「ん……」 一面白で覆われた個室に刺している光がベッドで寝ている青年を起こした。 彼は右目を半分閉じた状態で髪を掻くと、ゆっくりと体を起こし、大きな欠伸をした。そして、洗面所へ行き、顔を洗い終わると、ジーパンとTシャツからハンガーに掛けてある黒いスーツへと着替えた。スーツの胸ポケットにある狼の紋章が、彼がネクシェル学園生であることを示している。 スーツを来た彼は一言でだらしない。シャツはズボンから出し、上着のボタンは全て止めず、ネクタイはつけてすらいなかった。そんなだらしない格好でも、彼の顔立ちの良さからか、女子から好人気を持たれている。 彼は焼きあがったトーストにバターを塗って食べようとした時、電子音が鳴った。彼はトーストを銜えながら、玄関を開けた。 「連。まだ朝食取ってないんだ」 横にスライドした扉から、冷風と灰色の髪の長いストレートヘアーに黒の瞳を持った、彼及川連より頭一つ分小さい女生徒だった。 彼女の名前は天城縁。“あまぎえにし”と読む。とても美しい顔立ちに、どんな男でも心を打たれる顔だ。縁は首をやや傾げながら奥を見た。 「あぁ……。すぐに終るから玄関で待ってろ」 連は一気にトーストを突っ込み、奥へと消え去った。そして、間もない内に鞄を持ってローファーを履くと、靴箱の上にあるカードキーを持って家を出る。 出た先の景色は初めての人なら必ずと言って良いほど驚く。 連や縁を含め、ここは学園生のみが貸与されるマンションで、一階二十部屋で十階建て。真ん中には円形の空間があり、一回に庭として存在し、日光が庭へ照らされている。ここはほとんどが機械で、先ほどのカードキーシステムもその一つだ。他にも、エレベーターやインターネットなどが完備されていて、全て学園が無料提供している。 「今日はテストだったな」 「うん」 二人はエレベーターに乗り、テストの話をした。 今日は“最後”の試験で、学園卒業時にもらえる称号・ミルセアーリティファイネの合否が決まる。 「まっ、オレ達には関係ないか」 「ミスさえしなければだけど」 「まぁな。油断はしないが、やはり余裕があると楽だな」 「私達は今回で課題をクリアすれば合格だもんね」 「オレ達も無事に卒業か」 連は到着したエレベーターから出ながら言った。 「ミルセアに成ったら、連と一緒にいていい?」 少し赤くした縁に、連は頷く姿を見て笑った。 「連ってちょっと可愛いね」 「止めろよ!可愛いとか気持ち悪いからやめろよ」 「気持ち悪くないよ〜。ねぇ、腕掴んでいい?」 「はぁ!?見られんの嫌だから却下な」 「そっか。じゃあ、卒業したらしてね!」 「卒業したらな」 「ありがと」 縁は嬉しそうに連と歩いた。
「おはよ、空」 「おはよ〜」 学園の校門を抜けた時、雨宮空は縁に肩を叩かれた。 空は茶髪を後頭上部で団子のように留めていて、瞳はやや茶色。空は笑顔で手を振っている縁にため息をついた。 「彼氏は?」 「あ、置いて来ちゃった」 縁はえへっと笑うと、お構いなしに空と歩いた。そこが縁の良い点でもある。 「どうせ、連も沁と話してるから問題ないでしょ」 「ふ〜ん。一体何話してるのやら……」 空は肩をすくめると、高く建つ白き学園へと目をやった。 学園名はネクシェル学園。私立でとても豪華な学園だ。豪華な理由があり、簡単に言えばミルセアに成ろうと考えるように環境を良くしている。ミルセアとは略称で、正式には“ミルセアーリティファイネ”という。邪悪な魔物及びその主となる魔導師ラグセルテ討伐の為に作られた組織。日本では“特殊選抜自衛隊”と呼ばれ、各国で表には知られないが存在する。今の闇へと沈んでしまいそうな世界を正そうと、ネクシェル学園は各国に分校して存在する。 「縁さ、今日テスト前にウォーミングアップしない?てか、してくれない?」 「空なら楽に受かると思うからあまり必要ないと思うけどなー」 縁は半分ふざけて言うが、あっけなく無視された。 「私はちゃんと受けたいの。実際はこんなに温いものじゃないのよ?」 「分かってるよ。大丈夫、私、甘くないから」 縁は笑うが、空は笑っているとは思えなかった。 (縁とは絶対に戦いたくない。上から四番目に強いからね) 「どうしたの?空」 「別に何も」 「そう?ま、がんばろうね」 「うん」
