「『じゅえる』はまだ、仕事続けてるの?」 って、『ひなた』くんに聞かれた。「続けてる」って答えたら、 「ふぅん。そう。続けてるんだ。良いね。良いんじゃ無い?」 って『ひなた』くんは言った。 「俺は、その仕事をしている『じゅえる』にとって、凄く良い関係を保てる男だと思うよ」 其れは、風俗の仕事をあたしがしていようと、『ひなた』くんは批判もしなければ軽蔑もせず、この仕事に対して理解があるよ、と言いたかったんだろうか。『ひなた』くんはあたしに逢う前に必ず「綺麗にしてあげる」って云ってくる様になった。あたしが風俗の仕事をして、汚れてしまっていると、自己嫌悪に落ちているとでも思ってくれているのかしら。なんて優しいんだ。『ひなた』くんは、優しいなぁ。大好き。でも、優しいだけだ。 あたしは、風俗の仕事が好きじゃない。汚い見知らぬ男達と、逢って数分の内に当たり前の様に服を脱ぎ、セックスをする。自分で男を選べる訳ではない代わりに、そのセックスであたしは収入を得る。だから、あたしは風俗の仕事が好きでは無いけれど、嫌いにもなれない。噫。泥沼。 仕事があたしを穢しているとは思わない。男達の涎や精液で汚されたあたしの躰は、熱いシャワーで洗い流せば良い。ボディーソープで丁寧に洗えば、男の匂いは消せる。でも何故か、精神的に参る。何でだろう。セックスをする事が、あたしを穢しているとは思わないのに、精神的に参るのは少ししんどい。実は自分で思っているより実際少し傷付いているのかもしれない。可愛い言い方をすれば。仕事をしている時に、どうしても厭な、生理的に受け付けられない男とセックスをする時、「コイツは『ひなた』くん」って目を閉じて思い込む事がある。『ひなた』くんとセックスをするんだと、思い込む様にする。それでも仕事の途中で、「あたし、こんな気持ち悪い男とセックスしちゃってるよ」って思う。本当は、厭な客を『ひなた』くんだと思いたくないし、思い込む事が結局は出来ない。厭な客は、厭な客の儘に決まっている。好きな男とすり代える事は出来ない。『ひなた』くんは、「客を俺だと思ってセックスしなよ」って云った事があった。…解ってない。そんな事は云われなくてもしている。そんな事は云われたくもない。云わないで欲しい。 仕事について告白してしまってから、あたしに対する『ひなた』くんは優しいんだと思う。でも、あたしが躰を売っている事に、『ひなた』くんは何かを思っている訳でもなければ、興味も無いだけなんだ。ただ、優しいだけ。 客の男達とのセックスで、あたしは感じる事が出来る。無感覚ではない。躰の相性が合う男とは、イク事だってある。あたしは、自分がどうすればイケるのかを知っている。これだけセックスをしていれば、自分がどうすれば気持ち良いのか、どうすればイクのかなんて、厭でも解る。客の男達は、あたしのバイブレーターになる。どうせ仕事でセックスするならば、気持ち良くならなきゃ損だと無理矢理思う様にする。厭になろうとすれば簡単に厭になれる。だって、最初から厭なんだから。厭になったら仕事にも行きたくなくなってしまう。だから、仕事を楽しむのは未来永劫無理だけど、セックスという単純な行為を愉しまなきゃやってらんないと思い込む事で乗り切る。客の男達とのセックスでイクのと、『ひなた』くんとのセックスでイクのは違う。どうしても『ひなた』くんとセックスしてると恥ずかしくなったり照れが出る。これは困る。『ひなた』くんとのセックスは、物凄く快感を得る事が出来るんだけれど。そして、1度『ひなた』くんとのセックスでイッてしまったあたしは、『ひなた』くんにあたしがイク瞬間の躰の変化を教えてしまった事になり、『ひなた』くんはイクあたしに快感を覚えて、セックスする時はあたしをイカせようとするようになり、あたしがイッてるかイッてないかが解る様になり、あたしにとってはとてつもなく面倒臭い結果を生んだ。ハァ。あたしは、自分がイク事よりも、あたしとセックスして『ひなた』くんがイク事の方が重要で、嬉しい。 『ひなた』くんは、あたしがイかないとあからさまにがっかりする様になってしまった。
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