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黒猫の緑眼。 作者:じゅえる

第4回   本当に欲しいモノ。美醜。煌めき。折れた翼。

自分が何処に居るのか、何処に向かえば良いのか解らなくなるのは、あたしにとって邪魔な感情だと思う。

その問いに、答えが有るのか、答えを見つけ出したところであたしが行動するかなんて、解る訳ないじゃないか。

人の意見に左右されたり、自分の意見や考えを他人の云う事によって変えたり、そういうのは嫌いだ。
嫌いなくせに、他人の視線を過剰に意識してしまう。誰も気にしていない様な事にすら、過剰に意識してしまう。
あたしは綺麗なモノが好きだ。美しいモノ、強いモノに心を惹かれる。この世に存在する総てのモノに対して、美醜、強弱のフィルターを透してしまう。あたしの感覚のフィルターを通って出てきたモノ達は、きっと酷く片寄っているんだろう。だから、と云うわけではないけれども、あたしは自分の感情や感覚的な感想を相手に伝えようとしたり、解ってもらいたいと思う事はない。あたしと同じ感覚で物事を視ている奴なんて、逢った事もない。期待もしていない。感覚の世界において、独りぼっちだとか仲間外れだとかいう下らない人間的な思考は要らない。それでも、自分の感覚と合ったり、自分の感覚を賞賛されたり賛美、絶賛されると、くすぐったい様な、むず痒いような喜びを感じたりする。

あたしに視えている世界は、美しくも醜くも濃くも薄くも亡い。
どの様な芳香もせず、僅かな悪臭も腐臭も刺激臭も無い。
光も影も薄ぼんやりとしていて、背景との区別もハッキリとしない。
水中に潜っている時の様に、総ての音がくぐもっている。
色彩もパッとせず、しっとりとした湿度も無ければピリピリとした乾燥も無い。

あたしは今直ぐに愛情を与えて欲しいんだ。
あたしだけに注がれる、限り無く深く広く温かい愛を、今までにないくらい欲しているんだ。
寂しくて、淋しくて、誰の体温も感じる事の出来ない世界から抜け出したいんだ。
誰かにこの暗闇から引っ張り出してもらいたいんだ。
あたしには何の光も見えないよ。
寒くて、冷たくて、このまま独りぼっちのまま死んでしまうんじゃないかとばかり考えて、どんどん深みに嵌っていくんだ。
助けてほしいの。
誰でも良いから。
あたしを見て。
あたしを感じて。
あたしの存在を認識してよ。
あたしを必要として。
あたしじゃなきゃ駄目になってよ。
あたししか居ない位、あたしを欲してよ。
何処に行けば助かるの?
何時まで奔れば辿り着くの?
此処では止まっていなければならない?
あたしを呼ぶ声なんて、聴こえないよ。
あたしなんて消えてしまえば良いのに。
感覚なんて要らない。
ただ、今は逢いたいだけなのに。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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