「連」 「何だ?」 連は隣を歩く、左目が黒髪で隠れている男子に顔を向けて質問を待った。 「今日のテスト、どちらが先にクリアするか勝負しろ」 「何だよ急に……」 「勝負だ」 連は溜息混じりに分かったと一言で返した。 「だが、無理をするな。お前だと、何をするか分からないからな。いいな?沁」 「……あぁ」 沁と連は学園へ入ると、各自の教室へと向かった。
* * *
連が席に着くと縁は、 「空とウォーミングアップしてくる」 そう言って教室を出ていった。連は鞄を一人一つパソコンが収納された机の横に掛ける代わりに、剣を収めた鞘を取った。そして、ゆっくりと剣を抜いた。銀に輝く大きな片刃剣は長年使ったとは思えない程に綺麗で、グリップには小さく狼の紋章―ネクシェル学園最終学年の証である―が描かれている。剣は半分程姿を見せると、ゆっくりと隠れた。金属同士の音が微かに鳴った。 「ん」 連は引き出しの隙間からややはみ出た封筒に気付いた。昨日自分の行動を思い返したが、ここに封筒を置いた覚えはなかった。封筒を手にすると、中の手紙を開いた。 (…………) 連は一人ため息を吐くと教室を出た。 今、この時間はテストの時間なのだが、連を含めた数人は特待生合格していて、次の実地試験の為に、大体は備えている。 連は一人居眠りをしようと考えていたのだが、手紙によってそれは阻止された。 (面倒くさいな……)
訓練所は筋力トレーニングの器具などが多くあり、学園で校庭と体育館の次に広い。また、訓練所には二種類あり、内と外に一つずつある。実地訓練時は主に訓練所を使う、わけではなく、また別に施設が用意されている。 室内訓練所では数人が体を動かしていた。縁と空、沁も含まれる。他に鎌を持つ男女二人と銃を手入れしている眼鏡を掛けた男がいる。 連は沁がいるベンチに座った。 「お前は体を動かさないのか?」 沁は連の顔を見ず、静かに言った。 「ああ」 連も静かに言うと、目を瞑った。連はいつも集中をするときは瞑想をするが、あまり見ないので、沁は少し気合を入れた。
縁は空と交えていた。縁の持つ刀は決して乱れず、空の杖を防御した。 「縁はどうしてそこまで乱れないのか、不思議でならないわ」 「訓練したから」 縁は杖の一撃を流し、縦一閃の反撃を行なった。空は後ろに一歩身を引いたが、攻撃を受けた。 (……付加攻撃ッ!?) 縁の得意技であり、避けづらい技の一種、付加攻撃は攻撃に属性や異常を付加する技で、難易度が高い。今受けた付加は麻痺で、一時的に動きを封じられた。 「私の刀を避けることはしない方がいいかもね」 縁はクスッと笑うと、刀を鞘に収めた。 「これくらいで止めよ?十分体暖まったしね」 「う、うん」 縁は時計が学科試験の終了の十分前を刺していることを確認し、連の隣に座り、連の顔を見た。 (連、集中してる……。何か勝負でもするのかな?) 「沁」 突然、連から声がしたので縁と沁は驚いた。連は目を瞑ったまま話した。 「今日だけは本気でやってやる。今回で最後の勝負だからな。因みに、失礼に言えば、お前と戦っているとは微塵も思わない。ついて来るだけで精一杯だろう」 「な……」 「連、もしかしてあかりさんと?」 連は目を開けて頷いた。 「ああ。さっきな、デスクに手紙があって、あかりと勝負する権利をくれたからな。沁には悪いが今回は本気でいく」 沁はすっと立ち上がると訓練所を出る。 「悪いな、沁」 「あかりさんって松岡あかりよね?」 「あぁ。学園トップの成績を持つ実力者だ」 連はまっすぐ見続けた。 「つまり、トップの座の勝負ね」 「…………」 「頑張ってね」 縁は肩を叩いて言った。 「ああ。行くか」 三人は実地試験説明会場へ向かった。
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