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黒猫の緑眼。 作者:じゅえる

第9回   黒猫の緑眼。ペルシャ猫の髭の先。

漆黒の闇に溶け出しているのは、甘い夜気だ。
雨の上がったばかりの、しっとりと濡れた通りを黒猫が歩いている。
闇から切り出された様に、真っ黒な猫が、足音も無く、しなやかに、素早く歩いているのは艶かしくて美しい。
あたしは猫になりたい。

朝起きると、コーヒーの香りがした。
家にあるコーヒーメーカーは随分使っていないはずなのに、一体誰がコーヒーを煎れているんだ?
あたしはベッドから上半身を起こして、キッチンの方向を訝し気に見ていた。
寝室のドアは、完全に閉められていない。あたしは、閉所恐怖症までとはいかないけれど、密閉された空間がどうしても苦手だ。息苦しくなって、気分が悪くなってしまうから。
1DKのそんなに広くない間取りの部屋で、あたし以外の誰かがキッチンに居るのは(しかもコーヒーを煎れている)間違いなかった。しかもご機嫌に口笛まで吹いている(この曲はなんだっけ?)。コーヒーの香りに混じって、マリファナの匂いが漂って来た。甘くて、良い匂い。あたしの大好きな匂いだ。
あたしはベッドから抜け出すのが億劫になって、再び温かい毛布の中に潜り込んだ。
素肌に触れる柔らかいシーツや毛布の感触が、あたしの感覚を刺激して、堪らなく幸せな気分にさせた。
時計の針は午後2時を指し示している。ブラインドの隙間から黄色く強い光が真っ直ぐに、絨毯の上に射し込んでいた。立ち昇る埃が、光の中を浮遊している。あたしは直ぐに眠くなって、ウトウトしていた。誰かが、キッチンから寝室に入って来た。


”柊の葉。余所から来た兎。変わらない密度。”


良く云えば、其処には何も無くて、悪く云えば、其処には見たくないモノが転がっている。
いい加減な態度で乗り切れたのも、まぁ、今まで運が良かっただけなんだろうと思う。
あたしは元々、要領は悪い方なんだから。

ビールを飲んでは最悪な状態になって、自分の処理できるアルコール摂取量を解っているくせにガンガン飲んで、調子に乗って、記憶が飛ぶ。莫迦だ。

あたしには学ばなきゃいけない事が沢山有る筈なんだ。
今のあたしが向かうべき場所は、何処だ??

宇宙には宇宙人が居るんだって。
そう信じているのは、信じていた方が幸せになれそうな気がするから。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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