「静かに」 テスト担当が教卓に立つと、机上にあるマイクに言った。担当の声は教室内にいる総ての人に注意を促し、担当者に顔を向けた。 「皆、席に着け」 担当の言う通りに席に着いた。すぐに行動出来ない者はこの時点で排除される。 「これから実地試験を説明する。モニターを見れば分かる通り、今回は各自の課題をクリアすること。場所は森林地帯だ。これから移動してもらう。集合時間は二時限終了時間までに」 連は机に内蔵されたモニターを一通り覚え、周りを見た。 (受験数はざっと五十人。先ほどいた六人を含め、二十人くらい、やはりと言うべきか、オレ同様、受験数や見た感じのデータを収集している。頭を上げて周りを見回す人は戦闘を熟知している連中と考えていい) 心でモニターに気を取られている生徒たちを馬鹿にするように笑った。 担当はモニターの説明を終えると、最後に付け足した。 「君達の中から二十四名選抜される。つまりここにいる半分が受かる。君達が最初のミルセアだ。幸運を祈る」 (ミルセア……) (最初の……ミルセア……) 「担当め……」 連の隣に座る、茶色の髪を腰まで伸ばし、水色の瞳をした女生徒が悪態をついた。連も同じ考えだった。「ミルセア」についに成れる希望などの気持ちが一気に其処に注がれる。それは逆手に取れば油断と落ちた時の絶望につながる。この中には一生懸命勉学に励み、ここまでやっと登ってきた生徒が何人もいる。戦い方や技能に全力を尽くした末にたどり着いた、彼らにとっては受かると考えるだろう。しかし、やはり“熟練の差”が違う。訓練所にいた生徒たちは小さい頃から稽古した結果が一次試験をパスしたと断言できる。熟練の差はとても大きい。その熟練の中に“惑わす”という言葉がある。素人は挑発に乗り、冷静さを失い自滅するように、ここでの担当の科白はこれと同じことだ。“この教室に入った時点で合格不合格は決まっている”のだ。 (この女も高いクラスか) 連はちらっと隣を見た。だが、それは逆に自分を締めた。彼女も連を見たからだ。 「貴方、もしかして上?」 生徒は左の人差し指で天井を指しながら、連に聞いた。無視する訳にはいかず―だが、別の話を切り出した。 「アンタ、名前は?」 「自分から名乗りなさいよ」 「その内分かる。言いたくないなら構わない。また後でな」 連は席を立つと、ドアへと歩き、 「立川実夏」 ドアの前で止まった。連は振り返ると、実夏は真剣な眼差しで連を見た。水色の瞳が何もかも見透かすように感じたので、すぐさま向き直り去っていった。 (彼、上ね)
「護」 「はい?」 「及川連と十六夜沁を調べて。私は松岡あかりと天城縁を調べるわ」 「訓練所にいた人達ですか?」 「ええ。もう少し調べる必要があるわ」 「わかりました」
「スズ〜」 「ん?」 「道案内よろしくね〜」 「分かったわ」 「人多いね〜」 「志乃なら受かるよ」 「スズも受かるよね?」 「勿論」
「日向は余裕か」 「雹はどうなんだよ」 「お前と同じ」 「落ちたら絶望的だよな……」 「落ちたら、二度はない」 「雹も気付いてたんだ」 「勿論だ。まぁ、時間制限は長時間だったから、安全に行くぞ」 「任せるよ」
「実夏、誰と話してたんだ?」 「私達より上を行く人」 「マジかよ。四天王か?」 「に、入ってる人でしょうね」 「おいおい……、面倒な奴と顔見知りすんなよ……。ま、行こうぜ」 「そうね」
「縁」 「何?」 「どうする?ペアかソロか」 「組めるなら組みたいな」 「……なら組むか。あかりと戦う分、周囲の護衛をして欲しい」 「分かった。任せて」 「ありがとな」 「気にしないで。がんばろうね!」 「ああ。絶対に課題にもあかりにも勝つ」
* * *
学科通過者と特別合格者の五十三名が学園が所有する森林地帯へ集合した。この中から二十四名が選抜され、ミルセアーリティファイネの称号第一号になれる。 ミルセアーリティファイネとは、極近年の出来事から創られた。共和国アクセルトという権力の強い国があった。自ら喧嘩はしないが、された場合のみ仕返していた。戦力は世界一の称号を持っていた。明らかに強いアクセルトに喧嘩を売るものはいなくなり、いつしか世界の中心となっていた。だが、それも五年前に消え去った。 共和国アクセルトは魔導者ラグセルテの攻撃により壊滅した。たった五分で。ラグセルテはアクセルトに務めていた自衛員だった。しかし、上司に濡衣を着せられ、辞職。怒り満ちたラグセルテは―詳しくは不明だが―悪魔に変化し、憎きアクセルトを今までの属性にない―時空魔法で国ごと破壊した。生存者は当たりまえのように無しだった。 それから、世界はラグセルテが創始しただろう魔物によって闇へと進んでいた。世界は元に戻す為に、三年前にミルセアーリティファイネ組織を結成。内容はラグセルテ討伐及び世界保護。世界各国に組織が作られた。そして、その一組織がこの国、日本にもあり、必修科目の全てが終わる、三年経った今に至る。
「受験生はここから紙をもらって行くように」 担当は手で五箱を指した。箱の上部には拳が余裕で入るくらいの円形の穴が空いている。 「くじ引きか?ランダムでいいのか?」 連は腕を組むと、学園の先生全員の頭を疑った。 「どれも難しいか、逆なのかも」 「ま、どれでもいいが、早めに終わるとありがたい」 「私も」
「な……」「え?」 連と縁は同時に口から漏れた。 「お前なんだった?」 「明後日の午後四時まで生き延びる事って書いてある……。連は?」 「オレは明後日の午後四時までに一人殺せ……」 連は手紙が地に落ちると、拳が震えた。 手紙には『明後日の午後四時までに、一人殺せ。証拠が無ければ失格とする』と書いてある。 「連……」 「縁のを詳しく見せろ」 縁は手紙を渡すと、連の手紙を拾って読んだ。 「『明後日の午後四時まで生き延びろ。何があっても攻撃をしてはならない』だと……?」 連は手紙を縁に返すと、 どかっ。 地面を殴った。地面には拳の跡が綺麗に残っている。 (連、我慢よ。ミルセアに成ればこんなことも時には――) 「行くぞ」 「え?」 「時間はない。俺はとりあえず、課題をクリアしてくるから、お前は入口付近に隠れてろ」 「…………」 「どうした?」 「いや、なにも。気をつけてね」 「……ああ」 縁は連の入学当時と比べれば、成長したことを感じた。入学時は魔物も殺せなかった人だったのに、今ではみじかな人も殺せるようになったのだ。 (自分も同じかな……。にしても……)
「縁って名前か?アイツ」 「らしいっすねぇ」 「美人だな……。アイツ殺すか」 「そうしますか」
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