いつくされているが、気温を上げつつあった。
 森林地帯は山一つ全てを占める。よって、食料や水など、戦いの面では生き延びることは比較的楽ではある。が、開始三時間の間に十二人が脱落―死亡―した。そして、その十二人目を殺した者は、
「畜生……」
 連はだった。死体の顔が緊張していたことから、ある程度時間を置いてから殺したのだろう。
 連は刃に付いた赤い滴を払い落とし、血の池に存在する一人の死体に祈りながら悪態をついた。
「こんなの課題なんかじゃない。ミルセアは魔導者討伐と世界保護なはず……。なのに……、なのに……」
 連は馬鹿の一つ覚えのようにただひたすら祈り続けた。

(連、まだ……?)
 一方、縁は樹の中に隠れて連の帰りを待っていた。連が「課題をクリアしてくる」と言って別れてからもう一時間になろうとしている。さすがに縁も心配し始めた。なぜなら、今朝話した松岡あかりとの対戦を援護するのが役目で、もし連が敗れることになったときの応急手当をすぐにできる体勢にしておきたいからだ。
(まさか……)
 縁は頭に過ぎった仮定をすぐに頭から消した。連はそんなことはしない。実際会ったとしても、連は上手く回避すると縁は心で断言していたその時。
「――ッ!」
 縁は一瞬の銃音を逃さず、とにかく地面に速く触れるように降り、着地する。その間に刀を抜き、次の攻撃に備えるために着地と同時には身構えていた。その姿は隙を感じられない。
「……やるねぇ」
「貴方達ね。入口の木陰にいたのは」
「気付いてたんだ」
 二人の男が縁とは二本程離れた樹から降りてきた。二人とも顔、体格共にそっくりで、縁はすぐに『双子』と理解した。
(双子……。厄介な相手ね……。逃げるしかないみたいね)
 双子―正式には一卵性双生児―とは、1つの受精卵が2分して生まれるまれなことで、遺伝子がほぼ同じなため、必ずとはいえないが同じ思考を持っている。例えでいうなら、電話越しでも何が言いたいかわかってしまったり、一番好きなトランプカードが同じだったりするのだ。少なくとも縁のなかでは謎の部類である。
「縁って名前だったっけ?アンタは生き延びる方か?」
「……想像に任せるわ」
(生き延びる方か)
 双子は心で一致をした。一人は自動発射式突撃銃を、一人は拳銃を両手に一丁ずつ所持して、縁を目標に一歩も動かずに静かに構えている。どこでそんな銃まで学園は寄付してくれるのかと縁は心で呟いた。しかし、そうはしていられない。連のために縁は存在し、無論、戦って違反で失格になるわけにもいかず、双子が格下でも難か逃げるしかないのだ。
「ごめんなさいね」
 縁は刀で竜巻を起こすと、木の葉に紛れて消えた。樹の上を軽やかに跳んで逃げることだけを考えた。
(さっきの樹隠れといい、隠れ方が上手いな。しかし―)
 双子も縁を追う。速さは縁に劣ってはいない。木の葉の渦の中心を射撃しようとするが、銃音で自分をばらすのも意味がないので、とにかく追い続ける。
「隠れても、無駄だッ!」
 シルエットとして見えた縁を双子の一人が撃った。しかし、命中することもなく―というよりも縁は存在しなかった。
「いないぞ兄貴!」
「な!」
 兄は振り返り、後ろに迫る縁に恐怖で満ちた。
(しまっ―)
「――ッ!」

「よせ!」
 獲物を狙う獣と化した縁は連によって双子を襲うことは阻止された。双子は状況が巧く読み取れずに呆然と立ち尽くしている。
「お前ら、速く逃げろ!さもないと死ぬぞ!」
 連は縁の刀を力ずくで取ると、樹に突き刺した。双子は連の言葉だけを理解し、慌てて逃げ去った。
「落ち着け縁!」
「何故だ連。何故止める」
 縁はいつもの声より低く、殺気を感じる。それどころか、眼を見れば誰だろうと腰が抜けるに違いないくらい、縁は連にとっても恐怖での存在だった。
 連は少し冷や汗をかきながらも、縁を落ち着かせようとばかりに肩を抑える。性格ががらんと変わることは何回もあった。しかし、この状態だけは慣れられなかった。何を行動するのか、全くもって判らない、そしてどんな心理戦法も無駄でしかなかったからだ。だが、連はとにかく伝えたいことを叫んだ。恐怖を恐れずに。
「課題を思い出せ!武器を使えば失格だぞ!?」
「…………」
 縁は力を抜いた。どうやら連の思いと台詞は届いたらしい。
 安堵のため息をつこうと思ったとき。縁が樹から落ちかけて、本能的に抱き締めて阻止してしまった。それで落ち着いたのか、縁は深く、深く胸元へと吸い込まれていく。
「連……ごめんね……」
「気にするな」
 声を出さずに泣く縁は連にとっても辛くあたった。連は黙って抱きしめ続けた。
(オレはこれしか術を知らないのか。こんなことで縁は楽になるのか?オレは……)
 連は見上げた。悔し涙を隠すために。何処かの歌にあった、涙が零れないように上に向く理由がなんとなく判った気がした。連の視界は深緑の葉と広い青空が映って、異様なほどに二人を包んでくれる気がした。
(……なんて使えない奴なんだ)


 連は日が落ちる前に『家』を探すべきと判断し、縁も同意した。連と縁は樹から降り、数時間歩いた。
「連。バレない?」
 樹数がだいぶ少ない場所へ来た時、縁は聞いた。連は止まらず、多色の葉を踏んで歩いた。
「わざとだ」
「わざと?」
「おそらく、この課題は二種類しかない。生き延びるか殺すかのな。試験終了時間は明後日の午後四時。時間はかなりある」
 連はふと止まると、縁に目で指した。縁は顔は動かず、目だけを左の樹の枝に隠れる人を見た。
「奴らは長時間を掛けて殺す気だ」
「奴ら?複数なの。よく気付いたね」
 連はやや押さえ気味に笑うと、左の腕の時計を見せた。時計を覗くと、そこには点が三つ、赤く光っている。
「これな、探知機」
「便利〜」
「お前も買えば?」
「高そう……」
「確かに、高い。これ、三十万だったな」
「高ッ!」
 連と縁は明るく、楽しく会話をした。が、
「そろそろだな」
「連に任せるから、私を守ってね?」
 連は真面目に、襲いかかろうとしている『敵』からそらさずに言った。
「オレは命ある限りお前を守る。だから、オレから離れるな。いいな?」
 縁はぽっと顔を赤くすると、礼を言った。
「来る…!」

「これで終わりね」
 金髪碧眼の少女が遺体の生徒手帳をポケットにしまうと、髪を手直しした。
「次は、貴方ね」
「そうだな」
 少女は樹の幹に腰掛ける生徒―及川連を睨んだ。
「松岡あかり……。何故本名を隠す」
 連は幹からあかりへ寄った。あかりは連よりかなり身長が低く、見た目ロリだが、口や性格は大人なので、あまり友達がいない。
「本名を使えば……分かるでしょ?」
「分かるさ、勿論。お前とオレは同じだからな」
「態々貴方は髪の色も変えたんだったわね。瞳もカラーでしょ?」
「まぁな。オレは友好主義だからな」
「お人好しはいつか後悔するわよ」
「オレに同情してくれるとは意外だな」
「う、うるさいわね!」
 あかりは頬を少し赤くして怒った。
「連じゃ、私は倒せないわよ」
「どうかな。オレは本気になるのが嫌いでな」
 連は剣を抜きながら言った。
 剣は姿を見せた。剣は連の地から肩までの長さで、幅は拳と同じ。
「そう。でも無理よ」
 一方、あかりは何も持たない。見れば、あかりの胸には円形の鏡が浮いている。
(鏡か。魔法重視の武器で、確か反射系が多いんだったな。むやみな攻撃は避けるか)
(連の剣はとても重いと聞いたわ。つまり、一撃重視。『リフレクトミラー』を
使っていけば問題ないわね)
 あかりは笑みをこぼし、連は一筋の汗を流した。
(オレに分が悪いな。『ブレイク』でいくか…!)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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